尽くさとは?

中国・宋の名僧 法演が弟子に与えた「四戒」の教えの一つに「規矩(きく) 行い尽くすべからず、規矩もし行い尽くさば、人必ずこれを繁(はん) とす」…(規則ばかり言っていると人はうるさがって言うことを聞かなくなる)という言葉があるそうです。
随分昔のはなしですが、朝日新聞の投書欄に載った、小学校低学年の理科のテスト問題に双生児姉妹の答えをめぐる近親者からの投書です。
その問題は、「ゆきがとけたら○○になる」というもので、この○○に答えを書き込むのですが、双生児のうち一人の子供は、これまでの授業で学んだとおり、教師の期待どおり「みず」と記入します。もちろんマルをもらいました。
ところで、もう一人の子供は授業の経過を忘れていたのか、自分の感性で頭の中から湧き出たまま「はる」と答えました。
「雪が溶けたら春になる」も低学年の子供にとって、大きな自然現象を感ずるままに答えたに違いありません。
社会システムが複雑になり、変化するテンポが速く、価値観が多様化する現代、ともすれば公式(思い込みもある)にのみ走り急いで答えを出し、次のステップに進むといった風潮があります。しかしながら子供たちは、ゆったりとした時の流れの中で、自然界で生かされていることを学び、豊かな感性を培い、それぞれに答えを探し、個性を育むことも大切だと考えています。そのための役割を水族園も果たさねばなりません。
昔から、水族園の展示生物と人の食を関連づけて説明したり、観せることはタブーとされてきました。園内のレストランのメニューにも魚肉が禁じられていた時代すらあります。
私は山里で育ち、家が貧しかったこともあって、子供の頃に新鮮な魚介類を見たことも食べたことも余り記憶にありません。魚といえば干物か串焼き、寒い時期にエイの煮付けが食卓に上ったのを憶えています。水族館に連れて来てもらって、エイの泳ぐ姿をはじめて見て驚いたものでした。
今では山里の子供たちでも、スーパーに行けば様々な魚を見ることは出来ますが、それは頭や骨や尻尾がない、綺麗に料理した身だけをトレイに乗せ、ラップを施したものばかりです。寿司屋では、ネタケースに入れた一切れずつの切り身のネタを、手際よく握ってカウンターに運んでくれます。回転寿司に至っては、お皿に乗せた寿司が目の前を通り過ぎるだけで、どこを探しても魚の姿かたちなど見る術はありません。
そのようなことから、水族園でこれまで敬遠してきた、食の分野のタブーを破って、寿司ネタになる生きた魚たちを水槽で泳がせるとともに、それから作られる寿司の見本を併せて展示して、私たちが自然界の恩恵を授かって生かされていることを学んでもらうべく、題して「すしネタのさかなたち」を実施したのです。中には“邪道だ”といったご意見も頂きましたが、概ね好評裡に終えることが出来たと思っています。その後他園館でも同様の展示が行われたことを知り、一層意を強くした次第です。
毎年お正月には、その年の干支にちなんだ魚を展示することにしています。今年は亥年ですから猪にちなんで、背中に縦じま模様があり、猪の子供「ウリ坊」を連想させるイサキを展示しました。
お正月は市内の神社で初詣を済ませた、多くのご家族連れが入園されます。せっかく干支にちなんだ魚を展示するのですから、神社をつくってその御神体として祀り、子供たちにその年の干支を知ってもらうとともに、優しい気持ちで、水族園の魚も一緒に健やかに、一年を過ごせることを願って欲しいと考えたのです。実施に際して、憲法で「信教の自由」が国民固有の権利として保障されるもとで、公立の水族園が、“神社”という特定名称を使うことが許されるのか迷うところでした。事実、昔から神社や寺院は展示に馴染まない言葉として、タブーになっていたのです。
そこで、水族園にお越し頂いたお客様から届く、たくさんの礼状にヒントを得て、タブーを破ることに挑戦しました。そして、言い訳ではありませんが、入園者のご理解を得るために、神社水槽の横に次の立て札をつくりました。
かくしてスマスイ神社は平成17年に建立し、2回目のお正月を迎えました。神妙な顔でスマスイ神社の御神体、干支のさかなを覗き込み、さい銭を投入くださるお客様も多く、好評だと自負しているところです。 さい銭函の浄財は、新聞社の厚生事業に寄付することにしています。
昭和32年5月、須磨の浦風が優しくそよぐ、海辺の地に開館した須磨水族館は、昭和62年の改築を経て、今年50周年になります。
そこで今年は「水族館から水族園、思い出いっぱい、50年」と銘打って、一年を通じて多彩な催しを計画しています。
職員の皆さんには、温故知新を引用して「尊故造新」を目標に掲げ、“50年の歴史を大切にして、新しい水族園を創造する”ことをお願いしています。
21世紀は、心の世紀だとも言われています。子供たちの感性を豊かに育むために、禁忌(タブー)を恐れず、考え、挑戦する水族園でありたいと念じています。

[ 159] 須磨海浜水族園
[引用サイト]  http://sumasui.jp/cont/cont05/umi2504/u250401.htm



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