あらかじめとは?

あらかじめ失われた恋人たちよ!一度も現われた事のない人よ!私は知らないの だ。どんな調べがお前に好ましいのか・・・
嗚呼。メリー・ジェーン。その昔、あたし達はこの曲で店の終わりを知り、夜の 終わりを知った。夜の終わりはそのままに、次に続くどうしようもなく煩わしい
朝の始まりを内包していた。あたし達はあらかじめ失われた世代だったのかもし れない。遅れて来た事は痛いほどに分かりながら、遅れすぎて変質する事すらも
しかし、しかし、それでは我々の先行世代が為し得ようと思った事は、一体、何 だったのか?彼等は何を夢見、何を求め、そして・・・。何の為に戦って力尽き、
あんたたちは何もできなかった!!その末路が、今の。この。腐り行く国ではな いのか?
男は一体、何を叫び続けるのだろうか?男は一体、何の為に無表情の群集に向か って叫ぶのか?この街の一家水入らずの共同意識をぶち壊せ?ぶち壊すべきは、
言葉を失いしもの達の野獣の叫びに男が脅えるのは、己の中に溢れ出す言葉の洪 水を、本当は信じていないからだ。それが空疎に空回りするものでしか実はない
あらかじめ失われし恋人たちの回りを見苦しく動き回る男。彼が象徴するのは。 ではそれにのせられて愚かな盆踊りに興じるあらかじめ失われし男がうちらの世
代で、それを冷たく見据える女は更にうちらの後に続く奴等。では、男と女は永 久に結ばれる事はない。一つになれるはずはない。自明の理ではないか。
あらかじめ失われた恋人たちよ。あらかじめ失われた世代よ。我々は先行世代を 見てやなんかしなかった。先行世代の馬鹿げた一人騒ぎなんぞには鼻も引っかけ
そうではなかったのか?違うのか?そう思わなければ、今やあたし達は立ち行か ないではないか。あたし達は何も聞こうとはしなかった。見ようとはしなかっ
た。あたし達に見えていたのは、ただ先行世代の遺した残骸・藻屑・・・。そうでは なかったのか?そして、先行世代こそがあたし達に激しい嫉妬を抱いていたので
いや。違う。違う、多分。馬鹿騒ぎするのはあたし達。それを冷たく見つめるの は後続の奴等。中途半端にしか物事を捉えられず、自己完結し、自己満足する
我々の馬鹿馬鹿しさを一番知っていたのは新人類と呼ばれたあいつ達・・・。そし て、あたし達はだからこそ、彼等に激しい二律背反する愛憎を抱いていたのでは
高く飛びたい。何よりもただ、高く飛びたい。失われしものを取り戻す勇気が欲 しい。それが男のハイジャンプへの未練となる。高く飛びたい。遠くまで飛びた
い。しかも、男はチャンピオンにはなれなかった。彼は・・・中途半端な才能しか 持ち得なかったのだ。なんて、なんて愚かな。愚かにも情けない。そして、そん
な愚かな想いに絡め取られていたのは、それは・・・むしろ!あたし達だ。憧れと 嫉妬をない交ぜに彼等に拒まれ、彼等に遊ばれていたのは、むしろ、あたし達
寝静まった朝ぼらけ。ただ目だけをギラギラさせて、あてどなく掴みかかり、犯 しまくっていた。あの時代には、もう戻れない。あたしは、あたし達は、何時の
間にか、こんな遠くまで来てしまった。そして、今となれば分かるのだ。彼等、 後続のものにとってあたし達の咆哮はピエロの高笑いでしかなかった事が。一緒
にやろうよとどれほど叫んでも、彼等はてんからその気などなかったではない か。ただ嘲笑っていただけではないか。なんて・・・なんて無様な・・・。
もう、メリー・ジェーンでは踊れない。もう、メリー・ジェーンを歌えない。し かし、かといって群衆の中に埋没し去る事も出来ない。では・・・どこに行ける?
この支離滅裂さを廃してささやかな決意を!少なくとも俺に緊張と行為を持続さ せてくれるものは!言葉が持つ体制的分離性を逃れて!つまらない言葉を逃れ
あらかじめ失われた恋人たちよ。そして、今また光すらも失った恋人たちよ。そ れは例えば全てからの解放なのか?それとも全てからの逃避なのか?中途半端な
まがい物をも、お前達は受け入れてくれるのか?そこにあたしは、あたし達は、 入って行く事を許されるのか?答えてくれる筈もないのか・・・。

[ 46] あらかじめ失われた恋人たちよ
[引用サイト]  http://www.eonet.ne.jp/~la-fiesta/cinema/sakuhin/10nen47.html



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