有り得とは?

「こんなことがあってたまるかよ! いいのか? もうアイデンティティと称してもいいくらいの設定をこれほどまでに曲げちまうと俺は俺であって俺じゃなくなる……!」
剣の手入れ用品を見ていたロランと防具を手に取っていたルーナが、何事かと二人同時に振り向いた。店中で一番高価な品物を手に取った俺を揉み手をしながら見ていた武器屋の親父が、恐る恐る訊ねる。
ルーナとロランが気のあう兄弟みたいな台詞を吐いている。ルーナはいいとしよう。問題はロランだ。お前がそう言う事を言うな。
ロランはきょとんとして言った。その手に無意識のうちに触れているのはついこの間竜王の城で見つけて来たロトの剣。(ロランはロトと竜王を倒した勇者に対して特別な思いを抱いている)大切そうに握りしめられたそれを見て俺は心の中で思わず舌打ちをした。見せつけんじゃねーよ!
胸のうちがギュッと締め付けられる。それだけで白旗を振りそうになっている情けない自分を叱咤して、俺は顔を上げて店主を睨み付けた。金貨袋をカウンターにだん、と叩き付け、
この剣は本当に凄い。ロランがロトの剣を二回振り回して倒せる敵を、俺なら一撃でゴールドと経験値をかっ浚える。
今までの俺達の常識はどーなる! ロランは強い、俺は虚弱(ムカツク!)。俺ら3人の戦法は、ルーナの雑魚一掃、俺の焼け石に水攻撃(やることなし)、ロランのトドメの一打(最初でトドメってどうよ)、それが。
「テメー悔しくねーのかよ? ステータス見たか? 力は弱いのに剣の資質で勝手に強くなっちまってんだぜ俺」
ぼっそり呟いたルーナの尻をぺちんとはたく。分ってんだよ! そんなこと俺が一番分ってんだよちきしょう。
俺とロランとルーナは勇者ロトの高潔な血筋の末裔、聞こえはいいが中身はもっと濃い絆で結ばれてる。はっきり言って親友だ。人を信じる事とか、笑顔で心が満たされることとかは当たり前で、それはとても幸せな事だと思う。今までの俺じゃ考えられねえ、こいつらがいなかったら生きてる意味がない。それくらいに。
そんな大事なダチに優越がどうのこうのと、狭いとゆーか小さいとゆーか! うわあセンセイごめんなさい。でも俺は、少なくともこのサトリ様は、他の二人の方々がどうなのかは存じませんが、青春してます。別にする気満々とかじゃなくて成り行きで、むしろほぼ強制で青春時代真只中なんです。ぶっちゃけちまっていいかな。
もうベタ惚れです。処方箋皆無。いくら教会に寄付を積み上げても無理(と言われた)。回復蘇生呪文のエキスパート、サトリ様でもマイラの湯でも、恋の病は治りません。自分でもなんでこんなに、ってくらいにイカレちまって、何で好きなのかとかいつから好きになっちまったんだとか、考え過ぎて知恵熱、頭ん中おかしくなって、そりゃ鼻唄でも出るってモンよ。たまにはワケ判んねえ呪文とかつい口走ったりしちゃうワケよメダ…何とかかんとか(遠い昔に消滅した呪文らしい)。
判って下さい、この繊細で複雑なオトコゴコロ! 今までだってロランに剣技で勝てた事なかったし、悔しくて夜も眠れなかったりしたけどよ、今のこの状況なんて、最ッ高に情けねーんだ!
ルーナがあっと言って自分の口を押さえた。聞こえた。聞こえたぞ。絶妙のタイミングだ。科白も一緒で、案外俺達は気があうのかも知れない。そしてやっぱりロランは気付かずに、俺の方だけ向いて首を傾げる。
「それに怪我したら呪文で直せるし、僕達を守ってくれたり敵を弱くしたりも出来る。サトリは凄いよ。僕も負けられないな」
嫉妬も羨望も、その瞳にはない。ただ一途な尊敬の念があるばかり。俺はロランを見ない。今見たら多分、穴掘って潜り込みたくなるか、ルーナお嬢様の前でロラン王子に不貞を働いちまうか。どっちも困る。
テメエ、さっきの台詞とは偉い違いじゃねーか! 引き攣った笑いで俺はアリガトウゴザイマスとだけ言った。
出なくていいよとロランが苦笑、なあんだ残念とルーナが言ったので拳骨の真似、それからまっすぐに俺を見つめて、
俺は幸せものなんです。イロイロとメンドーなので告白はしませんが、これはこれで結構いい思いをさせてもらってるんです。
このあと、前が見えないくらいに頭に血が昇ってしまった俺を見て、ルーナが慌てて「あっ、流れ星☆」とロランの視線を逸らせてくれたり、「えっ?!どこどこ?」と本気で夜空を探すロランに付き合って、地面の石ころに仲良く見事につまづいたりした。アリガトウゴザイマス、ルーナ様!
更にこのあと、お金が貯まってロランが光の剣を振り回すようになると、俺は何だか妙に安心したりしてしまうのだった。

[ 124] タイトルはパヒー(謎)っぽく宜しく。
[引用サイト]  http://www.biwa.ne.jp/~amber/turugi.html



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