張っとは?
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騎士団の訓練が終わって寮へと戻る道すがら、ひょっこりと顔を出したプリエラに無理矢理捕まって世間話に付き合わされたウィズラムである。 季節はすでに夏。日の入りも遅くなり気温は日を追うごとに高くなる一方だ。それなのにジリジリと夕陽が照りつける道端で呼び止めるプリエラの思考がまったくわからない。 ただでさえ以前以上に全身黒ずくめで纏わり着いてくるエリオスの存在が鬱陶しいのに、プリエラが相手では強く出れない分疲労が倍だ。 「なにそれ、つっまんなぁ〜い。正直にぃ、リル博士に会えなくてオレ寂しいっ…くらい言えばいいじゃなーい」 ここ最近似たような噂をいくつか耳にしたが原因はおまえかと、ウィズラムは眉間に皺を寄せながら詰め寄った。が。 膨れっ面をして渋々答えたプリエラに、ウィズラムは怒りを通り越して眩暈を覚え頭を抱えてしゃがみ込んだ。 図星のため反論の言葉も出ない。あと3ヶ月もすれば騎士団に入って1年が経とうというのに、未だエリオスの気配が掴めないでいる。こうして後ろをとられることは日常茶飯事だ。 「噂聞いたから冷やかしに。……さ、さぁてそろそろ夕食だわ〜じゃねウィズ!!エリオス様また今度お茶しましょうね〜♪」 ウィズラムの額に浮かんだ怒りマークが見えたのか、プリエラはわざとらしいまでの素早さでエリオスに向かって手を振ると元来た道を走り去っていった。 ここしばらく同じようなパターンが続いている。こんな手に毎度引っかかっている自分に苛立ちも覚えつつ、それでも完全に拒否が出来ない。 それでも受け入れようという前向きな姿勢が備わったことで、ウィズラムは格段に付き合いやすく明るくなった。 「えぇ、おかげさまで今年の秋には最終段階に入れそうですわ。これから陛下に報告がありますので、失礼致します」 気高いと表すのが相応しい微笑みで一礼し、そのまま通り過ぎようとしていた横顔がふいにウィズラムの方を向いた。 心臓が跳ねるのを誤魔化すように出来るだけ怪訝そうな表情を作って見返すと、彼女は余裕の微笑みで返してきた。 ふぅ、と頬に手を添えてわざとらしく溜め息つきながら頭から爪先まで眺められ、怒鳴りたいのを必死に堪えた。 176センチのでか過ぎ女に言われたかねえよと返したことがあったが、その後しばらくミラジュのファンに陰湿な嫌がらせを受け彼女本人からもいろいろと精神的に責められたことがある。 どうにも言い返せずにいたウィズラムの肩を軽く叩いて、ミラジュは来た時と同様に颯爽と回廊を歩いていった。 きっと柄にもなく赤くなっているだろう顔を見られたくなくて、ウィズラムはエリオスを追い越し彼の先を足早に歩いた。 幾度となく身体の関係は築き上げてきたウィズラムだが、誰かを好きになるという初めての気持ちに戸惑い素直になれないでいる。 またミラジュのウィズラムに対する態度も以前より親しさが増した感はあるのだが、付き合いの範囲とも取れる微妙なもので周りからも本当のところはわからなかった。 すでに覚えてしまったエリオスの私室の扉を勝手に開け放ち中へ入ろうとしたウィズラムは、扉を開けた格好で固まった。 そのまま回れ右して帰ろうとしたが、シェオラヴィッチを抱いたままのエリオスが退路を塞いでいてそれも叶わない。 いや、本当はせっせと食事の準備をして働く『アレ』をどうにかしないといけないが、どうやら反射的に現実逃避しようとしてしまったらしい。 それもそのはずだ。自分のご主人様とまったく同じ姿形をしたものが、悪趣味にもメイドルックでいそいそと給仕をしているのだから。……そう、ウィズラムとまったく同じ姿形の、何か。 「先日複製の室内から出しても形を崩さないものが成功したらしく、そのサンプルを1体譲ってもらったんですよ。研究再開を掛け合っていただいたお礼に何か……ということだったので、遠慮なく頂いてきました」 ウィズラムの為に用意された席のすぐ横に、シェオラヴィッチを降ろしてエリオスは自ら溺愛する義弟の椅子を引いた。 つい口にした暴言と共に、脳裏にミラジュの姿が浮かぶ。自分が何をしたのかわかっているのだろうか、あの女は。 『アレ』、と目線でワインを運んでくるコピーを示しながらウィズラムは正面の席に座るエリオスを睨み据えた。 まだ少年っぽさが抜けないとはいえ男のウィズラムにメイド服を着せてる辺り、人として終わっているがそれ以上とは。 「………オレ…おまえへの認識、改めて変えることにする……。先に言っとくけど、良い意味じゃねーからな」 「手厳しいですねぇ……。そうだ、ウィズ。実はデザイン違いの物がもう1着あるので食事の後にでも「着ないっ、却下!!」 食事も終わりコピー奪取に失敗して脱力したまま食後のお茶を貰っていたウィズラムは、突然問われたことに思いのほか動揺してしまった。 それとは反対に冷静過ぎるくらい冷静なエリオスは、ティーカップをソーサーに戻してそれでもにこりと微笑みかける。 膝の上で丸くなっているシェオラヴィッチの毛並みを気まぐれにいじりながら、ウィズラムはエリオスを訝しげに見やった。 話題はどうかと思うが珍しく真面目な雰囲気のエリオスに、ウィズラムも仕方なさを前面に押し出しながら話に付き合うことにした。 「そんな風に『なんでもない』を装いながら言われても説得力がありませんよ、ウィズ。……17にして初恋ですか」 「私はね、ウィズ……とても嬉しいんです。あなたがここへ来たばかりの頃を思うと、とても……嬉しいんです」 「嬉しい……それと同時に、何とも言えない悔しさと寂しさが私の中に湧き上がってくるんです。ウィズ……あなたが誰かを特別に想うことで」 「そうですねぇ……私はブラコンですね。ウィズを誰にも渡したくない、もう私の目の届かないところへ行かせはしない、そしてずっと……いえ…義兄として、祝福すべきなんです」 片眼鏡を直しエリオスは黄色の双眸にウィズラムを映した。それがあまりにも穏やかで、逆に居心地悪くウィズラムはシェオラヴィッチを抱え上げると席を立った。 そのまま回廊を歩き、ついには走って騎士団寮まで戻ると飽きずに届けられていた切り貼り手紙の封筒も無視し、まだ戻っていなかったリヴェルトを待たずシーツを被って寝に入った。 「いざこの時になって、らしくもなく臆病になってしまうなんて……ふふ、まだこんな自分が残っていたんですねぇ」 後片付けに黙々と働いているウィズラムのコピーを腰から抱き寄せ、エリオスは物言わぬコピーの首筋に顔を埋めた。 |
[ 111] 第2部 第15章 喜びと、寂しさと
[引用サイト] http://www5f.biglobe.ne.jp/~maker-maker/f15.htm
