佐藤とは?

霧島といえば温泉を思い浮かべるかたが多いだろう。幕末動乱の時代には、土佐の坂本龍馬が今で言う新婚旅行に来たこともあるという。いくつもの名湯が軒を連ねる霧島温泉郷から西に約9キロ、さほど遠くない距離に牧園町宿窪田という土地がある。ここにある佐藤酒造こそ、いま関東・関西で静かに人気を高めているあの「黒麹仕込み 佐藤」を世に問うた蔵である。
仕込みが始まる前の忙しい時期に、こころよく蔵を案内していただいたのは、佐藤誠氏。メールでの連絡で蔵の場所を教えて貰ったが、小生のトンチンカンな返答に「本当にダイジョウブですか?」と心配していただき、結局は鹿児島国際空港で落ち合うことになった。朝8時過ぎ、鹿児島市内からリムジンバスで空港に向かう。空港までは小一時間だ。空港前の乗降車エリアで、迎えにきていただいた佐藤さんと出会った。
「蔵までは15分くらいです。では、参りましょうか」言葉に訛りがない。「失礼ですが、鹿児島弁は?」と、ホントに失礼な事を聞いた。
「そしたぎいな、かごっま弁ではなしもそかい」と当意即妙に受けてくれた佐藤さん、南国の空のように明朗なユーモアを持っている人だと思った。だがそのサーフェイスの柔和さの下に、溶岩のように強固な酒造りへの意志が漲っていることを小生はすぐに知ることになる。
「蔵をつぶしてはイカン」そう言って亡くなった祖母の気持ちに応えて、蔵を継ぐことを決心したのですと、佐藤さんは淡々と語ってくれた。昭和41年生まれの34才。東京農業大学醸造学科を卒業後、しばらく東京のソフト関連会社の仕事を経験したという。氏の話はよく整理されており、ロジカルだ。ひとつひとつ納得できることばかり。イメージだけで感情的なものごとの捉え方とアウトプットに走ってしまう鹿児島県人(実は小生がその好例)にありがちな悪癖が微塵もない。長身、堂々たる体格。失礼だが、機動隊か自衛隊の猛者とまがう威風の持ち主だ。「いや、じつは高校を卒業したら航空自衛隊のパイロットになって、ジェット戦闘機を操縦したかったんですよ。視力が落ちて諦めましたがね」そう言って佐藤さんは笑った。
佐藤さんが呟いた言葉に、ちょっと驚いて聞き返したのは、我ながら軽率だった。ガキの頃から、聞いたら考えろと教えられていたはずだ。まあ、ティピカルな薩摩人たる小生の性癖は治るまい。
「宴のメインディッシュは、集う人たちの楽しさそれ自体です。その楽しさをさらに盛り上げるのが、酒や料理。酒自体が主人公になるのではないのだと思っています」
う〜む、酒宴のホントの楽しさは、盃の向こうにあるということか。ならば、このごろ希少性からン万円の値段が付けられているブランド焼酎などは佐藤さんはどう思うのだろうか。
「私は、中身にこだわった酒を造りたいし、それが粗利をとれる酒でなくてはなりません。話題だけが先行してブランド化した焼酎は市場を荒らします。一過性のブームではなく、着実な本格焼酎ファンを作っていきたいのです」そのためには流通をしっかり管理する必要があると、佐藤さんは言う。
たしかに蔵から見れば、ちゃんとした姿勢で販売してくれる酒屋さんこそが、最終的には良い業務店(お店)での消費者との出会いを可能にするわけだから、蔵が自分とのインターフェイスである酒販店を「選別」するのはごく当然のことなのかも知れない。
蔵を案内して貰う。仕込みに向けて洗浄された製麹(せいぎく)機、原料であるさつまいもの洗浄から下拵え、そして蒸し機へと続く作業ライン。もろみを蒸留する常圧蒸留機、そして別棟には原酒のタンクと瓶詰め加工用のシステムが整然と並び、来るべき仕込みの時を待っていた。
とりわけここで書いておかなくてはならないのは、佐藤酒造で使用している水についてである。仕込みだけでなく、すべてにこれを使っていますという水を見て驚嘆した。蔵の中の自然光だ。空の光を反射しているわけではない。だが、真っ白なタンクいっぱいに満たされた水の色は「青」だったのだ。水そのものの色が水色というのは(あたりまえか?)不思議なものだ。ホースから噴出する水を飲んでみた。
※上のタンク(2F)から、この瓶詰めライン(1F)へと自然落下方式で焼酎が移される。
考えてみると、一升瓶の焼酎の三分の一は水という勘定だから、水の如何で焼酎の味が変わるのは当然だ。味にこだわる佐藤酒造の真骨頂は、この霧島の水にあるとみた。
同時に、加工過程にも焼酎の味を大切にするこだわりが徹底していた。縦置きの濾過機もそうだし、特に瓶詰め段階での原酒と割水の管理は特筆しておきたい。原酒タンクの中で「原酒」と「水」が充分な時間を経て馴染んだあと、自然落下方式で瓶詰めされるのだ。原酒タンクが2階にあり、瓶詰め機が1階に設置されている理由は、モーターを使用することで焼酎の熟成を破壊したくないという佐藤さんのこだわりからだった。
■佐藤さんの利き酒は、まさにシステムエンジニアの手法。焼酎の味というものについて、納得した。首肯した。得心した。
「さて、利き酒していただきますかね」と、佐藤さんがまず出してくれたのは「原酒・あらざけ」。
38度の原酒で、濾過していない甘い酒だという。これをお湯で割ったものを戴いた。一口含んでみる。アルコールが口の中に刺さるような刺激がある。
おちょこで生のままの「あらざけ」を飲んでみる。飲んで見て驚いた。まろやかだ。先のお湯割りとおなじ酒とは思えないほどのうま味がある。小生の表情を見て佐藤さんが笑って言った。
「お湯のために酒の中のアルコールと水の分子が分離・振動して刺激味に感じるんです」
総務の鳥越さんと紹介された若いスタッフが、薩摩焼きの「ちょか」を黒と白ふたつ持って来られた。割り水してしばらく置き、湯煎で温めた「白麹仕込み佐藤」と「黒麹仕込み佐藤」だ。これはもっとも美味しい焼酎の飲み方だ。「白麹仕込み」は柔らかい懐かしい味がした。「黒麹仕込み」はいつものキレのいい厚みのある味だ。
「県外のファンから黒麹での仕込みが高い評価を戴いているのは、よくわかります」と佐藤さん。
飲酒習慣によって求める味が違うという。清酒に馴れた県外のファンは、よりハッキリしたキレの黒麹仕込みにインパクトを求め、鹿児島のファンは、なめらかな優しさのある白麹仕込みのほうに好みの方向がむくというわけだ。
「げんろ」は酒税法ぎりぎりの44度の原酒。これは薩摩の荒武者といった感じの酒だった。卓の上には、豚味噌が小皿で供されている。「焼酎の肴としては最適です」鑑評会に持参して好評だったと言う。
豚味噌をつまみに、盃を重ねる内に約束の時間をとうに過ぎ、あわてて腰をあげたのは11時を過ぎていた。
「1500石から2000石を着実に造っていける蔵が育っていけば・・・」そう、小さい蔵でも工夫と努力で可能性は広がるはずだ。わずか300石の蔵が全国に評判となった焼酎を送り出した例もある(「村尾」の村尾酒造)。わが郷土の最たる産業であり、文化であり、魂でもある本格焼酎蔵にはホントに頑張って欲しいものだと帰途につくリムジンバスの車窓から桜島を眺めて思った。

[ 14] 佐藤酒造訪問記
[引用サイト]  http://www.kt.rim.or.jp/~wadada/cyokayume/satokura.html



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