に対するとは?

本審議会は、平成9年6月16日付け総共第261号をもって諮問された「男女共同参画社会の実現を阻害する売買春その他の女性に対する暴力に関し、国民意識の変化や国際化の進展等に伴う状況の変化に的確に対応するための基本的方策」に関し、調査審議を進めてきたところであるが、これまでの調査審議の結果を別紙のとおり取りまとめたので、答申する。
本答申は、我が国における女性に対する暴力に関する基本的方策に係る初めての答申であり、また、この問題を更に深く検討するためには、女性に対する暴力の実態を明らかにするなど基本的な取組を進める必要性があることから、上記諮問に関し基礎的な部分を中心に取りまとめ、当面の取組課題を提言するものである。
政府においては、本答申の提言する課題に対し、その緊要性にかんがみ、着実かつ速やかに取り組むことを期待するものである。
本審議会は、平成9年6月16日に、内閣総理大臣から「男女共同参画社会の実現を阻害する売買春その他の女性に対する暴力に関し、国民意識の変化や国際化の進展等に伴う状況の変化に的確に対応するための基本的方策」について諮問を受けた。
そもそも、暴力というものは、その対象の性別を問わず、許されるべきものではないが、特に、女性に対する暴力は、女性に恐怖と不安を与え、女性の活動を束縛し、自信を失わせ、女性を男性に比べて更に従属的な状況に追い込む重大な社会的・構造的問題であり、男女共同参画社会の実現を阻害するものである。現実に、性に起因する暴力である性犯罪における被害者や、夫婦間の暴力における被害者の中での女性の割合が高いことからも、特に、女性に対する暴力についての早急な対応が必要とされるところである。
このような問題意識の下、本審議会は、前述の諮問を受けた同日に、女性に対する暴力部会を設置し、調査審議を重ねてきた。その間、専門家や関係省庁からヒアリングを行い、また、平成10年10月30日には、それまでの審議を取りまとめた「中間取りまとめ」を公表するとともに、女性に対する暴力の実態やその取組に関する現状について、専門家等から情報を求めた。その後、更に調査審議を重ねてきたところであるが、ここに、これまでの調査審議の結果を取りまとめ、以下のとおり答申するものである。
本章では、女性に対する暴力に関する国際的な動向及び国内の取組について述べるとともに、女性に対する暴力の多様な形態について概観する。
国連において女性に対する暴力について明確に取り上げられるようになったのは、1980年代に入ってからと言われている。1985年に開催された「『国連婦人の十年』ナイロビ世界会議」以降の女性に対する暴力に関する国際的な主な流れは、以下のとおりである。
標記会議は、1975年(昭和50年)の「国際婦人年」に続く「国連婦人の十年」の締めくくりとして、1985年7月にケニアで開催された。同会議で採択された「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」では、婦人に対する暴力はあらゆる社会の日常生活の中に様々な形で存在しており、平等、発展、平和の目標を実現する上での主要な障害となっていると認識されている。そして、「特殊な状況の婦人」の問題として、「虐待されている婦人」「人身売買、強制売春の犠牲となっている婦人」が取り上げられている。
1993年6月に開催された標記会議では、「ウィーン人権宣言及び行動計画」が採択された。同宣言には、「文化的偏見及び国際的売買に起因するものを含め、性別に基づく暴力並びにあらゆる形態のセクシュアル・ハラスメント及び性的搾取は、人間の尊厳及び価値と両立せず、撤廃されなければならない。」とうたわれ、同計画には「公私における女性に対する暴力の撤廃へ向けての作業の重要性を強調。国連総会に対し、女性に対する暴力に関する宣言案を採択することを要請するとともに、各国に対し、同宣言案の規定に従い女性に対する暴力と闘うことを要請。」が盛り込まれた。
標記宣言は、1993年12月に開催された第48回国連総会で採択された女性に対する暴力の根絶を目指した国際文書である。同宣言が採択されるに至った背景には、上述のように、「婦人の地位向上のためのナイロビ将来戦略」や「ウィーン人権宣言及び行動計画」において、女性に対する暴力が徐々に大きく取り上げられるようになってきたという経緯がある。
まず、同宣言の第1条では、女性に対する暴力について、「女性に対する暴力とは、性別に基づく暴力行為であって、女性に対して身体的、性的、若しくは心理的な危害又は苦痛となる行為、あるいはそうなるおそれのある行為であり、さらにそのような行為の威嚇、強制もしくはいわれのない自由の剥奪をも含み、それらが公的生活で起こるか私的生活で起こるかを問わない。」と規定している。また、同宣言は、「女性に対する暴力は女性による人権及び基本的自由の享受を侵害し及び損ない又は無効にすること」、「女性に対する暴力は、男女間の歴史的に不平等な力関係の現れであり、これが男性の女性に対する支配及び差別並びに女性の十分な地位向上の妨害につながってきたこと、及び女性に対する暴力は女性を男性に比べ従属的な地位に強いる重要な社会的機構の1つであること」等を明らかにし、さらに、女性に対する暴力を撤廃するための施策の推進を求めている。
1995年9月に北京で開催された標記会議において、「北京宣言及び行動綱領」が採択された。「行動綱領」の12の重大問題領域の1つとして、「女性に対する暴力」が掲げられ、そのための戦略目標として、「女性に対する暴力を防止し根絶するために、総合的な対策を取ること」、「女性に対する暴力の原因及び結果並びに予防法の効果を研究すること」及び「女性の人身売買を根絶し、売春及び人身売買による暴力の被害女性を支援すること」の3つが挙げられている。
以上、女性に対する暴力に関する国際的な動向を概観した。我が国においても、売春防止法制定等、従来から問題の一端は取り扱われてきたが、近年、国際的な動向を受けて、女性に対する暴力の問題が次第に大きく取り上げられるようになってきた。
平成8年7月には、男女共同参画審議会が「男女共同参画ビジョン」を答申したが、同答申では、「女性に対する暴力の撤廃」という項目を立て、その中で、女性に対する暴力について、女性の人権を保障する視点に立って実効的に対処する必要があること、暴力の被害女性に対する治療や相談、社会復帰のための場を提供するなどの保護・救済を図ること、被害女性に直接携わる職員の研修を充実すること、女性に対する暴力の撤廃に向けた広報・啓発を行うこと等を提言している。
この答申を受けて、同年12月には、男女共同参画推進本部が、政府の国内行動計画である「男女共同参画2000年プラン」を策定した。同計画は、11の重点目標の一つに、「女性に対するあらゆる暴力の根絶」を掲げ、この目標を達成するための施策の基本的方向として、「女性に対する暴力に対する厳正な対処」、「被害女性に対する救済策の充実」、「女性に対する暴力の発生を防ぐ環境づくり」及び「女性に対する暴力の根絶に向けての関係諸機関の連携強化と総合的対策の検討」の4つを挙げている。この「男女共同参画2000年プラン」に沿って、政府の取組が進められており、最近では、男女雇用機会均等法の改正、人事院規則の制定等、セクシュアル・ハラスメントの防止のための法令の整備も行われている。
また、平成10年10月30日には、総理府の主催により、「女性に対する暴力の根絶を考えるフォーラム」が約500人の参加を得て開催された。同フォーラムは、女性に対する暴力の実態と被害の潜在化の理由等について考え、女性に対する暴力の根絶に向けて社会の気運を高めることを目的としたもので、前記の男女共同参画審議会女性に対する暴力部会の「中間取りまとめ」も、同フォーラムの場で公表された。
女性に対する暴力は、性犯罪、売買春、夫・パートナー等からの暴力(*1)、セクシュアル・ハラスメントなど様々な形態があるが、女性に対する暴力の根底には、女性の人権を軽視し、侵害するという共通点があると考えられる。しかしながら、現状においては、女性に対する暴力の問題の重大性は人々に十分に理解されているとは言えない。例えば、夫婦など身近な関係の中で行われるものであっても暴力は暴力であり許されるものではない、といった基本的な認識が十分に浸透していない。
人々が女性に対する暴力に目を向け、その問題に気付くためには、女性に対する暴力が、日常の様々な場面において様々な形で生じるものであると認識することが大切である。そのために、まず、女性に対する暴力を多様な視点から見ることとする。多様な視点から女性に対する暴力をとらえることは、今後の女性に対する暴力の防止対策等の検討にも有用である。女性に対する暴力への視点は、必ずしも次に挙げるものに限定されるものではないが、以上のような問題意識の下、女性に対する暴力について考察する。
身体的暴力としては、殴る、蹴る、首を絞める、物を投げつけるなどが挙げられ、性的暴力としては、望まない性行為を強要するなどが挙げられる。また、心理的暴力として、怒鳴る、罵る、「○○しないと離婚するぞ。」などと脅す、執拗につきまとうなどが考えられる。
暴力の加害者は、年齢、学歴、職業等にかかわりなく様々である。見知らぬ人に限らず、家族、友人、職場の人等の知人も加害者となっている。
暴力を受けても、その行為が暴力であると意識される場合とされない 場合がある。例えば、妻が、夫から暴力行為を受けても、「夫が殴るのは愛情があるから。」と考える場合があり、第三者にもそれが暴力であると意識されない場合も少なくない。
女性に対する暴力に、金銭、薬物やアルコール等が介在することにより、暴力そのものの問題に加えて、金銭や薬物等の問題が絡み、複雑な問題が生じる場合がある。また、テレホンクラブ、伝言サービス(*2)、インターネット等が見知らぬ者同士を引き合わせる契機となっており、これらを利用して知り合った女性に対する暴力が徐々に社会問題化している。これらは出会いの契機に過ぎないが、匿名性が強いことからそれを悪用して暴力が行われやすくなり、かつその解決を困難にしている側面があると言えよう。
(*1) 家庭内暴力という言葉からは、日本では、親子間の暴力が想定されることが多いと思われるので、ここではこの言葉は用いない。なお、ドメスティック・バイオレンス(DV)という言葉も専門家を中心に使われ始めている。
(*2) 特定の電話番号に電話をかけ、音声メッセージを録音し、また、録音された音声メッセージを呼び出して聞くことができるサービス。
提供会社やサービスの種類により利用方法等は異なるが、録音、再生のための電話番号等を容易に知ることができ、不特定多数の男女が利用可能なものもある。
国際的に問題となっている女性に対する暴力として、例えば、女性性器切除(*1)のように、伝統的ではあるが女性に対して有害なものや、持参金に関連した暴力(*2)のように、伝統的な慣習に伴って行われる暴力がある。これらについては本答申で直接扱うものではないが、このような例を認識することは、我が国において慣行・慣習と思われているものの中に、女性に対する暴力が隠されていないかを考える上で、また、今後、慣行・慣習の名の下に女性に対する暴力が容認されることのないよう留意する上で、大切なことであると思われる。
(*2) 南アジアなどの一部の国において見られる。女性が結婚する際、持参金を先方に支払う必要があるという慣行があり、持参金の額が少ないために、夫やその家族から虐待され、焼き殺されることもある。
暴力は、自己の欲望を満たすために、自己への従属を強いるために、あるいは感情のはけ口とするために用いられるなど、暴力を受ける相手の苦しみや屈辱を無視して行われるものであり、人権の軽視の表れと言えよう。女性の人権が尊重されていない社会は、女性に対する暴力を生み出しやすい構造となっており、よって、女性に対する暴力は当事者だけの問題ではなく、社会的な問題としてとらえるべきである。
売買春は、女性の性を商品化し、金銭等により売買するものであり、女性の尊厳を傷つけるものであるが、我が国の社会では、売買春を容認する人の割合は相当高いと言える(*)。これらの背景には、性に関する倫理観についての国民意識の変容とともに、性を商品化する性産業の多様化、性に関する情報を発信する様々なメディアの氾濫といった社会環境の変化があると言えよう。
(*)成人同士の売買春について、どのように感じるか聞いたところ、「当事者間に合意があれば、なんらとがめることはない」(女性7.2%、男性13.5%)、「当事者間の合意があれば、よくないことだが、やむをえない」(女性26.8%、男性40.5%)となっている。両者を合わせた売買春を容認する者の割合は、女性34.0%、男性54.0%となっており、男性では過半数を占める。年齢別でみると、年齢が若いほど売買春を許容する割合は高い傾向にある(「男女共同参画社会に関する世論調査」総理府 平成9年9月)。
攻撃的であることは、男らしさの一形態であり、ある程度は許されると 受け止める風潮や、男性の性欲は衝動的な面があり、自分で抑制できないことがあってもやむを得ないとする風潮があるなど、男性が女性に暴力を振るうことを社会が見過ごしがちである。
実際には、友人、知人、親戚など顔見知りの者から性犯罪の被害に遭うことが比較的多いことが分かってきているにもかかわらず、一般的には、「性犯罪は見知らぬ人によってなされる。」と思われがちであると考えられる。
女性に対する暴力は、女性の人権の享受を妨げる重大な問題であるにもかかわらず、社会は、女性に対する暴力を十分深刻な問題と受け止めているとは言えない。このような女性に対する暴力についての社会の無関心が、女性に対する暴力を生み出す原因の一つとも考えられる。
暴力の被害者に対して、「襲いかかられても、必死で抵抗すれば逃げられるはずだ。」「被害者側にも隙があるから、被害に遭うのだろう。」といった先入観があり、そのような先入観に起因する言動や態度が被害者を更に傷つけるという二次的な被害を引き起こしている。
以上述べたほかにも、女性に対する暴力を生み出す社会的な様々な背景が考えられる。例えば、性犯罪の加害者は、被害者が被害を警察等に訴えることが少なく、性犯罪を行っても捕まる可能性が低いだろうと思い込み、犯行に及ぶことがあると考えられる。
女性に対する暴力は潜在化する傾向がある。本章では、なぜ女性に対する暴力の被害が潜在化するのかその理由について考える。
被害について相談する窓口(警察や民間の相談窓口等)や暴力から逃れるために駆け込む緊急一時避難所(「シェルター」等と呼ばれている。)の連絡先や利用方法がわからないこと、必要な施設が身近にないこと、利用する際に心理的な抵抗等があることなどの理由で、そのような窓口等が利用しづらいことが挙げられる。
被害に関する捜査や事情聴取、裁判などの過程における担当者や、被害を相談したり診療を受けたりする際に接する担当者等から、被害の状況を繰り返し尋ねられたり、性的な経験を聞かれたり、心無い言葉をかけられたりすることなどにより、被害の苦しみを再度受けることを二次的被害と言うが、こうした二次的被害をおそれ、被害者が被害の届出をやめてしまう場合もある。また、その事件や被害に関する報道により、被害者のプライバシーが侵害されるなど、メディアからも二次的被害を受けることがあり、これらが被害を潜在化させる一因ともなっていると考えられる。
被害を受けた精神的なショックにより、事件当時の記憶の忘却等記憶の変容、無気力、感情の麻痺等が生じ、その結果、被害が潜在化することもある。
被害者が暴力から逃れようと考えても、経済的、社会的、精神的な理由により、暴力から逃れることが困難であり、暴力を忍受するほかなく、被害が表面化しないことも多い。
例えば、夫から暴力を受けている妻の場合、妻が仕事に出るのを夫が許さなかったり、就職先がなかったり、仕事を持っていても十分な給料が得られないという事情により、経済的に自立するのが困難なため、夫から暴力を受けても夫から逃れるという選択を採ることができない例も多い。夫から逃れたものの、福祉関係の申請や子どもの学校等のために住民票を動かしたこと等により、夫に居所を知られ、連れ戻されるケースもある。こうした事情が、被害を潜在化させる理由の一つとなっていると考えられる。
まず、被害者自身が暴力の被害を受けたことを恥ずかしいと感じたり、そのことを世間に知られると家族に迷惑がかかるなどと世間体を気にしたりすることにより、被害が潜在化することがある。「暴力を受けたのは、自分にも落ち度があった。」などと自分を責めたり、自己嫌悪に陥る場合もある。また、夫からの暴力の被害者の場合では、「妻は暴力に耐えるべきだ。」と思い込んだり、「子どものために夫婦は一緒にいなければならない。」と考えることにより、暴力を表ざたにしないこともあると考えられる。
被害者自身に限らず、被害者の家族や友人など被害者の身近な人々の意識によっても、被害が潜在化する可能性があると考えられる。被害者の家族等が世間体を気にして、被害を隠すこともある。また、被害者が好奇の目にさらされたり、事件のことを何度も聞かれたりすることにより、更に傷つくのではないかと思いやる気持ち等から、家族が被害を表ざたにしないこともあると考えられる。
本章では、女性に対する暴力そのものではないが、関連するいくつかの問題点について考えることにより、女性に対する暴力が抱える様々な問題が広範であることを認識したい。
女性に対する暴力は、女性の心身の健康、特に妊娠や出産等の生殖機能に係る健康に対しても深刻な影響を与える。例えば、望まない妊娠、中絶、あるいはHIV/エイズ等性感染症の罹患等が考えられる。このように、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(*)の観点からの問題も生じる。
(*)「男女共同参画ビジョン」では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを、「性と生殖に関する健康・権利」と訳している。リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、1994年にカイロで開催された国際人口・開発会議で提唱された概念で、安全な妊娠・出産、性感染症の予防等を含む女性の生涯を通じた性と生殖に関する健康とその権利を指す。
女性に対する暴力は、子どもにも影響を及ぼすことがある。特に、夫から妻への暴力の場合、子どもまで巻き込まれて暴力を振るわれることがある。また、幼児期に自分の母親が父親に殴られたり言葉の暴力を受けたりしているのを目の当たりにした子どもが、自らの感情を暴力で表現することを身につけ、成長してから暴力を振るうようになるといった報告もあり、女性に対する暴力が子どもに与える影響の深刻さが窺われる。
女性に対する暴力に関連する問題の一つとして薬物の使用が挙げられる。例えば、性的な快楽を得るために女性に薬物を使用させたり、女性を薬物中毒にして薬物と交換に売春行為をさせたり、女性に薬物を飲ませ正気を失っている間に犯罪を行うということがある。このように、薬物と女性に対する暴力は深い関係がある。
使用が違法である薬物と異なり、アルコールはより身近であるがゆえに、アルコールと関連する女性に対する暴力の問題はより日常的に発生している。アルコールを飲んだ勢いに乗じて暴力を振るったり、アルコールを飲ませて酔わせた女性に対し性行為等に及ぶなど、身近な生活の中でアルコールと関連した女性に対する暴力が見聞きされるところである。
我が国では、雑誌、ビデオ等のメディアを通じて、性を商品化するポルノや暴力表現等への接触が容易になっており、このような環境が女性に対する暴力を容認する風潮を助長するおそれがあることは否定できない。特に近年は、インターネット等の発達により、国内外を問わず、コンピュータネットワークを利用したポルノ画像や暴力表現等への接触が容易になりつつあるなど新たな問題が生じている。
本章では、前章までに考察してきた女性に対する暴力を生み出す社会的背景や被害の潜在化とその理由等を踏まえ、女性に対する暴力への対応の現状と問題点について考える。
女性に対する暴力は、第3章で考察したとおり、被害が潜在化しやすく、その実態が明らかにされにくいという性質がある。そのため、女性に対する暴力の問題が社会的な課題として十分理解されず、さらにこのことにより、女性に対する暴力の実情を把握することの重要性が認識されてこなかった。
女性に対する暴力の実態を正確に把握することが、女性に対する暴力に関する社会の問題意識を高め、対策の必要性を広く理解させ、様々な取組を各分野で押し進めることの推進力になることを考えると、女性に対する暴力の被害の実態を明らかにする統計等が少ないことは、重大な問題であると言えよう。
第3章において被害の潜在化の大きな理由に挙げたところであるが、被害について相談する窓口や緊急一時避難所(シェルター等)の連絡先や利用方法が分からないこと、身近にないこと及び利用する際に心理的な抵抗等があることなどの理由で、そのような窓口等が利用しづらいことが挙げられており、これらの窓口等を充実させ、利用しやすくする必要がある。
暴力により心身に大きな衝撃を受けた被害者への対応に当たる担当者には、そのような被害者の心理状況等を踏まえて適切に対応するための知識や技能が必要とされる。被害者に対する二次的被害を防止するためにも、被害者に接する担当者の研修等が重要である。
被害者の援助に当たっては、被害の状態や段階に合わせて、適切に対応をする必要がある。例えば、身体的な被害への対応のみならず精神的な被害に対するカウンセリング等の対応も重要である。また、危険が差し迫っている状態にある被害者への対応、被害直後の対応、心身の健康の回復や安定した生活の確保のための長期的な対応などが考えられる。被害を避けるための予防的な措置も重要である。
このように、被害者に対する援助には様々なものがあり、被害者の状態等にあわせて、これらの対応を組み合わせて行うことが、被害者の支援・援助を効果的に行う上で大切である。そして、警察、医療機関、各種相談機関、民間の被害者援助団体等の関係機関・団体、専門家等が相互に十分連携を取りながら、被害者に対応していくことが望まれる。
女性に対する暴力は、人権に関わる重大な問題であることから、行政は積極的に対応を行うべきであるが、現状では、この問題に対する行政の機能が十分ではないと思われる。例えば、売春防止法に基づき都道府県ごとに設置されている婦人相談所は、一時保護機能を有していることから、暴力の被害に遭った女性が緊急に利用する場合も見られるが、本来婦人相談所は売春防止法に規定された女性を保護、援助するための施設であることから、暴力の被害者への十分な対応が難しいという現状がある。
女性に対する暴力は、夫から妻への暴力に見られるように、同一人物が暴力を繰り返すことが多いと報告されている。したがって、加害男性に対するカウンセリング等の暴力の再発を防止する措置が、女性に対する暴力の問題を解決する一つの方策になると考えられるが、現状では、加害男性に対する働きかけが十分行われていないと言えよう。
売買春は、女性の性を商品化し、「モノ」として扱うものであり、女性の人権の軽視の一つである。売買春に関する現状として、性産業が多様化していること、かつては売春は生活のためにやむを得ずするものという側面が強かったが、近年では売買春の動機が多様化していること、いわゆる「援助交際」等若年層が売買春へ関与していることなどが見られる。このような現状を踏まえ、速やかに適切な対応を採る必要がある。
また、外国人女性に係る売買春の問題も看過できない。外国人女性の売買春については、外国人女性が強制的に売春をさせられている場合が報告されていること、外国人女性が売春から逃れようと思ってもその手段や相談先に関する情報が伝わらなかったり、日本語が十分分からないために助けを求められなかったりする場合も考えられることから、その点を十分考慮に入れた対策が必要であると考えられる。
我が国における、女性に対する暴力の実態や、それに対する人々の意識を把握するための調査を実施することが緊急の課題である。新規の調査を実施するとともに、既に政府が定期的に行っている調査を十分に活用することにより、女性に対する暴力の実態等を把握するよう努めるべきである。
また、我が国に関する調査に加え、諸外国の取組等の実情を把握することも重要である。すなわち、諸外国における女性に対する暴力に関する法制度や行政・民間による取組の現状を調査し、我が国の女性に対する暴力の実態や取組の現状と照らし合わせることにより、法制面を含めどのような対策を我が国が取り得るかという検討を進めることが重要である。
女性に対する暴力の実態と同様、女性に対する暴力を扱う関係機関・団体、専門家等の活動が十分把握されていない。女性に対する暴力を扱う関係機関・団体、専門家の数や種類、活動内容について行政が十分把握することは、行政が今後、どのような対策を進めるべきかを検討するに当たり、必要不可欠である。
政府は、女性に対する暴力を扱う関係機関・団体、専門家や個人(ボランティアを含む。)等が十分機能し、または、活動できるよう支援を行うべきである。そのため、政府は、地方公共団体、関係機関・団体、専門家等に対し、女性に対する暴力に関する各種情報(女性に対する暴力に関する各種統計、情報、関係団体等の活動状況、被害者の援助に有用な情報等)を提供したり、研修の実施等に努めるべきである。また、その研修を効果的に行うため、被害者への対応等に役立つマニュアルの作成等の工夫に努めるべきである。そして、研修等の実施の際には、行政機関、関係機関・団体、専門家等の相互の連携の促進にも十分に配慮することが大切である。
政府は、売春防止法に基づく婦人相談所の役割も含め、女性に対する暴力の現状に対応するため、公的機関の在り方について検討を行うべきである。その際には、被害女性に接する職員の意識啓発、研修や職員の配置に当たっての十分な配慮が必要である。
女性に対する暴力の防止及び取組の推進のためには、社会の一人一人が女性に対する暴力が人権侵害であることを十分理解することが重要であり、そのためには、政府は、多様な媒体を通じた広報・啓発活動を推進する必要がある。その際、被害を相談できる窓口等の連絡先や相談の方法や手続等についての情報が、被害女性などその情報を必要としている人へ届くように配慮する必要がある。外国人女性の被害者に対しても情報が届くよう、外国語による広報に努める等配慮する必要がある。
また、女性の人権を尊重し、性に関する理解を深めるため、子どもの時からの性教育や、男女平等を推進する教育・学習の充実を図るとともに、保護者及び教員の意識啓発を一層推進する必要がある。
女性に対する暴力の再発を防止する対策として、加害男性へのカウンセリングや教育等が考えられるが、どのようなカウンセリング等が効果的であるかを調査研究すべきである。
女性に対する暴力の問題を根本的に解決するためには、女性の人権が尊重されるとともに、女性が経済的、社会的、精神的に自立できるための具体的な施策を講じることが必要である。現在、政府の最重要課題として男女共同参画社会の形成の促進のための施策が積極的に進められているが、こうした流れの中で、女性の尊厳が重んじられ、かつ、女性がより自立できるようにするための政府の取組が今後更に進められるべきである。
以上見てきたとおり、女性に対する暴力は、人権に直接関わる深刻な問題であるにもかかわらず、その重大性は未だ十分認識されているとは言えない状況にある。我が国においても、女性に対する暴力についての取組は、関係機関によってはかなり進んでいるが、総合的な取組としては、緒に就いたばかりである。今回の答申は、国の審議会として女性に対する暴力の問題を初めて包括的に扱ったものであり、女性に対する暴力に関する基礎的な問題を中心に取り上げたものとなったが、ここに提言した当面の取組課題を、政府が着実かつ速やかに解決していくことが、この分野に係る取組を加速度的に推進していくための重要かつ不可欠な基盤となるものである。
本答申のこのような趣旨を政府においても十分理解し、本答申の提言する取組を着実に実施するとともに、女性に対する暴力の問題について、更に検討を深め、総合的に施策を推進することを期待するものである。そして、女性に対する暴力が根絶された社会の早期実現を望むものである。

[ 72] 女性に対する暴力のない社会を目指して(答申)
[引用サイト]  http://www.gender.go.jp/toshin/toshin-kakutei.html

琵琶湖に流れこむ河川は一級河川だけでも120本近くあり、またそれぞれの河川はさらに小さな支流をもち、滋賀県全体がまさに河川水系の網目に覆われ、人間でみる毛細血管のように大地を潤し、多様な生き物を育みながら、私たちの暮らしや産業をささえてきました(図−1琵琶湖水系図)。
滋賀県における人と河川のかかわりの歴史をふり返ってみると、豊かな恵みをもたらす河川は、時として大雨による洪水の牙をむき、人びとを苦しめてきました。私たちの先人は、水を利用する仕組みをつくりだすと同時に、上流部では水を治める森林を守り、平野部では人びとの力で連綿と堤防を築き、川辺林をつくり育て、地域での水防組織を強化し、命と財産を守る巧みな仕組みをつくりあげてきました。琵琶湖周辺の河川地域を30年以上にわたり訪問調査をしてきた私自身、これらの地域社会の仕組みに改めておどろかされました。
しかし、戦後の高度経済成長の中で、急速に都市化や工業化が進んだ滋賀県では、地域社会における治水や水防の仕組みは次第に弱まり、行政への依存度が高まってきました。幸い、過去50年近く、大きな降雨が少なかった滋賀県では、治水安全度が十分に確保されない地域においても、大規模水害の被害を受けることは少なく、水害への社会的関心は次第に低くなってきました。特に急速に都市化が進んだ地域においては河川がもたらす潜在的危険性は必ずしも強く意識されてきませんでした。
そのような中で、私は県内で建設が計画されているダムについて、マニフェストの中でいったん凍結を宣言し、地域住民の皆様との対話を通じて見直していきますと表明いたしました。マニフェストに示した「ダムの凍結・見直し」は、潜在的な水害の危険性を県民の皆さまと共有し、計画規模以上の洪水(超過洪水)を含め、どのような洪水にあっても死者を出さず、壊滅的な被害を防ぐ治水対策はどうあるべきか、そして同時に、自然の生態系や生き物の宝庫、また文化の源泉でもある河川の力を活かしながら、多面的な河川政策をどう組み立てていくべきか、その学びと対策を練り直したい、という河川管理者としての責任から発したものでもあります。この基本的立場は知事就任後6ケ月(平成19年3月)を経た現在も変わっておりません。
特に近年の地球温暖化の影響から、異常降雨の危険性が高まり(資料1)、滋賀県でもいつ大水害が起きるかわからない状況になっております。近年の東海豪雨(平成12年)や新潟・福島豪雨(平成16年)(資料2)、福井豪雨(平成16年)(資料3)等をはじめ異常気象によると思われる豪雨災害を受けて、ダムも含めたハードな河川整備だけでは、超過洪水が発生したときに死者を出さず壊滅的な被害を防ぐ洪水対策にはつながらないとの主旨であります。
本県におきましては、幸いにも近年大きな水害が発生していないことから、水害の怖さを知っている人が少なく、ダムや河川整備が出来たから、或いは出来そうだから安心という事で下流地域の人々の水害への関心はともすれば低くなってしまっております。この背景には、行政側も、ダム建設による治水効果を強調した面があることも否めません。
特に社会的に水害への関心が低い状況において、このまま、ダム建設事業を進めた場合、本当に流域の人びとが、どのような洪水にも命を失わないという構えができているのかどうか懸念されたために、緊急提言として問題を提起させて頂いたところであります。マニフェストでの「脱ダム」とは、超過洪水もふくめ、どのような洪水に対しても死者を出さないという観点からダムの効果、ダム建設に対する財政負担、並びに河川環境への影響を考慮しながら、ダムだけに頼らない治水政策を意味しております。このことについても基本的立場は今も変わっておりません。
流域での洪水氾濫被害の軽減のためには、堤防強化や河川改修、森林保全、地域水防強化などの地域密着型の流域治水の重要性を訴え、自助、共助の視点も加え、防災への意識の高まりが重要と訴えてまいりました。
さらに、今日まで建設されてきた水を貯めるダムは、水道や農業、発電等の水源として恩恵をもたらす一方で、河川の自然の流れを遮断し、河川の生態系に大きな影響を与えることは否めない科学的事実であります。平成9年に改正された河川法で、治水、利水に加えて、環境保全が河川政策の目的に加えられたのは、今まさに、河川の多面的な役割を認識するべき時代にあることを表しています。特に、琵琶湖をかかえる滋賀県においては、琵琶湖と河川の間を行き来する生き物の命を守り育て、川の文化を守り、さらに琵琶湖水質にも少なからぬ影響を与える河川の水量・水温や水質への配慮は、次世代への責任を果たすべき河川政策の柱でもあります。
一方、改正された河川法に、「住民意見の反映」という項目が付け加えられたのは、多面的機能をはたすべき河川政策は行政だけで全うできるものではなく、流域の住民参加による政策形成の必要性を訴える時代的背景を反映したものでもあります。流域治水は、住民参加の理念の元、「住民と行政との協働型治水」であり、新しい時代の治水政策の仕組みでもあります。
琵琶湖水系の河川流域を、生き物の生態を維持し、河川の水質・水量を健全な状態で保ち、同時に流域の人びとの暮らしや産業の水利用を確保し、河川文化を維持発展させながら、命と財産を守る水害対策をたてることは、琵琶湖と滋賀県の未来にとって欠かすことのできない地域経営の目標であり、知事としての責務でもあります。また、都市化や工業化が進む都市部においては、これまでには安全であった小河川の氾濫が起こり、新たな都市型水害も増加しつつあります。
そのような中で、滋賀県では、琵琶湖総合開発計画の後押しも受け、毎年約95億円(平成9〜18年度当初予算ベースの平均河川改修事業費)以上をかけて、河川改修を行ってきましたが(資料A、資料B)、全県的にみると、必ずしも目に見えるほど治水安全度は高まっておりません。私はマニフェストですべての一級河川で10年確率の治水安全度を確保することを提案しましたが、これを実現するためには、6000億円をこえる予算が必要という試算も明らかになりました。
平成19年度の予算編成を経験し、私自身は、今後も滋賀県の財政はますます困難な状況にあるということを改めて確認いたしました。これは国においても共通の課題でもあります。財政的にひっ迫した時代であっても、河川改修の要望が各地域から毎年繰り返しあげられることからも、治水政策のたずなをゆるめることはできません。また地球温暖化の進展が科学的にも断定された今、異常気象による洪水の増大は回避できないものとなっております。
そのような時代だからこそ、過去の流域住民における伝統的な「自助」「共助」の仕組みを改めて見直し、そこに現代の若者が「河川レンジャー」(川守り)のような形で参画をし、行政と住民の協働による「水害に強い地域社会づくり」を柱に未来の仕組みを創造することこそ、今の河川行政に求められている課題と言えます。行政がもつ広域的で科学的な情報と、住民がもつ属地的で経験的な情報を組み合わせ、社会で広く情報を共有し、討議のプロセスを公開しながら、県民参加・協働の「滋賀モデル」といえるような河川政策に努めてまいります。
ダムだけに頼らない流域治水を推し進めるため、私は、平成18年7月の知事就任直後に、「流域治水政策室」を設置し、半年あまり検討を行ってまいりました。まずは、洪水時の被害軽減を図るための河川整備などのハード整備と氾濫時の流域対策について概観し(資料4)、これからの河川政策は川の中だけの対策では不十分であり、川の外(流域)での対策が重要であることを整理しました。また、流域対策として水を「ためる」「とどめる」「そなえる」機能の検討を行いました(資料5)。さらに、後述しますように、ダム計画河川における、「ためる」機能が流域としていかに可能であるかを、具体的な流域の土地利用などを整理し、数値的な試算を行いました。この結果、「ためる」については、一定の評価が行え、川の中での対策については、河川毎に異なりますが、一定の判断ができるまでに至りました。
一方、「とどめる」「そなえる」については、行政だけでは十分な対応ができず、住民の方々と一緒に議論を深めていく必要があると考えております。幸い、私のダム凍結・見直し方針を受けて、最近では各河川の流域で洪水による被害軽減への認識を高めるさまざまな動きが生まれつつあります。具体的には、流域での住民参加による「そなえる」機能の充実にむけて、芹川や安曇川での水害学習などもはじまっております(資料6)。
このような流れの中で、ダムを建設せずに治水効果をどこまで求められるのか、またダムを建設する場合には、ダムができあがるまでの間の洪水対策、ならびに、できあがってからの超過洪水等の対策をどのように行うのかについて、地域住民の方々と情報を共有しながら、議論ができる状況になったと考えております。
河川の問題は、住民の方々の命と財産の安全に直結するものであります。治水に対する責任を持っている知事としましても、ダムに関する計画を凍結・見直しという立場から出発し、どのような洪水に対しても死者を出さない対策を考えるという治水の基本的方針を堅持し、県民の皆様と対話できる状況が整いつつある今、各河川別の現在の検討状況とその治水対策に対する基本的な考え方を説明させていただきます。今後、この考え方を元に地域住民の皆さまとの対話を始めさせていただき、そのプロセスを経た後に、できるだけすみやかにそれぞれの河川対策を河川整備計画に位置づけていくこととします。
京都市左京区百井峠に源流をもつ安曇川は、古代からいかだ流しや、河口部でのヤナ漁業などが発達し、人々とかかわりが深い川でした。また中流部では大きな扇状地を形成し、表流水だけでなく、地下水の涵養も豊富で、農業や生活用水にまつわる水の文化を発達させてきました。
安曇川は急流河川であることから、古代より多くの水害に悩まされ、周辺の住民は、川辺に竹林や霞堤をつくり、また水防組織も発達させ、川の中だけでなく流域全体として水害への対処をしてきました。
しかし、大雨時の水害からは免れず、特に昭和28年9月の13号台風では、中流部の数ケ所で堤防が決壊し、当時の青柳村では13名の死者(一人は行方不明)を出す大水害が発生し(資料7−1)、さらに昭和34年9月の伊勢湾台風時にも、水田の冠水などの被害を受けてきました(資料7−2)。
そのような中で、昭和48年には北川治水ダムの予備調査が始まり、平成元年には北川第一ダム、北川第二ダムをあわせた北川ダム建設が採択されました。そして平成9年の河川法改正を受け、住民意見の聴取の場として、安曇川川づくり会議が平成13年から14年にかけて開催され(資料7−3)、「河川改修案」「遊水地案」「放水路案」「ダム案」が検討されました(資料7−4,5,6,7,8)。その結果、自然環境への影響、社会環境への影響、工期の短さ、経済性から、北川ダムでは穴あきダム(流水ダム)案が採用され、平成15年には淡海の川づくり検討委員会で、ダム案での提言がなされました。
平成18年の知事選挙でのダムの凍結・見直しのマニフェスト結果を受けて、あらためて、遊水地案、河川改修案、ダム案、流域で「ためる」機能の検討を行う中で(資料8)、遊水地案では十分な貯水水量が見込めない事、河川改修では川幅の確保や河川の掘り込みにより自然環境や地下水への影響が大きいことの他、水田貯留などの「ためる」機能も検討しましたが、ダムに代わる方策は困難ではないかと考えられます。それゆえ、ハード対策として、「北川第一ダム+河道改修」を有力な計画として、今後地域との対話を進めてまいります。北川第二ダムについては、財政事情がひっ迫する中で、ダム以外の方法、つまり霞堤の活用や流域政策を進め、他の河川で当面目標としている治水安全度の優先順位などを総合的に考慮し、当面は実施しないことを考えております。さらに、過去の先人の努力を受けた形での川辺林の役割の再認識など、都市化がすすむ流域での治水への関心を高めるための「地域防災力の向上」にむけ、行政と住民が協働でつくりあげる新しい河川政策への動きを加速化いたします。
芹川は彦根市の中心部を流れる河川ですが、江戸時代初期に彦根の城下町をつくる時に、城下の水害を防ぐためにつくられた今でいう放水路です(資料9−1)。400年の間に芹川両岸には、見事なケヤキ並木が育ち、地域の人たちが誇りをもつ河川景観となっています(資料9−2)。また芹川の右岸は町が発達し、堤防も強くつくられてきましたが、左岸側は水田が広がり、万一の時には左岸に水がはけるようになっていた、という伝承もあります。
しかし上流から一気に水が流れる芹川は、江戸時代以来、近年までたびたび洪水を起こしてきました。近年は昭和28年の13号台風、昭和34年の伊勢湾台風で池洲橋や後三条橋が流される被害がおきています(資料9−3,4)。
一方、昭和30年代以降、彦根市の郊外で都市化が進み、右岸だけでなく左岸の水田地域が住宅や商業地にかわり(資料9−5)、水害対策への要求は高まってきました。そのような中で、昭和38年に芹川におけるダム事業の予備調査が始まり、平成4年にはダム事業としての建設が国に採択されました。平成9年の河川法改正をうけ、住民意見の聴取の場として、平成13年から14年にかけて、6回の川づくり会議がひらかれ、「河川改修案」「放水路案」「遊水地案」「地下貯留施設案」が提示され、経済性(コスト)、自然環境への影響、効果が出る時間、などの比較検討が行われ(資料9−6,7,8,9,10,11,12,13)、総合的に判断するとダム案が最適という方針が決められました。そして平成15年には学識者も含めた淡海の川づくり検討委員会も開催され、芹谷ダムの方針が示されました。そこでは、自然環境への影響を考慮し、いわゆる「穴あきダム」(流水ダム)案が提言されました。
平成18年の知事選挙でのダムの凍結・見直しのマニフェスト結果を受けて、改めてダムに替わる「遊水地案」「河川改修案」の再検討を行いました。その結果、遊水地等として利用可能な土地での貯留容量については、約47万トンとなり、ダムと同じ効果を確保することは困難であることが判明しました(資料10)。また河川改修についても、ケヤキ並木などの歴史的景観を保全することの困難さも再確認され、さらに、河川の掘り下げを行うことは、魚類の生息環境などにも大きな影響があることも再確認されたところです。
そのような中で、ハード対策として、「芹谷ダム+河道改修」を有力な計画として、今後の地域との対話を進めてまいります。あわせて、本来の潜在的被害地である彦根市においては「地域防災力の向上」が超過洪水時など、どのような洪水にあっても死者をださないために重要であり、今後、その具体化に向け地域で議論を深めていただくことが必要と考えております。そのためには、浸水想定区域図を元に、洪水ハザードマップを作成し、水防組織も強化しながら、行政と住民が協働していざという時の命と財産を守る協働型の流域治水の仕組みづくりを行ってまいります。
また芹谷ダムの形態については、現在流水ダム案(穴あきダム)が提案されていますが、流水ダムや本川からのトンネル導水の技術的安全性、流域における土地利用や自然環境保全、流域住民のかかわり方、財政難の中でのコスト縮減の可能性などを含めて、その都度情報を共有し、討議のプロセスを公開しながら、県民参加・県民協働の「滋賀モデル」といえるような河川政策に努めてまいります。
安曇川において、流域での水害学習は、平成18年11月よりすでに10回行っておりますが、3月11日には、福井水害の学習などもふくめ「水害に強い地域づくりにむけて」のフォーラムを地元で行い、対話を進めさせていただくこととしております。
芹川については、平成19年2月25日を皮切りに、川づくり会議を再開し、上流(多賀町)と下流(彦根市)が相互に理解をしながら、ダムだけに頼らない、流域型治水対策の必要性を協議してまいります。
また安曇川、芹川、両河川とも、できるだけ早期に「淡海の川づくり検討委員会」も開催し、ハード対策(川の中での対策)を定めることにあわせ、洪水氾濫軽減に向けての方向性を決めてまいります。
国等の事業であります大戸川ダムおよび丹生ダムにつきましては、100年の計ともいえる淀川水系河川整備基本方針を踏まえ、その後に策定される淀川水系河川整備計画の中で検討されるものです。
河川整備計画は今後、20年から30年の河川整備の施設計画を定めるものであり、関係住民等の意見を反映させながら、その案をつくるものです。
国等の事業であります大戸川ダム、丹生ダムにつきましては、国において住民の意見反映のプロセスを経ていかれることと考えております。その後に、県として最終的な判断を行い、意見として申し上げていくものであります。
現在(平成19年6月段階)は、まだ河川整備計画の案の作成前であり、大戸川および高時川の治水において、「流域治水+河川改修+ダム」の方針で考えているものでございます。
今後の治水対策としては、流域治水や河川改修は緊急の課題として引き続き進めて参ります。個別ダムの考え方は以下のとおりです。
大戸川は旧信楽町の山間部を流れ、大津市田上地区を流れ、瀬田川洗堰の下流で瀬田川本流に流れこむ河川です。大戸川をとりまく田上地域は古代からの森林開発の影響を受け、山地崩壊や土砂災害が多く、砂防工事のメッカとも言われてきました。古代より洪水頻発地で、田上の中野地区は江戸時代に水害をふせぐために集落ごと高台に移転をしたほどでした。昭和28年9月の13号台風などで流域は大きな水害被害をうけました(資料11−1)。最近では昭和57年(1982年)8月の台風10号で石居橋付近が決壊し、210戸の床上・床下浸水の被害がありました。
大戸川ダムについては、大戸川の治水と利水が下流の大阪、京都と深くかかわっているためその事業者は国となっております。もともと利水を含めたものでしたが、時代の変化の中で利水需要がほぼなくなり、国は平成17年7月1日に「桂川・木津川の狭さく部が開削されない間は、大戸川ダムの宇治川・淀川に対する治水効果が小さい」として、「当面は実施しない」という方針を出しました(資料11−2)。
大戸川ダムは国の事業でありますが、大戸川の河川管理者は滋賀県であり、大戸川の水害対策は滋賀県の責任でもあります。このため、平成18年9月の流域治水政策室の設置以降、滋賀県としての治水計画を検討しました。大戸川については、瀬田川に合流した後の宇治川に至るまで、十分な洪水を流すための河川の整備が行われていないため、下流に洪水の負荷が増えるような河川改修はできないという他の河川と異なる特殊性があります(資料12)。このような限られた条件の中で、大戸川ダムが当面実施されない場合の大戸川周辺の流域での治水対策について代替案を検討してまいりました。
その結果、流域で貯留する遊水地や、大戸川沿川の家屋を嵩上げする方策等の対策を検討しましたが(資料13−1,2,3)、いずれにしても、大戸川ダムがいずれ国で整備され、それにより大戸川の治水安全度が向上することが見込める中で、これらの治水対策を進めることはかなり困難であると考えております。
このことから、大戸川ダムにつきましては、大戸川の治水に関わりますことから、今後、国が河川整備計画の案を作成される段階において、具体の計画として国より提案していただきたいと考えています。その際には、大戸川ダムの利水者が全て撤退するのであれば、いくつかのダムタイプの具体の検討をしていただくことをお願いし、県としても環境保全、地域整備、財政上の問題などの視点を踏まえた上で方針をまとめていきたいと考えております。(資料13−4)
さらに、現在進行中の県道大津信楽線の道路事業や大津市、甲賀市で実施されている水源地域整備事業いわゆる水特事業についても継続的な進行、さらに、全体としての事業費精査とコスト縮減についても提案していきたいと考えております。
高時川は琵琶湖・淀川水系の源流にあたり、ブナ林などの自然林やユキツバキなどの特色ある植生で知られた山林部を含む自然豊かな流域です。上流の渓流部は木之本町で扇状地になり、水田平野を流れ、琵琶湖に注ぐ河川です。この川も古くから常襲的に水害をもたらし、周辺の人びとによる堤防補強の努力から天井川を形成してきました。大正10年以降、高時川本川では大きな堤防の決壊の被害はおきていませんが、堤防天端ぎりぎりまでの洪水は数年おきにおきています。
丹生ダムは現在水資源機構が実施していますが、もともと昭和47年に始まった琵琶湖総合開発に位置づけられた利水、治水を含む多目的ダムでありました。しかし、下流の大阪や神戸の水需要がさがる中で、平成17年7月には治水目的の「穴あきダム(流水ダム)」との方針が示されました(資料15)。高時川の治水の方法については「平地河川化」「河川付け替え・河道改修」「河道改修(単独)」「ダム・河道改修」「遊水地・河道改修」「放水路・河道改修」の6つの代替案の検討がなされ(資料14)、この段階では「ダム+河道改修」が財政的にも最も安価に建設できるとの結果が出されました。
一方、県におきましては、平成18年9月以降、流域で水田貯留などによる「ためる」機能も検討しましたが、ダムに代わる方策は困難ではないかと考えられます。(資料14−1)
今後は、利水者が撤退した後の治水目的でのダム事業ではどのような全体事業費になるのか、その事業主体はどこになるのか、を検討する必要があると考えます。
ダムのタイプについては様々なタイプの可能性がありますが、高時川の治水に関わりますことから、国において期限を切ってダムのタイプごとに比較検討を行っていただいた後に、対話のプロセスを経て、県としての方針をまとめてまいりたいと考えております。
更に、丹生ダムが含まれる姉川・高時川の河川整備計画の策定にあたっては、源流部の流域保全、高時川の魚類生息などの自然環境保全、高時川が流れこむ琵琶湖の水質とのかかわり(特に冬の雪どけ水の琵琶湖水質改善効果等)、周辺地域の地下水保全とのかかわり、過疎化と高齢化が進む源流地域での地域振興、など多くの課題があります。これらに対して、水没予定地域から移転された方々、流域の方々との対話を進め、各種の情報を共有しながら、総合的に判断してまいりたいと考えております。

[ 73] 滋賀県/河川の治水に対する考え方
[引用サイト]  http://www.pref.shiga.jp/h/chisui/



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