抜粋とは?

これを実現する為に、今ゲームをお楽しみいただいている皆様だけでなく、我々は二つの異なった顧客層を目指さねばなりませんでした。かってビデオゲームで遊んだ経験はあるが、すでに興味を失ってしまった人たち。そして、今まで一度も遊んだことの無い人たちです。
この業界では、いつも同じ方向性での改善が試みられてきました。それは、「もっと凄いゲームを作る」という方向性です。しかし、ゲームを辞めてしまった人や、ノン・ゲーマーの方にアプローチする為には、「もっとすごいゲーム」はほとんど無力です。
そこで、人とゲームの関係を変えること、すなわち、ゲームのコントローラインターフェースを刷新することが、論理的だと考えました。このアプローチにより、もっと幅広い層の顧客に訴求でき、コア・ユーザーの方にも魅力を感じていただけると思います。
創造的破壊を伴うイノベーションではよくあることですが、最初は一部の人々の間で混乱を起こしました。しかし、ニンテンドッグスで、タッチペンを使って犬をかわいがり、マイクで語りかけた時、世界中の人が理解し始めてくださいました。
次に、日本では、脳活性化ソフトを発売しました。テレビゲームをされたことのない何百万人という方々が、これらのタイトルをプレイされました。業界の多くの人は、ゲームをしない人にゲームをしてもらうことは不可能だと考えていました。しかし今、この流れは西洋にも広がりつつあります。
Wiiリモコンの片手での操作は、ちょうどDSのタッチスクリーンに相当するものです。これにより、ノンゲーマーやゲームをされなくなったユーザーへの障壁を取り払うことになります。全ての皆様にとって、これは快適なものです。
更に、かつてはゲームをしたけれど、今は興味を失った方の多くは、以前に遊んだタイトルの記憶を今もお持ちなのです。そういったゲームを、我々はバーチャルコンソール機能で再登場させます。そしてバーチャルコンソールは、新しいシンプルなゲーム創造のための『生きた実験室』にもなります。
Wiiリモコンでの創造的なアプローチと、バーチャルコンソールのビジネスモデルによって、恐らく「テトリス」のようなゲームが再び実現可能になるでしょう。
ゲーム機の性能は過去20年でどんどん向上したのですが、悪くなったものもあります。それは、起動に必要な時間がどんどん長くなってしまったことです。
私は、ゲームを企画することも開発することも遊ぶことも大好きです。しかしながら、最近私は以前よりも忙しくなりました。ゲームを始める前に数十秒以上の待ち時間が必要ということが、本当に辛く感じるようになりました。特にDSで、ふたを閉じればスリープ、ふたを開けたら再開、という素早さを味わってからは、尚更です。皆さんも同じではないですか?
もしも熱心なユーザーさえもフラストレーションを感じるのであれば、マスマーケットのユーザーに、それ以上我慢してもらうことが出来るのでしょうか?
Wiiでは、バーチャルコンソールのゲームやOperaBrowser等のフラッシュロム上のアプリケーションを電話やテレビと同じくらい早く、数秒以内に起動できます。
どんなにパワフルなゲーム機でも、電源が入っていない時には、何もできません。我々は、Wiiの電源が切れているように見える時でも、様々なサービスが提供できるようにゲーム機を設計しました。Wiiは、『眠らないシステム』になります。
Wiiは、私たちが「WiiConnect24」と呼んでいる機能によって、自動的にスタンバイモードに入ります。ファンは廻りませんが、一部の機能は動作します。そしてその時、小さな豆電球1個分程度の少ない消費電力で稼働します。
ここで重要なことは、Wiiハードがインターネットと常時接続可能になるということです。ハードコアユーザーに対しては、ユーザーが眠っている間にも、開発者側から新しい兵器や乗り物、レベルを「プッシュ」することが可能ということを意味します。
ゲーム初心者の場合、例えばどうぶつの森で、自分が眠っている間に自分の村に友達が遊びに来て、メッセージやプレゼントを残していく、そんな、毎日電源を入れるのが楽しみになるようなことが実現できます。
ネットワーク接続の為のソフトはゲーム機に内蔵されていますので、ソフトの開発者は一行もネットワークの為のプログラムを書かなくても、開発者が望む情報や要素をユーザーが受け取ることができるように設定できます。 開発者はいつでもこれらの機能を追加できるのです。
最後に、最も困難な問題は、今まで一度もゲームをプレイしたことの無い人々に、どの様にアピールするかです。そのために、幾つかの障壁を乗り越える必要があります。
新しいコントローラも、バーチャルコンソールも重要ですが、最も重要なのは、こういった人たちにゲームをやってみたいと思わせるソフトウェアだと思います。これらのゲームは、コアユーザーとノンゲーマーがすぐに楽しく、一緒にプレイすることを可能にします。
これは、テニスやゴルフ、野球などを1つのパッケージに集めたタイトルです。Wiiスポーツはハードの発売日に同時発売します。初めてプレイされる方には、Wiiリモコンを使用した操作感を直感的で魅力的なものと感じて頂けるでしょう。熱心なゲーマーの皆様も、今までに何回もプレイされて来られた様なものでも、驚くべき方法でプレイすることになります。
現在、家の中には、ゲームをプレイする人としない人が明確に分かれています。私達はこの状況をWiiで変え、これらの人々の間にある壁を壊して行きたいと思っています。
E3 2006 トップページ > メディアブリーフィングスピーチ抜粋 岩田社長コメント [ 英語原文 | 日本語訳 ]

[ 132] メディアブリーフィング 社長スピーチ抜粋(日本語訳) : E3 2006 : Nintendo
[引用サイト]  http://www.nintendo.co.jp/n10/e3_2006/speech/japanese.html

1928年11月22日にパリで署名され、1948年5月10日、1966年11月16日、及び1972年11月30日、1988年5月31日の議定書で改正された国際博覧会に関する条約
1.博覧会とは、名称のいかんを問わず、公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは二以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。
3.国際博覧会の参加者とは、当該国際博覧会に公式に参加している国の陳列区域にあるその国の展示者、国際機関、当該国際博覧会に公式には参加していない国の展示者及び当該国際博覧会の規則により展示以外の活動特に場内営業を行うことを認められた者をいう。
2.この条約の適用上、国際博覧会は、開催者の付する名称の如何を問わず、登録博覧会と認定博覧会に区分する。
次の条件を満たす国際博覧会は、第25条に規定する博覧会国際事務局(以下「国際事務局」という)による登録の対象となる。
(B)参加国が使用する博覧会用の建造物に関する規則が一般規則において規定されていること。不動産に課せられる租税が招請国の法令により要求される場合には、この租税は、開催者が負担する。国際事務局の承認した規則に従って実際に提供された役務については、対価を求めることができる。
(C)1995年1月1日以降は、二の登録博覧会の間には少なくとも五年の間隔を置くこと(最初の登録博覧会については、1995年に開催することができる。)但し、国際事務局は、国際的な重要性を有する特別な出来事を記念することができるようにするため、前段に規定する間隔を一年を超えない範囲で短縮することができる。もっとも、次回の登録博覧会については、五年の間隔を短縮することなく開催した場合の間隔に従って開催する。
4.開催者が建設する施設を参加国に割り当てるに当たって、すべての賃貸料、料金、租税及び費用(提供された役務にかかわるものを除く。)を免除する者であること(一の国に割り当てられる面積は千平方メートルを超えてはならない。)ただし開催国の経済上及び財政上の状況によって正当とされる場合には、国際事務局は、無償で提供する義務の例外を認めることができる。
5.この(A)の規定による認定博覧会については、二の登録博覧会の間において一に限って開催することができる。
6.同一の年においては、登録博覧会又はこの(A)の規定による認定博覧会のいずれかに限って開催することができる。
(B)国際事務局は、また、次に掲げる国際博覧会を二の登録博覧会の間に開催されるものとして認定することができる。
1.装飾美術及び現代建築に関するミラノ・トリエンナーレ(以前から開催されていた伝統的なものであることを理由として認定されるものであり、本来の特徴を維持していることを条件とする。)
2.国際園芸家協会が承認したA類1の園芸博覧会(異なる国において開催される場合には2年以上の間隔を、同一の国において開催される場合には10年以上の間隔を置くことを条件とする。)
国際博覧会の開会日及び閉会日並びに全般的な特徴については、登録又は認定の時に確定するものとし、国際事務局の同意がある場合を除くほか、変更することができない。
1.自国の領域内において国際博覧会の開催が計画されている締約国の政府(以下「招請国政府」という。)は、国際事務局に対し、国際博覧会を開催するために準備している法令上及び財政上の措置を示して、国際博覧会の登録又は認定を受けるための申請を行う。非締約国の政府であって国際博覧会の登録又は認定を受けることを希望するものは、第1章から次章までの規定及びこれらの規定を適用するために制定される規則の遵守を当該国際博覧会について約束することを条件として、締約国の政府による申請の場合と同一の方法で、国際事務局に対し申請を行うことができる。
2.締約国の政府がその国際機関について責任を有する地域において国際博覧会の開催が計画されている場合には、登録又は認定の申請は、当該政府(以下国際博覧会の開催者であるかどうかを問わず「招請国政府」という)が行う。
3.国際事務局は、拘束力のある規則により、国際博覧会の開催期日の予約の受付が開始される期日及び登録又は認定の申請の受付期限を定めるものとし、登録又は認定の申請に際して提出すべき書類を明示する。国際事務局は、また、拘束力のある規則により、申請を審査するための費用として要求する負担金の額を定める。
4.登録又は認定が認められるのは、当該国際博覧会が、この条約に定める条件を満たし、かつ、国際事務局の定める規則に適合するものである場合に限る。
1.国際博覧会の登録又は認定について二以上の国が競合する場合において合意が得られないときは、それらの国は、国際事務局の総会の決定を求めるものとし、総会は、提出された意見並びに、特に、歴史的又は道義的な特別の理由、最近の国際博覧会後の経過期間及び競合する各国の既に開催した国際博覧会の数を考慮して決定を行う。
2.国際事務局は、特別の事情がある場合を除くほか、登録又は認定については、締約国の領域内において計画される国際博覧会を優先させる。
国際博覧会について登録又は認定を受けた国は、国際博覧会の開催期日を変更する場合には、第5条に規定する場合を除くほか、登録又は認定に伴う権利を失う。登録又は認定を受けた国は、国際博覧会を他の期日に開催しようとするときは、新たに申請を行うものとし、競合する場合は、前条に定める手続きに従う。
2.招請国政府がその開催者でない場合には、国際博覧会を開催する法人はその開催につき当該政府によって公式に認められなければならず、当該政府は、当該法人による義務の履行を保証する。
この条文に基づき、「愛・地球博」の開催者として1997年10月に「財団法人2005年日本国際博覧会協会」が設立されました。
1.国際博覧会への参加の招請は、締約国に対するものであるか非締約国に対するものであるかを問わず、招請国の政府のみが、被招請国の政府に対してのみ、被招請国の政府又はその権限の下にある個人若しくは法人のために、外交上の経路を通じて行う。回答は、招請国の政府に対し対抗上の経路を通じて行うものとし、招請されていない個人又は法人が表明する参加希望についても、回答の場合と同様とする。招請は、国際事務局の定める期限を考慮して行う。国際機関に対する招請は、直接行う。
2.締約国は、参加の招請がこの条約の規定に従って行われなかったときは、当該国際博覧会に自ら参加し又はこれへの参加を後援することができない。
3.締約国は、その開催場所が締約国の領域内又は非締約国の領域内のいずれであるかを問わず、いずれの国際博覧会についても、この条約の規定により認められた登録又は認定についての言及のない参加の招請を行わないこと及びそのような招請を受諾しないことを約束する。
4.締約国は、自国政府のための参加の招請以外の招請を自国政府に対して行わないよう開催者に要求することができる。締約国は、また、招請の伝達又は招請されていない個人若しくは法人が表明した参加希望の伝達を差し控えることができる。
招請国政府は、この条約のすべての目的のために及び当該国際博覧会に関するすべての事項について、登録博覧会の場合には自国政府を代表する一人の国際博覧会政府代表を、認定博覧会の場合には自国政府を代表する一人の国際博覧会政府委員を任命する。
国際博覧会に参加する国の政府は、招請国政府に対して、登録博覧会の場合には自国政府を代表する一人の陳列区域政府代表を、認定博覧会の場合には自国政府を代表する一人の陳列区域政府委員を任命する。陳列区域政府代表または陳列区域政府委員のみが、自国の展示について責任を有する。陳列区域政府代表又は陳列区域政府委員は、自国の展示の構成を国際博覧会政府代表又は国際博覧会政府委員に通報するものとし、また、展示者の権利の確保及び義務の履行を監視する。
1.国際博覧会においては、いずれかの締約国に関係する地理的名称は、当該締約国の陳列区域政府代表又は陳列区域政府委員の承認を得た場合を除くほか、参加者又は参加者の集団を呼称するために使用できない。
2.いずれかの締約国が国際博覧会に参加しない場合には、国際博覧会政府代表又は国際博覧会政府委員は、当該締約国のために、1.の保護について監視する。
1.参加国の陳列区域に展示する物品は、当該参加国と密接な関係を有するもの(例えば、当該参加国の領域を原産地とする物品又は当該参加国の国民が創作した物品)でなければならない。
2.参加国は、1に規定する物品以外の物品についても、展示を保管するためにのみ用いることを条件として、関係国の陳列区域政府代表又は陳列区域政府委員の承認を得た上で自国の陳列区域に展示することができる。
3.1及び2の規定に関し参加国の間に紛争が生じた場合には、紛争は、陳列区域政府代表団又は陳列区域政府委員団に付託するものとし、同代表団又は同委員団は、出席する陳列区域政府代表又は陳列区域政府委員の過半数による議決で仲裁裁定を行う。その仲裁裁定は、最終的なものとする。
1.招請国の法令に反対の規定がない限り、いかなる種類の独占事業も認めてはならない。もっとも、共通の役務に関する独占企業であって国際事務局が登録又は認定の時に許可したものは、認められるものとし、この場合には、開催者は、次のことを行う義務を負う。
(b)独占事業の対象となっている役務を当該招請国で通常適用される条件により参加者に利用させることを確保すること。
(c)いかなる場合にも、陳列区域政府代表又は陳列区域政府委員がそれぞれの陳列区域において有する権限を制限しないこと。
2.国際博覧会政府代表又は国際博覧会政府委員は、参加国に対して要求される料金が、開催者に対して要求される料金よりも、また、いかなる場合にも当該地域の通常の料金よりも高いものとならないようにするため、あらゆる措置をとる。
国際博覧会政府代表又は国際博覧会政府委員は、国際博覧会の会場における公益事業の業務が効果的に機能することを確保するため、あらゆる可能な措置をとる。
招請国政府は、各国及びその国民の参加を容易にするため、特に人及び物品の輸送の料金及び入国又は輸入の条件に関して便宜を与えるよう努力する。
1.この条約の適用を監督し及び確保する責任を有する博覧会国際事務局と称する国際機関を設立する。国際事務局の構成員は、締約国の政府とする。国際事務局の所在地は、パリとする。
2.国際事務局は、法人格を有するものとし、特に、契約を締結し、動産及び不動産を取得し及び売却し、並びに訴えを提起する能力を有する。
3.国際事務局は、この条約によって与えられる権限を行使するため、協定、特に特権及び免除に関する協定を国及び国際機関と締結する能力を有する。
4.国際事務局は、総会、議長、執行委員会、一又は二以上の専門委員会、これらの委員会の数と同数の副議長及び事務局長の指揮する事務局から成る。
総会は、通常会期として会合するものとし、た、臨時会期として会合することができる。総会は、国際事務局の最高機関であり、この条約によって国際事務局に与えられる権限に係るすべての事項、特に次の事項について決定を行う。
(a)国際博覧会の登録又は認定、分類及び開催並びに国際事務局の運営に関する規則を審議し、採択し及び公表すること。総会は、この条約の規定に抵触しない範囲内で、拘束力を有する規則を制定することができる。総会は、また、国際博覧会の開催の手引きとなる標準規則を作成することができる。
1.締約国の政府は、その代表者の数のいかんを問わず、総会において一の票を有する。その投票権は、第32条の規定により当該締約国の政府が支払わなければ成らない分担金の未払い分の合計額が当該年度及び前年度の当該締約国の政府の分担金の合計額を超える場合には、停止される。
2.総会は、会期に出席しかつ投票権を有する代表団の数が投票権を有する代表団の数が投票権を有する締約国の数の3分の2以上であるときは有効に討議を行うことができる。この定足数に達しないときは、総会は、当該議題を討議するため、少なくとも1ヶ月の期間を置いて再度招集される。この場合には、定足数は、投票権を有する締約国の数の半数に引き下げられる。
3.表決は、出席しかつ投票権を有する代表団の過半数による議決で行う。ただし、次の事項については、3分の2以上の多数による議決で決定する。
1.議長は、総会が秘密投票によって締約国の政府の代表のうちから2年の任期で選出する。議長は、在任中自国を代表しない。議長は再任されることができる。
3.副議長は、総会が締約国の政府の代表のうちから選出するもとし、総会は、各副議長の任務の性質及び任期を定め、特に、各副議長の担当する委員会を指定する。
1.締約国は、この条約の改正を提案することができる。改正案及び改正の理由は、事務局長に提出するものとし、事務局長はこれらを直ちに他の締約国に通報する。
2.改正の提案は、事務局長が1の通報を行った日の後少なくとも3ヶ月を経過した後に開催される総会の通常会期又は臨時会期の議題とする。
1.この条約の適用又は解釈に関する締約国の間の紛争であって、この条約により決定権を与えられている機関が解決することのできなかったものについては、紛争当事国の間で交渉を行う。
この条約は、国際連合の加盟国並びに国際連合に加盟していない国際司法裁判所規定の当事国、国際連合の専門機関の加盟国及び国際原子力機関の加盟国による加入のため、また、総会において投票権を有する締約国の3分の2以上の多数による議決でその加入申請が承認された他の国による加入のため、開放される。加入書は、フランス共和国政府に寄託するものとし、その寄託の日に効力を生ずる。
1.いずれの締約国も、フランス共和国政府に対し書面による通告を行うことによってこの条約を廃棄することができる。
事務局長は、精算を行う責任を有する。ただし、国際事務局の解散に関して締約国の間でと極が締結される場合には、当該とり決めに従うものとする。資産は、締約国の間で、各締約国がこの条約の締約国となった後に支払った分担金の合計額が当該会計年度について定められたそれぞれの分担金の額に比例して負担する。

[ 133] 「国際博覧会条約」抜粋
[引用サイト]  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hakurankai/jyouyaku.html

国民は、重要な国家機能を有効に遂行するにふさわしい簡素・効率的・透明な政府を実現する中で、自律的かつ社会的責任を負った主体として互いに協力しながら自由かつ公正な社会を築き、それを基盤として国際社会の発展に貢献する。
法の支配の理念に基づき、すべての当事者を対等の地位に置き、公平な第三者が適正かつ透明な手続により公正な法的ルール・原理に基づいて判断を示す司法部門が、政治部門と並んで、「公共性の空間」を支える柱とならなければならない。
国民が自律的存在として、多様な社会生活関係を積極的に形成・維持し発展させていくためには、司法の運営に直接携わるプロフェッションとしての法曹がいわば「国民の社会生活上の医師」として、各人の置かれた具体的な生活状況ないしニーズに即した法的サービスを提供することが必要である。
統治主体・権利主体である国民は、司法の運営に主体的・有意的に参加し、プロフェッションたる法曹との豊かなコミュニケーションの場を形成・維持するように努め、国民のための司法を国民自らが実現し支えなければならない。
第一に、「国民の期待に応える司法制度」とするため、司法制度をより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのあるものとする。
第二に、「司法制度を支える法曹の在り方」を改革し、質量ともに豊かなプロフェッションとしての法曹を確保する。
第三に、「国民的基盤の確立」のために、国民が訴訟手続に参加する制度の導入等により司法に対する国民の信頼を高める。
国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする制度を構築する。
高度の専門的な法的知識を有することはもとより、幅広い教養と豊かな人間性を基礎に十分な職業倫理を身に付け、社会の様々な分野において厚い層をなして活躍する法曹を獲得する。
原則として全事件について審理計画を定めるための協議をすることを義務付け、計画審理を一層推進すべきである。
専門的知見を要する事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、民事裁判の充実・迅速化に関する方策に加え、以下の方策等を実施すべきである。
各種専門領域における非法曹の専門家が、専門委員として、その分野の専門技術的見地から、裁判の全部又は一部に関与し、裁判官をサポートする新たな訴訟手続への参加制度(専門委員制度)については、裁判所の中立・公平性を確保することなどに十分配慮しつつ、それぞれの専門性の種類に応じて個別に導入の在り方を検討すべきである。
知的財産権関係訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、民事裁判の充実・迅速化に関する方策に加え、以下の方策等を実施すべきである。
東京・大阪両地方裁判所の専門部を実質的に「特許裁判所」として機能させるため、専門性が強化された裁判官や技術専門家である裁判所調査官の集中的投入、専門委員制度の導入、特許権及び実用新案権等に関する訴訟事件について東京・大阪両地方裁判所への専属管轄化などにより、裁判所の専門的処理体制を一層強化すべきである。
弁理士の特許権等の侵害訴訟代理権については、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与すべきである。
日本知的財産仲裁センターや特許庁(判定制度)等のADRを拡充・活性化し、訴訟との連携を図るべきである。
労働関係訴訟事件の審理期間をおおむね半減することを目標とし、民事裁判の充実・迅速化に関する方策、法曹の専門性を強化するための方策等を実施すべきである。
労働関係事件に関し、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する労働調停を導入すべきである。
労働委員会の救済命令に対する司法審査の在り方、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する裁判制度の導入の当否、労働関係事件固有の訴訟手続の整備の要否について、早急に検討を開始すべきである。
離婚など家庭関係事件(人事訴訟等)を家庭裁判所の管轄へ移管し、離婚訴訟等への参与員制度の導入など体制を整備すべきである。
民事・家事調停委員、司法委員及び参与員について、その選任方法の見直しを含め、年齢、職業、知識経験等において多様な人材を確保するための方策を講じるべきである。
簡易裁判所の少額訴訟事件の提訴手数料については、定額制の導入を含め検討を加え、必要な措置を講じるべきである。
勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から、一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである。この制度の設計に当たっては、上記の見地と反対に不当に訴えの提起を萎縮させないよう、これを一律に導入することなく、このような敗訴者負担を導入しない訴訟の範囲及びその取扱いの在り方、敗訴者に負担させる場合に負担させるべき額の定め方等について検討すべきである。
民事法律扶助制度については、対象事件・対象者の範囲、利用者負担の在り方、運営主体の在り方等について、更に総合的・体系的な検討を加えた上で、一層充実すべきである。
司法の利用相談窓口(アクセス・ポイント)を裁判所、弁護士会、地方公共団体等において充実させ、ホームページ等を活用したネットワーク化の促進により、各種の裁判外紛争解決手段(ADR)、法律相談、法律扶助制度を含む司法に関する総合的な情報提供を強化すべきである。
裁判所の訴訟手続(訴訟関係書類の電子的提出・交換を含む。)、事務処理、情報提供などの各側面での情報通信技術(IT)の積極的導入を推進するため、最高裁判所は、情報通信技術を導入するための計画を策定・公表すべきである。
現在、既に実施されている裁判所の夜間サービスについて、国民へ周知した上、この夜間サービスの拡大及び休日サービスの導入を積極的に検討すべきである。
損害賠償の額の認定については、全体的に見れば低額に過ぎるとの批があることから、必要な制度上の検討を行うとともに、過去のいわゆる相場にとらわれることなく、引き続き事案に即した認定の在り方が望まれる。
団体訴権の導入、導入する場合の適格団体の決め方等については、法分野ごとに、個別の実体法において、その法律の目的やその法律が保護しようとしている権利、利益等を考慮して検討されるべきである。
司法の中核たる裁判機能の充実に格別の努力を傾注すべきことに加えて、ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図るべきである。
多様なADRについて、それぞれの特長を活かしつつ、その育成・充実を図っていくため、関係機関等の連携を強化し、共通的な制度基盤を整備すべきである。
ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、関係諸機関による連絡協議会や関係省庁等の連絡会議等の体制を整備すべきである。
訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上のポータル・サイトなど情報通信技術を活用した連携を図り、ワン・ストップでの情報提供を実現すべきである。
ADRの担い手の確保については、人材、紛争解決等を含む情報の開示・共有を促進した上で、必要な知識・技能に関する研修等を充実させるべきである。
さらに、総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律(いわゆる「ADR基本法」など)の制定をも視野に入れ、必要な方策を検討すべきである。その際、例えば、時効中断(又は停止)効の付与、執行力の付与、法律扶助の対象化等のための条件整備、ADRの全部又は一部について裁判手続を利用したり、あるいはその逆の移行を円滑にするための手続整備等を具体的に検討すべきである。
隣接法律専門職種など非法曹の専門家のADRにおける活用を図るため、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえて個別的に検討し、法制上明確に位置付けるべきである。同条については、少なくとも、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきである。
行政事件訴訟法の見直しを含めた行政に対する司法審査の在り方に関して、「法の支配」の基本理念の下に、司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行う必要がある。政府において、本格的な検討を早急に開始すべきである。
第一回公判期日の前から、十分な争点整理を行い、明確な審理の計画を立てられるよう、裁判所の主宰による新たな準備手続を創設すべきである。
充実した争点整理が行われるには、証拠開示の拡充が必要である。そのために、証拠開示の時期・範囲等に関するルールを法令により明確化するとともに、新たな準備手続の中で、必要に応じて、裁判所が開示の要否につき裁定することが可能となるような仕組みを整備すべきである。
公的刑事弁護制度の整備を含め、弁護人が個々の刑事事件に専従できるような体制を確立するとともに、裁判所、検察庁の人的体制をも充実・強化すべきである。
被疑者に対する公的弁護制度を導入し、被疑者段階と被告人段階とを通じ一貫した弁護体制を整備すべきである。
公的弁護制度の運営主体は、公正中立な機関とし、適切な仕組みにより、その運営のために公的資金を導入すべきである。
弁護人の選任・解任は、現行の被告人の国選弁護制度と同様に裁判所が行うのが適切であるが、それ以外の運営に関する事務は、上記機関が担うものとすべきである。
上記機関は、制度運営について国民に対する責任を有し、全国的に充実した弁護活動を提供しうる態勢を整備すべきである。殊に、訴訟手続への新たな国民参加の制度の実効的実施を支えうる態勢を整備することが緊要である。
上記機関の組織構成、運営方法、同機関に対する監督等の在り方の検討に当たっては、公的資金を投入するにふさわしいものとするため、透明性・説明責任の確保等の要請を十分踏まえるべきである。
公的弁護制度の下でも、個々の事件における弁護活動の自主性・独立性が損なわれてはならず、制度の整備・運営に当たってはこのことに十分配慮すべきである。
弁護士会は、弁護士制度改革の視点を踏まえ、公的弁護制度の整備・運営に積極的に協力するとともに、弁護活動の質の確保について重大な責務を負うことを自覚し、主体的にその態勢を整備すべきである。
刑事免責制度等新たな捜査手法の導入については、憲法の人権保障の趣旨を踏まえながら、今後の我が国の社会・経済の変化やそれに伴う犯罪情勢・動向の変化等に応じた適切な制度の在り方を多角的な見地から検討すべきである。
被疑者・被告人の不適正な身柄拘束を防止・是正するため、今後も、刑事手続全体の中で、制度面、運用面の双方において改革、改善のための検討を続けるべきである。
被疑者の取調べの適正さを確保するため、その取調べ過程・状況につき、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すべきである。
刑事司法が犯罪者の改善更生に果たしてきた役割は重要であり、犯罪者の矯正処遇、更生保護に関わる制度及び人的体制の充実には十分な配慮を払うべきである。
刑事手続の中で被害者等の保護・救済に十分な配慮をしていくべきであり、そのために必要な検討を行うべきである。併せて、被害者等への精神的、経済的ケアをも含めて幅広い社会的な支援体制を整備することが必要である。
国際的な民事事件の増大に対応するため、知的財産権関係事件への総合的な対応強化を始め、民事司法制度を一層充実・迅速化すべきである。
国際的な犯罪の増加に対応するため、国際捜査・司法共助制度については、適正手続の保障の下、今後一層拡充・強化すべきである。
弁護士が、国際化時代の法的需要に十分対応するため、専門性の向上、執務態勢の強化、国際交流の推進、法曹養成段階における国際化の要請への配慮等により、国際化への対応を抜本的に強化すべきである。
日本弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、例えば特定共同事業の要件緩和等を行うべきである。
現行司法試験合格者数の増加に直ちに着手し、平成16(2004)年には合格者数1,500人達成を目指すべきである。
法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら、平成22(2010)年ころには新司法試験の合格者数の年間3,000人達成を目指すべきである。
このような法曹人口増加の経過により、おおむね平成30(2018)年ころまでには、実働法曹人口は5万人規模に達することが見込まれる。
裁判所書記官等の裁判所職員、検察事務官等の検察庁職員の質、能力の向上を一層推し進めるとともに、その適正な増加を図っていくべきである。
司法を支える人的基盤については、行政改革を円滑に実施する観点からも、その飛躍的な増大を図っていくことが必要不可欠であって、そのために、法的措置を含め大胆かつ積極的な措置をとるべきである。
司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである。
入学者選抜は、公平性、開放性、多様性の確保を旨とし、入学試験のほか、学部成績や活動実績等を総合的に考慮して合否を判定すべきである。
法科大学院では、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである。
法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7〜8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである。
実務家教員の数及び比率については、カリキュラムの内容や新司法試験実施後の司法修習との役割分担等を考慮して、適正な基準を定めるべきである。
教員資格に関する基準は、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとすべきである。
法科大学院の設置は、関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとすべきである。
入学者選抜の公平性・開放性・多様性や法曹養成機関としての教育水準、成績評価・修了認定の厳格性を確保するため、適切な機構を設けて、第三者評価(適格認定)を継続的に実施すべきである。
第三者評価を実施する機関の構成については、法曹関係者や大学関係者等のほかに外部有識者の参加によって客観性・公平性・透明性を確保すべきである。
法科大学院導入後の法学部教育については、それぞれの大学が特色を発揮し、独自性を競い合う中で、全体としての活性化が期待される。
経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべきである。
適格認定を受けた法科大学院の修了者の新司法試験受験については3回程度の受験回数制限を課すべきである。
新司法試験は、平成17(2005)年度に予想される法科大学院の初めての修了者を対象とする試験から実施すべきである。
現行司法試験の合格枠制(丙案)は、現行試験合格者数が1,500人に達すると見込まれる平成16(2004)年度から廃止すべきである。
新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべきである。
司法研修所の管理・運営については、法曹三者の協働関係を一層強化するとともに、法科大学院関係者や外部の有識者の声をも適切に反映させる仕組みを設けるべきである。
法科大学院の設置認可や第三者評価(適格認定)の基準の策定、新司法試験及び新司法試験実施後の司法修習の具体的な設計等について、関係機関で連携して速やかにかつ着実に検討を進めるべきである。
設置認可及び第三者評価(適格認定)のための基準については、可能な限り早期にその内容を公表し、周知を図るべきである。
弁護士は、誠実に職務を遂行し、国民の権利利益の実現に奉仕することを通じて社会的責任(公益性)を果たすとともに、その使命にふさわしい職業倫理を保持し、不断に職務活動の質の向上に努めるべきである。
弁護士の公益活動については、その内容を明確にした上で、弁護士の義務として位置付けるべきである。また、公益活動の内容について、透明性を確保し、国民に対する説明責任を果たすべきである。
弁護士法第30条第1項に規定する公務就任の制限及び同条第3項に規定する営業等の許可制については、届出制に移行することにより自由化すべきである。
活動領域の拡大に伴う弁護士倫理の在り方を検討し、倫理研修の充実、綱紀・懲戒制度の適切な運用等により、弁護士倫理の遵守を確保すべきである。
弁護士広告の原則自由化に関し、弁護士の専門分野や実績等についても広告対象として認める方向で検討を加え、必要な措置を講じるべきである。
法律事務所の共同化・法人化、専門性の強化、協働化・総合事務所化等を推進するための方策を講じるべきである。
弁護士の専門性強化等の見地から、弁護士会による研修の義務化を含め、弁護士の継続教育を充実・実効化すべきである。
弁護士が、国際化時代の法的需要に十分対応するため、専門性の向上、執務態勢の強化、国際交流の推進、法曹養成段階における国際化の要請への配慮等により、国際化への対応を抜本的に強化すべきである。
日本弁護士と外国法事務弁護士等との提携・協働を積極的に推進する見地から、例えば特定共同事業の要件緩和等を行うべきである。
会務運営について弁護士以外の者の関与を拡大するなど広く国民の声を聴取し反映させることが可能となるような仕組みの整備
弁護士会において、弁護士改革など本意見で述べる諸改革を円滑に具体化し、その適正な運営と発展を確保するため、それに必要な態勢等の整備がなされることを期待する。
弁護士会は、弁護士への社会のニーズの変化等に対応し、弁護士倫理の徹底・向上を図るため、その自律的権能を厳正に行使するとともに、弁護士倫理の在り方につき、その一層の整備等を行うべきである。
懲戒請求者が綱紀委員会の議決に対する異議申出を棄却・却下された場合に、国民が参加して構成される機関に更なる不服申立ができる制度の導入
司法書士への簡易裁判所での訴訟代理権については、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与すべきである。また、簡易裁判所の事物管轄を基準として、調停・即決和解事件の代理権についても、同様に付与すべきである。
弁理士への特許権等の侵害訴訟(弁護士が訴訟代理人となっている事件に限る。)での代理権については、信頼性の高い能力担保措置を講じた上で、これを付与すべきである。
税理士について、税務訴訟において、裁判所の許可を得ることなく、補佐人として、弁護士である訴訟代理人と共に裁判所に出頭し、陳述する権限を認めるべきである。
行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士など、その他の隣接法律専門職種などについては、その専門性を訴訟の場で活用する必要性や相応の実績等が明らかになった将来において、出廷陳述など一定の範囲・態様の訴訟手続への関与の在り方を個別的に検討することが、今後の課題として考えられる。
ADRを含む訴訟手続外の法律事務に関して、隣接法律専門職種などの有する専門性の活用を図るべきである。具体的な関与の在り方については、弁護士法第72条の見直しの一環として、職種ごとに実態を踏まえて個別的に検討し、法制上明確に位置付けるべきである。
弁護士法第72条については、少なくとも、規制対象となる範囲・態様に関する予測可能性を確保するため、隣接法律専門職種の業務内容や会社形態の多様化などの変化に対応する見地からの企業法務等との関係も含め、その規制内容を何らかの形で明確化すべきである。
ワンストップ・サービス(総合的法律経済関係事務所)実現のため、弁護士と隣接法律専門職種などによる協働を積極的に推進するための方策を講じるべきである。
企業法務等の位置付けについて検討し、少なくとも、司法試験合格後に民間等における一定の実務経験を経た者に対して法曹資格の付与を行うための具体的条件を含めた制度整備を行うべきである。
特任検事、副検事、簡易裁判所判事の経験者の有する専門性の活用等を検討し、少なくとも、特任検事へ法曹資格の付与を行うための制度整備を行うべきである。
検察の厳正・公平性に対する国民の信頼を確保する観点から、次のような検察官の意識改革のための方策を実施すべきである。
検事を、一定期間、一般の国民の意識・感覚を学ぶことができる場所で執務させることを含む人事・教育制度の抜本的見直し
幹部を含む検察官が犯罪被害者の心情や警察等の第一次捜査機関の活動等に対する理解を深めるための具体的方策
検察官が独善に陥ることを防止するとともに、検察官としての基本的な在り方を徹底するため、部内研修等の充実強化を行うこと
刑事手続への新たな国民参加制度の実効的実施を支えうるよう、立証活動等の能力の向上を図るための適切な研修制度等を導入すべきである。
検察審査会が検察事務の改善に関し検事正に対して行う建議・勧告の制度を充実・実質化することを含め、検察庁の運営について、国民の声を聴取し反映させることが可能となるような仕組みを導入すべきである。
多様で豊かな知識、経験等を備えた判事を確保するため、原則としてすべての判事補に裁判官の職務以外の多様な法律専門家としての経験を積ませることを制度的に担保する仕組みを整備すべきである。
特例判事補制度については、計画的かつ段階的に解消すべきである。このためにも判事を増員するとともに、それに対応できるよう、弁護士等からの任官を推進すべきである。
弁護士任官等を推進するため、最高裁判所と日本弁護士連合会が、一致協力し、恒常的な体制を整備して協議・連携を進めることにより、継続的に実効性のある措置を講じていくべきである。
最高裁判所が下級裁判所の裁判官として任命されるべき者を指名する過程に国民の意思を反映させるため、最高裁判所に、その諮問を受け、指名されるべき適任者を選考し、その結果を意見として述べる機関を設置すべきである。
同機関が、十分かつ正確な資料・情報に基づき、実質的に適任者の選考に関する判断を行いうるよう、例えば、下部組織を地域ブロックごとに設置することなど、適切な仕組みを整備すべきである。
裁判官の人事評価について、評価権者及び評価基準を明確化・透明化し、評価のための判断資料を充実・明確化し、評価内容の本人開示と本人に不服がある場合の適切な手続を設けるなど、可能な限り透明性・客観性を確保するための仕組みを整備すべきである。
裁判官の報酬の進級制(昇給制)について、現在の報酬の段階の簡素化を含め、その在り方について検討すべきである。
家庭裁判所委員会の充実、地方裁判所での同委員会と同様の機関の新設など、裁判所運営について、広く国民の意見等を反映することが可能となるような仕組みを導入すべきである。
最高裁判所裁判官の地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべきである。
最高裁判所裁判官の国民審査制度について、国民による実質的な判断が可能となるよう審査対象裁判官に係る情報開示の充実に努めるなど、制度の実効化を図るための措置を検討すべきである。
法律専門職(裁判官、検察官、弁護士及び法律学者)間の人材の相互交流を促進することにより、真に国民の期待と信頼に応えうる司法(法曹)をつくり育てていくこととすべきである。
刑事訴訟手続において、広く一般の国民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである。
裁判官と裁判員は、共に評議し、有罪・無罪の決定及び刑の量定を行うこととすべきである。裁判員は、評議において、裁判官と基本的に対等の権限を有し、審理の過程においては、証人等に対する質問権など適当な権限を有することとすべきである。
一つの裁判体を構成する裁判官と裁判員の数及び評決の方法については、裁判員の主体的・実質的関与を確保するという要請、評議の実効性を確保するという要請等を踏まえ、この制度の対象となる事件の重大性の程度や国民にとっての意義・負担等をも考慮の上、適切な在り方を定めるべきである。
ただし、少なくとも裁判官又は裁判員のみによる多数で被告人に不利な決定をすることはできないようにすべきである。
裁判員の選任については、選挙人名簿から無作為抽出した者を母体とし、更に公平な裁判所による公正な裁判を確保できるような適切な仕組みを設けるべきである。裁判員は、具体的事件ごとに選任され、一つの事件を判決に至るまで担当することとすべきである。
裁判員の主体的・実質的関与を確保するため、公判手続等について、運用上様々な工夫をするとともに、必要に応じ、関係法令の整備を行うべきである。
基本法制の改正の早期実現に期待するとともに、司法の運用もまた国民の視点に立った分かりやすいものとする配慮がなされることが望まれる。
学校教育等における司法に関する学習機会を充実させることが望まれる。このため、教育関係者や法曹関係者が積極的役割を果たすことが求められる。
判例情報をプライバシー等へ配慮しつつインターネット・ホームページ等を活用して全面的に公開し提供すべきである。
本意見の提言する改革は、内閣が総力を挙げて取り組むこととしなければ、容易に成し遂げられるものではないことから、内閣に強力な推進体制を整備し、一体的かつ集中的にこれに取り組まれるよう求める。
内閣及び関係行政機関に対して、司法制度改革に関する施策を総合的に策定するとともに、計画的に、かつ、できるだけ早期に、それらの施策を実施するよう能う限りの努力を傾注されることを強く求める。
内閣及び関係行政機関による司法制度改革に関する施策の実施に当たっては、最高裁判所、日本弁護士連合会その他の関係機関による協力と貢献が得られなければ、改革を十全に実現することは困難であるため、それらの関係機関に対して、内閣及び関係行政機関による司法制度改革に関する施策の実施に最大限協力するとともに、これと並行して、自らの職務に係る制度や運営の改革・改善に積極的に取り組まれることを要望する。
裁判所、検察庁等の人的体制の充実を始め、今般の司法制度改革を実現するためには、財政面での十分な手当が不可欠であるため、政府に対して、司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について、特段の配慮をなされるよう求める。

[ 134] 司法制度改革-司法制度改革審議会意見書(抜粋)
[引用サイト]  http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/report/ikensyo/bassui.html

  日本は、商業的な性的搾取のために売買される男女や子どもの目的国および通過国となっている。人身売買の被害者の大半は、合法的な仕事を求めて日本へ移動してくるものの、だまされたり強制されたりして、借金に縛られ、あるいは性的奴隷状態となった外国人女性である。中国人およびタイ人の移民が強制労働で搾取されているとの事例報告もある。女性や子どもは、主としてタイ、フィリピン、ロシア、および東ヨーロッパから、商業的な性的搾取のために日本へ売買されている。これより規模は小さいが、コロンビア、ブラジル、メキシコ、韓国、マレーシア、ビルマ、およびインドネシアからも、女性や子どもが性的奴隷として日本へ売買されている。日本人の未成年女子が性的搾取のために国内で人身売買される問題も継続している。日本における人身売買被害者数についてのはっきりとした推計はないが、被害者は相当数に上るという点で大方の意見が一致しており、また多くの女性は人身売買業者による報復を恐れて、名乗り出ることをしない。国際的に活動する日本の組織犯罪集団(ヤクザ)が、人身売買に関与していると考えられている。
  日本政府は、人身売買撲滅のための最低基準を十分には満たしていないが、満たすべく著しい努力をしている。この1年間に日本は、人身売買対策の改善の促進にさらなる進展を見せた。日本政府は、人身売買対策に一層の積極的な姿勢を示し、被害者のケアと保護に、さらなる資源を投入した。また、フィリピン人への「興行ビザ」発給を厳格化するという政府の努力にも著しい前進が見られ、その結果、フィリピン人女性の日本への売買が大幅に減少した。しかしながら、改善された法執行対策が、人身売買業者に対する執行猶予付きの判決に終わるという例がしばしば見られる。人身売買に関わっているとされる犯罪組織に対する捜査および起訴のためのより一層の努力、そうした組織が外国人のダンサーや歌手を雇用することを阻止するための法改正、そして人身売買に関与した罪で有罪判決を受けた者に対する実刑の長期化が、日本における人身売買の減少に役立つであろう。
  この1年間に、人身売買行為を処罰する日本政府の努力は改善された。2005年6月、政府は、人身売買を犯罪とし、重い懲罰を規定することを明確にすべく大幅な刑法改正を行った。しかしながら、人身売買の犯罪を証明するために必要な証拠書類を整備することが難しいため、この法律の適用が妨げられている。「入国管理及び難民認定法」の改正も、人身売買の問題に対処し、政府が人身売買の被害者に一時的な特別在留許可を与えることを可能にした。このほかにも、人身売買業者の処罰に適用可能な関連法令が多数あり、こうした法令は被害者が未成年である場合によく使われている。
  将来、組織犯罪処罰法が改正されれば、検察官が人身売買に対して「共謀罪」の規定を一層広範に適用することができるようになり、刑罰が拡大され、財産没収が認められるようになる。2006年5月、改正風営法が施行され、これによって風俗営業の事業者は、従業員の在留資格を確認し実証することが義務付けられた。
  過去2年間、人身売買関連の犯罪に対する法執行対策は着実に強化されてきているが、人身売買業者の拘禁につながった起訴の例はほとんどない。政府の報告によると、2005年には、人身売買に関して75件の起訴があり、うち64件に有罪の判決が下され、11件が係争中である。2005年半ばに改正刑法が施行され、政府は、同法の規定の下、1件の有罪判決を得た(現在控訴中)。現在、改正刑法の下で捜査が継続している人身売買事件が数件ある。人身売買関連の犯罪で有罪となった者64人のうち3人が、4年から5年の懲役刑および多額の罰金を科された。日本の司法慣習に従って、その他の犯罪者の大半は執行猶予付きの判決を下された。これは通常、罰金を伴い、犯罪者に一定期間の再犯がない限り、実刑はない。政府は、年間を通じて、人身売買事件で、インドネシア、タイ、コロンビアなど多くの国々と積極的に協力した。警察庁は引き続き、同庁の捜査官や地方警察に対して、2003年に非政府組織(NGO)と共同で制作したドキュメンタリー映画を利用した研修を実施している。しかしながら、日本では、組織犯罪との結びつきを立証することが、法執行にとり重要な障害となっている。
  日本政府は、人身売買の被害者を保護し、シェルターを提供する多大な努力を継続し、そのために10万ドルの予算を計上した。また国会が、これとは別に、被害者の医療のための予算を審議中である。政府の報告によると、 2005年には日本国内で109人の被害者が確認され、保護サービスを受けた。通常、被害者は、日本の47都道府県のすべてに設置されている女性相談センターのいずれかでで保護および支援を受ける。女性相談センターは、被害者に直接サービスを提供するか、または民間の施設に紹介する。被害者が18歳未満である場合は、児童相談所に紹介する。日本政府の2005年の予算では、被害者対策に1000万円が要求され、これには、シェルター、精神的なケア、および医療支援の資金が含まれる。東京都および神奈川県のNGOのシェルターは、地方自治体からも、人身売買被害者対策の資金援助を受けている。昨年、日本は、外国人の人身売買被害者の帰国を支援するために、国際移住機関(IOM)に資金を提供し(16万ドル)、その結果66人の被害者が無事帰国した。このほか、外国人被害者47人に一時的な在留許可が与えられた。この1年間に新たな審査過程が導入され、その結果、人身売買被害者と認定された総数は増えたが、この認定数はまだ比較的少ないという意見が大勢を占める。こうした進展はあったが、日本政府は、人身売買の犯罪捜査あるいは起訴に協力することに同意した女性に対する保護を強化する必要性を認識している。被害者の女性の多くは、依然として身の危険を感じており、人身売買業者に不利な証言をすることを拒否している。より協調的な紹介の仕組みと、人身売買の被害者専用のシェルターを充実させることによって、被害者が受けられるサービスを改善することができる。
  日本政府は、日本において人身売買が大きな問題であることを認識しており、「人身取引に関する関係省庁間連絡会議」を設置した。また政府は、2004年の全国的な「人身取引対策行動計画」を実行している。潜在的被害者が助けを求めることができる連絡先を知らせるパンフレットを7カ国語で100万部作成するなど、社会への広報活動が数多く実施されている。日本は、被害者送出国に対する援助を極めて積極的に行っており、コロンビアとタイの両国で、人身売買抑止を目的とするプログラムに資金を拠出している。また日本政府は、これらの国々における人身売買対策活動のために、ユニセフに65万ドル、国際労働機関(ILO)に200万ドルを拠出した。政府は、人身売買への需要対策を開始しており、そのために日本の中学・高校に配布される海外事情紹介の雑誌に人身売買に関する情報を掲載し、また学校のカリキュラムで人身売買をどのように取り上げるかという研究プロジェクトに着手している。日本では、売春は違法であるが、その需要を刑事罰の対象とする努力はなされていない。

[ 135] 2006年人身売買報告書(抜粋)
[引用サイト]  http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20060606-50.html

[被害者の概観:この報告書で取り上げた、被害者の証言による人身売買の例は代表的なものだけであり、すべての形態の人身売買が含まれているわけではない。このような事例は、不幸にも世界中のほぼすべての場所で行われる可能性がある。これらの例は、人身売買の多様な形態と、それらが行われている地域の広がりの大きさを示すために取り上げた。人身売買の影響を逃れる国は存在しない。この報告書で使われている被害者の名前はすべて仮名である。この報告書の表紙の写真や、多くの写真説明なしの写真は、実際の人身売買被害者のものではないが、これらは、人身売買の無数の搾取形態を定義する助けとし、被害者が発見される文化の多様性を示すために掲載した。]
コンゴ民主共和国の反乱軍が12歳のナタリアを軍に参加させた。「ある日、反乱軍が私の住む村を襲いました。彼らは、隠れている私の目の前で、親戚の人たちを殺し、母や姉妹をレイプしました。私は反乱軍に参加すれば安全だと思いました。反乱軍で銃の使い方を習い、見張りの役を与えられました。頻繁に他の兵士に殴られたり、レイプされました。ある日、隊長が私を妻にしたがったので、逃げ出そうとしました。彼らは私を捕まえ、むちで打ち、長い間、毎晩私をレイプしました。子供が生まれたのは、まだ14歳の時です。父親が誰かも分かりません。また逃げ出しました。でも、行く場所も、赤ちゃんの食べ物もありません。戻るのが恐ろしいのです」
国務省には、過酷な人身売買の根絶に向けた外国政府の努力に関する年次報告書を議会に提出する法的義務がある。この2004年6月に提出した報告書は、第4回の人身売買年次報告書である。人身売買根絶に向けた各国の行動が主題ではあるものの、この報告書は、21世紀の奴隷制度である人身売買の被害者の悲痛な話も述べている。この報告書では、米国の法律および世界中で使われている「人身売買(trafficking in persons)」という言葉を用いている。この言葉は、あらゆる形態の奴隷売買と現代の奴隷制度を包含している。
人身売買の悲劇を完全に理解し、人身売買に対する戦いに打ち勝つためには、被害者のことを十分に知る必要がある。被害者が誰なのか、なぜ被害を受けやすいのか、いかにしてわなにかけられたのか、被害者に自由を与え、その傷を癒やすために必要なことは何なのか、を知る必要がある。他国政府の努力を評価する上で、人身売買報告書が重視しているのは、訴追(prosecution)・保護(protection)・防止(prevention)の3Pである。しかし、人身売買の被害者を中心にしたアプローチには、救助(rescue)・転居(removal)・復帰(reintegration)の3Rに対処することが同様に求められる。われわれは、捕らわれた人々の叫びに耳を傾ける必要がある。すべての国が団結してこの悪に立ち向かうまで、われわれの使命は完了しない。
140年以上前に、米国は奴隷制度を廃止させ、同制度を支持する者たちが国を分裂させることを防ぐために激しい戦争を戦った。そして米国は国の慣行を廃止することに成功したが、奴隷制度は多くの男女や子供の生命と自由を脅かす拡大する世界的脅威として戻ってきている。
人身売買のない国はない。毎年推定60?80万人にのぼる男女と子供が国境を越えて売買されており(国際・非政府機関の中にはこれよりかなり多くの数を推定しているところもある)、ビジネスは成長しつつある。この数字は、これよりはるかに多い各国国内で売買されている不確定の人数にさらに加えるものである。被害者は、売春を強制されたり、採石場、労働搾取工場、農場で働かされ、召使いや少年兵その他の多様な強制労働を強いられている。米国政府は、国際的に売買されている被害者の半数以上が、性的搾取のためであると推定している。
非常に多くの被害者が、自国内で売買されている。犯罪要因、経済的困窮、政府の腐敗、社会的混乱、政治の不安定、自然災害、軍事衝突が起因して、21世紀の奴隷売買が、安価で無防備な労働力への世界的需要を満たしている。さらに、人身売買による利益が、国際犯罪組織拡大の資金源になり、政府の腐敗を助長し、法の支配を弱体化している。国連の推定によると、組織犯罪にとり、人身売買による利益は、麻薬と武器の売買に次ぐ3番目の収入源になっている。
チェコ共和国で結婚生活がうまくいっていない2歳の娘を持つカティアは、オランダでウエートレスをすれば良い収入が得られるという友人の勧めに従った。チェコの人身売買業者の車でカティアと他の4人の若い女性はアムステルダムに向かい、そこで合流したオランダの人身売買業者に売春宿に連れて行かれた。こんなことはしないとカティアが言うと、やらなければ、娘は生きてチェコには戻らないと言われた。長年にわたる脅迫と強制売春の後に、親切なタクシー運転手に救助された。カティアは現在病院で仕事をしながら、社会福祉の学位を得るために勉強している。
現代の奴隷売買は、世界のすべての国々に対する多面的脅威となっている。人権侵害によりもたらされる個人の苦悩に加えて、人身売買の組織犯罪へのつながりと、麻薬や武器の取引などによる深刻な安全保障上の脅威が明らかになってきている。被害者が、劣悪な生活環境や強制性行為のいずれかが原因で、病気に感染し、さらに別の場所に売り渡されることから、公衆衛生への深刻な懸念も同様に明らかになっている。他の差し迫った問題を優先させて、人身売買問題を軽視するという選択をする国は、危険を覚悟してそうしなければならない。即時の行動がどうしても必要とされている。
2000年に議会が可決し、大統領が制定した2000年人身売買被害者保護法(22 U.S.C. 7101 et seq.)=TVPAは、2003年人身売買被害者保護再承認法(公法108-193)により最近改定された。TVPAの目的は、人身売買業者を処罰し、被害者を保護し、世界的人身売買対策キャンペーンに向けて米国政府諸機関を動員することにより、人身売買と戦うことにある。改訂されたTVPAにより、国務省・司法省・労働省・国土安全保障省・保健福祉省・米国国際開発庁には重要な権限が与えられた。
この報告書は、TVPAが義務付けたものであり、その目的は、人身売買に対する世界の認識を高め、他の国々の政府に効果的な行動を起こすことを求めていくことにある。この報告書は、人身売買と戦うための新しく重要な方法において、増えつつある国際社会のコミュニティーが情報を共有し、パートナーとなる努力に一層の重点を置いている。この報告書では、人身売買排除に向けた最低基準を満たすための重要な行動をとることを怠った国に対しては、否定的な評価が与えられる。このような評価を受けた国に対して、米国からの人道的支援以外の支援や非貿易関連の支援差し止めが誘発されることもあり得る。
現代の奴隷制度のなかでおそらく最も醜い側面の1つは、人間の生命の商品化、つまり1人の女性、1人の男性、そして1人の子供の命に金銭的価値をつけることである。インドの売春宿でも、またスーダンの奴隷収容所でも、被害者の自由に価格が付けられているのである。
被害者救済に取り組む組織や個人は、時には被害者の自由を金銭で買うことを選択してきた。この身代金を支払うことで、即座に結果は出る。被害者は奴隷の束縛から解放される。しかし、この手段はさらに複雑な結果をもたらす。
組織や個人が所有する売春宿から被害者が解放されても、人身売買業者は、この取引で得た収入で新たな被害者を獲得し、同様の仕事をさせることができるのである。被害者の実数が減少したか否かを判断することは困難である。いずれにせよ、人身売買業者・搾取者が、代償を払うことも処罰を受けることもなく、奴隷が続く可能性がある。
被害者の自由を確保するためのより永続的で効果的な方法は、法を適用すること、つまり刑事司法制度の下で被害者を売買した人身売買業者・搾取者の罪を裁くことである。金銭で賠償することなく被害者を救助する強制捜査と奴隷行為をさせた者の逮捕という司法手段は、このような憎むべき取引を行う商人に高い代償を払わせる。刑法を適用することで、社会が処罰の手段を持つことになる。米国の法律が、政府が人身売買の形態を刑事罰の対象にすることを優先事項とする理由はここにある。
人身売買の広がりと実態に関して、われわれが知らなければならないことは多い。この報告書でわれわれは、情報の乏しい分野を指摘し、さらなる調査を必要とする諸問題を提起することに努めた。このような制約の下に、2004年人身売買報告書は、現代の奴隷制度の実態と広がり、および人身売買根絶に向けた世界的キャンペーンの中での広範囲にわたる行動に関する最新かつ包括的調査となっている。
TVPA、人身売買年次報告書、強力なリーダーシップ、政府の努力の強化、国際機関ならびにNGOの関心が高まったことなどの結果として、われわれは、協力の新たな局面を迎えている。各国は相互の協力を強化して、人身売買ルートの閉鎖、人身売買業者の訴追と有罪宣告、被害者の保護と社会復帰に取り組んでいる。この報告書が、より大きな前進に拍車をかけることを期待する。
政治の腐敗が、多くの国々で、人身売買に対する戦いの大きな障害になっている。人身売買に関連する政治腐敗の規模は、局地的なものから国全体のものまである。そのような公的な腐敗の問題を抱える国々は、問題解決のための効果的な手段を見いだす必要がある。中央ヨーロッパと東ヨーロッパの諸国が、人身売買対策強化のために行なった腐敗対策には、効果的なものがいくつかある。それには、法執行官に対する安定性・知性・性格・倫理・忠誠度のテストを含む心理テストの実行、倫理に関する講習の義務化、標準身分証明書の発行、誠実度テストの無作為の実施、最良事例マニュアルの配布と使用、職員個人の所持品と現金の無作為の検査、匿名による腐敗対策ホットラインの公表、交通量の多い国境検問所に重点を置いた人員配置転換、昇給、業績に応じた報奨金、各自の職務の重要性の理解向上のための研修の実施、職務宣誓の義務化、出入国記録などに対する定期的行政検査の制度化が挙げられる。
20代後半の、デンは、オーストラリアでは売春で大金が手に入ると地元のタイで誘われて、自発的にオーストラリアに向かった。しかし、オーストラリアに到着すると、迎えに来た人身売買業者は、彼女のパスポートを取り上げて、一軒の家に閉じ込めた。彼女は、3万ドルの借金を返済するために、900人の男に奉仕するように言われた。ろくに食べる物も与えられず、毎日、病気の時にも、強制的に売春宿に連れて行かれた。逃げようとしたら、人身売買グループの犯罪組織が捕まえると言われた。オーストラリア移民局の職員が、デンを奴隷として働かせていた売春宿を強制捜査したことにより、デンに対する搾取は終わった。
人身売買、特に女性と子どもの人身売買の防止・禁止・処罰に関する議定書(3つの「パレルモ議定書」の1つ)は、人身売買を次のように定義している。
搾取を目的として、脅迫や、暴力その他の強要、誘拐、不正行為、偽装、権力乱用、他人の弱い立場を悪用、他人を支配できる人物への金銭や便宜の授受などの手段を用いて、人を募集し、移送・移動したり、かくまったり、受け入れることとしている。搾取には少なくとも、売春における搾取やその他の形態の性的搾取、強制労働や強制奉仕、奴隷制度や奴隷制度・隷属と同様の行為、あるいは臓器の摘出が含まれる。
多くの国が、この定義を誤解して、国内の人身売買を見過ごしたり、あらゆる不正な移住を人身売買と見なしている。TVPAは、「過酷な形態の人身売買」を次のように定義している。
A. 営利目的の性行為が暴力や、詐欺行為、強要により誘発された場合、または営利目的の性行為をさせられる人物が18歳未満の場合における性的人身売買。
B. 不本意な強制労働や、日雇い労働者、債務奴隷、奴隷として服従させることを目的に、暴力や詐欺行為、強要によって人間を労務や奉仕のために募集、かくまい、移送、供与、獲得する行為。
これらの定義には、人身売買被害者が移動されることを条件にしていない。また、前述の目的で人間を募集し、かくまい、供与し、獲得する行為に適用される。
インドネシアの農村出身の10代のティナは、4カ月の家事訓練と4カ月のインドネシア海外労働センターの寮費として数百ドルの借金を背負いこんだ。そこから、ティナは、他の多くのインドネシアの少女と同様に、マレーシアに移された。彼女は、そこでマレーシアの夫婦のお手伝いさんとして働くと思っていた。零細企業で1日15時間も強制的に働かされたティナの寝る場所は、床だった。彼女は、2年の契約が完了するまで、給料は支払われないと言われた。度重なる肉体的虐待を受けた後、彼女は、マレーシアのNGOの被害者避難所に保護を求めた。ティナは、雇用主を警察に告訴し、マレーシアで訴訟を続けるために彼女の移民ビザの延長が認められた。
人身売買の被害者は、恐るべき犠牲を払わされている。多くの人身売買被害者は、生涯消えることのない病気や発育障害などの肉体的、精神的な痛手を負わされ、親族や共同体から締め出されている。人身売買被害者は、社会的、道徳的、精神的な成長の重要な機会を逃してしまうことが多い。多くの場合、人身売買被害者の搾取は、進行する。1つの仕事に売り渡された子供は、また次の仕事へと売り渡され、さらに搾取される。ネパールでは、カーペット工場やホテルやレストランでの仕事のために集められた少女は、その後、インドの性産業で強制的に働かされる。フィリピンおよびその他の多くの国々では、最初はホテルや観光の仕事のために移住したり、集められた子供たちは、しばしば売春宿に閉じ込められることになる。現代の奴隷売買の残酷な現実は、被害者が次から次へと売買されていくことが非常に多いということである。
性的奴隷として強制的に働かされる被害者は、麻薬により服従させられ、極度の暴力に苦しんでいることが多い。性的搾取を目的に売られた被害者は、成熟前の性行為・強制的薬物乱用・HIV・エイズなどの性感染症にさらされることなどで肉体的かつ精神的なダメージを受けている。被害者の中には、生殖器に永久的な損傷を受ける者もいる。さらに、その土地の言語を話すことも理解もできない場所に売られた被害者は、孤立と支配下にあることで、精神的なダメージがいっそう大きくなる。皮肉なことに、言いようのない苦難と剥奪(はくだつ)に耐える人間の能力が、捕らえられた多くの被害者に、やがて自由になれることを期待しながら仕事を続けさせることになる。
人身売買は、人権の侵害である 本質的に、人身売買は、生きる権利、自由である権利そしてあらゆる形態の奴隷制度からの自由という基本的人権を侵害している。児童売買は、保護された環境の中で成長するという児童の基本的要件、および性的虐待と搾取から逃れる権利を無視している。
児童の商業的性的搾取は、世界中の国々で、毎年大勢の児童に影響を与えている。この種の搾取の形態の1つが、増大しつつある児童買春ツアー現象である。児童との商業的性行為を目的に外国に旅行する人は、児童買春ツアー(CST=Child Sex Tourism)の罪を犯している。この犯罪行為は、不十分な法執行とインターネット、旅行の容易さ、そして貧困が原因で増大している。
CSTの罪を犯す旅行者の多くが、自国から途上国へ出かけていく。例えば、日本のセックスツアー参加者はタイに出かけていき、アメリカ人はメキシコや中米に出かけていくことが多い。「相手を児童に特定しないセックスツアー参加者」は、児童との性行為を目的に旅行することはないが、いったんその国に入ると、子供を性的に利用している。「児童との性行為目的のセックスツアー参加者」または小児性愛者は、児童を性的に搾取する目的で旅をする。
増大するCST現象に対応して、政府間組織や観光業界そして各国政府がこの問題に対処し始めた。1996年にストックホルム、そして2001年に横浜で開かれた「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」は、この問題に関する世界的な関心を高めた。世界観光機関は、CST対策を目的にしたタスクフォースを設立し、1999年に世界観光倫理規約を採択した。過去5年の間に、児童買春ツアー犯罪の起訴件数が世界的に増加している。現在では、32カ国に、犯罪が発生した国でその犯罪が処罰の対象になるか否かにかかわらず、海外で罪を犯した自国の国民を起訴することを可能にする域外適用法が定められている。
児童買春ツアーに対する闘いを進めるために、賞賛すべき措置を講じた国もある。例えば、フランスの文部省は、旅行業界代表者と協力して観光業専門校のカリキュラム用にCSTに関するガイドラインを作成した。また、国営のエールフランス航空は、機内販売による玩具の売り上げの1部を、CST啓発活動に当てている。ブラジルでは、セックスツアーに対する国内外での啓発活動を行なっている。イタリアでは、児童セックス犯罪に対する域外適用法の存在を周知させることを旅行業者に義務付けている。またスウェーデンの旅行業社のほぼ全社が、自社の職員にCSTに関する教育を行なう行動規範に署名している。カンボジアでは、児童買春ツアー対策専門の警察部隊を組織し、外国の小児性愛者を逮捕し、送還している。日本では、外国で児童と性行為をした日本人が起訴されている。
米国は昨年、人身売買被害者保護再承認法と児童保護法(PROTECT Act)を制定し、児童買春ツアー対策の能力を強化した。これら2つの法律により、CST情報の作成と配布を通じて認識を高め、児童買春ツアーに関った者の刑期を最高30年まで延ばす。「捕獲作戦」(Operation Predator=児童搾取・児童ポルノ・児童買春ツアー対策のための2003年度イニシアティブ)の開始後8カ月の間に、米国法執行機関は児童買春ツアーの罪で25人の米国人を逮捕した。全般的に見れば、国際社会は、児童買春ツアーという恐ろしい問題に対して目覚めてきており、重要な初期段階の方策を講じ始めている。
目には見えにくいが、さらなる人道的危機が広がっている。世界では毎年、人間が売買され、国境を越えて強制的に連れ去られている。性的売買の対象にされたこれらの被害者の中には多くの10代の少女と、5歳の児童さえも含まれている。人間の売買により、毎年数10億ドルの利益が生み出され、大半が組織犯罪の資金源になっている。
最も罪のない弱者に対する虐待と搾取は特別な悪である。性的売買の被害者は、通常の生活というものをほとんど知らずに、残酷と孤独な恐怖に満ちた隠れた世界、つまり最悪の人生を体験する。このような被害者を作り出し、被害者の苦悩により利益を上げる者たちは、厳重に処罰されねばならない。このような業界を利用する者は自らを卑しめるものであり、他者の苦痛を深めるものである。そして、このような売買を容認する政府は、ある種の奴隷制度を容認することになる。
この問題はわが国にも存在しており、われわれはこれを阻止するための行動を起こしている。今年私が署名した児童保護法(PROTECT Act)により、児童買春ツアーの目的で、米国に入国をした者は国籍を問わず、またその目的で海外に旅行した米国人は、罪に問われることになった。司法省は、セックスツアー業者と利用者の捜査を積極的に進めており、これにより最高30年の禁固刑に処することも可能である。人身売買被害者保護法により、米国は、人身売買を防止するために、他の政府に対して制裁手段を用いている。
この業界の被害者は、国連加盟国の助けも必要としている。そして、これは各国の法による明確な基準と確実な処罰から始まる。現在、海外での児童に対する性的虐待を違法行為とする国もある。そのような行為は、すべての国において違法にすべきである。各国政府は、この業界がもたらす害悪およびその利用者に与えられる厳重な処罰に関して、旅行者に知らせるべきである。米国政府は、搾取から女性と児童を救い出し、避難所を用意し、治療を施し、新たな生活への希望を与えている機関の活動を支援するために5千万ドルを用意している。私は、他の政府も役割を果たすことを強く求める。
われわれは、この古くからの悪との戦いに新たな力を示さなければならない。大西洋間の奴隷貿易が廃止されてからほぼ2世紀、そして奴隷制度が最後の拠点で正式に終わってから1世紀以上が経過したわれわれの時代に、いかなる目的であれ人間の売買が広がるのを許してはならない。
ノイは、タイの貧しい農村から出てきた。15歳の時、里子に出された先の家族によるレイプと性的虐待から逃れようとしたノイは、日本での高給ウエートレスの仕事を宣伝していたバンコクの国外職業紹介業者を見つけた。空路日本に入ったノイは後に、偽名を用いた観光ビザで日本に入国したことを知った。日本に到着後ノイが連れて行かれたカラオケバーのオーナーは、彼女をレイプし、血液検査を受けさせた後に、ノイを買い受けた。「まるで検査される肉の塊のように感じました」とノイは語った。売春宿のマダムはノイに、日本への旅行費用1万ドルの借金を返済しなければならないと告げた。 ノイはマダムに警告された。逃げ出そうとした少女たちは、日本のマフィアに連れ戻され、ひどく殴られ、借金を倍にされた、と。借金を返済する唯一の方法は、できる限り早く、多くの客を取ることだった。客の中には、彼女たちを、血が出るまで、棒やベルトや鎖で打つ者もいた。被害者が泣いて戻ると、マダムに殴られ、彼女たちが客を怒らせたに違いない、と言われた。 売春婦たちは、決まってセックスの前に「あまり痛みを感じないようにするため」麻薬を打たれた。客の大半が、コンドームを使うことを拒んだ。被害者には、妊娠を防ぐためにピルが渡され、妊娠すると家で中絶させられた。 借金を返し終えて、独立して働き始めた被害者の多くが、警察に逮捕され、罰金を科され、拘留され、そして強制送還される前にレイプされた。ノイは、最後には、日本のNGOの助けでなんとか逃げ出すことができた。
人身売買は、社会の崩壊を促す 家族および共同体の支援ネットワークを失うことは、被害者を人身売買業者の要求と脅威に対し無防備にし、いくつかの面で社会構造の崩壊につながる。人身売買は、子供たちを両親や拡大家族から引き離し、養育と精神的成長の機会を阻害する。人身売買は、親から子へ、世代から世代への知識と文化的価値観を受け継ぐ道を閉ざし、社会の中核となる部分を弱める。人身売買による利益は、しばしば特定の共同体に人身売買の慣行を根付かせ、その共同体は被害者を生み出す重宝な供給源として繰り返し利用される。人身売買の被害者となる危険から逃れるために、子供や女性のような弱者は身を隠すようになり、それが就学や家族構造に悪い影響を与えるようになる。教育の喪失は、被害者の将来の経済的機会を減らし、将来、人身売買の犠牲になる可能性を高くする。元の共同体に戻ることのできた被害者は、しばしば汚名を着せられ、排斥されることになり、社会福祉を継続する必要がある。彼らは、薬物乱用や犯罪活動に走る可能性が大きい。
人身売買は、組織犯罪を増幅させる 人身売買による利益が、他の犯罪活動をも増幅させている。国連によると、人身売買は、世界の犯罪組織にとって3番目に大きい収入源になっている。米国の情報機関の推定によると年間95億ドルの収入になっている。人身売買はまた、最も利益をもたらす犯罪ビジネスの1つであり、不正資金洗浄・麻薬取引・文書偽造・人間の密輸に密接に結びついている。テロとの関係を指摘する文書もある。組織犯罪の多発地域では政府と法の支配は弱体化している。
人身売買は、労働市場に悪影響をもたらし、回復不能な人的資源の損失を招いている。人身売買の影響には、賃金の低下、増加する高齢者の介護に当たる人々の減少、そして教育不足の人口の増加などが含まれる。これらの影響は、さらに将来の生産性と収益力の低下につながる。児童を幼年期に毎日10時間から18時間も強制的に働かせることは、子供たちから教育の機会を奪い、国家の発展を妨げる貧困と非識字者の循環を補強する。
多くの国で、芸術・芸能ビザが、人身売買被害者の移動と搾取を目的に取得されている。多くの女性に、芸能界やサービス業での合法的な仕事に従事することを前提に芸術・芸能のための短期ビザが発給されている。このビザの多くが、クラブの所有者による労働契約または採用通知、資産証明、健康診断書などを提示することにより発給される。出身国と目的国の法律の下に認可された職業斡旋機関が、女性に対する詐欺行為と募集に主要な役割を果たすことが多い。目的地に到着後、被害者は、パスポートと渡航書類を奪われ、性的搾取や強制労働に追い込まれる。不法滞在したり、ビザの規約違反をすると、被害者は、搾取業者に、入国管理局に引き渡すと脅迫される。
スイス、スロベニア、キプロス、日本(これらの国に限られているわけではない)など、この種のビザを大量に発給している国の政府は、人身売買業者がこのメカニズムを頻繁に悪用していることを認識しなくてはならない。例えば、日本が、2003年に5万5000件の芸能ビザをフィリピンの女性に発給したことが報告されている。これらの女性の多くが人身売買の犠牲になっていると思われる。関係当局は、この種のビザの発給要件を精査し、繰り返し申請を行う人や保証人になる人たちに対する特別な審査手続きを実施すべきである。出国側では、女性を労働搾取や強制売春に誘い込むために人身売買業者が用いる策略に関して、芸能ビザ申請者に注意を呼びかけること目的とした啓蒙活動を行う必要がある。
多数の学術団体、NGO、科学研究機関が、売春と人身売買に直接関連があることを確認している。事実、売春と、売春あっせん・仲介業、売春宿の利用および経営などの売春関連行為が、人身売買の窓口としての役割を担い、その裏で、性的搾取目的の人身売買業者が動いている。スウェーデン政府が行った調査は、世界の売春産業が生みだした巨額の利益の多くが、人身売買業者の懐に直接入っていることを明らかにした。国際移住機関の推定によると、毎年50万人の女性が、ヨーロッパ各地の売春市場で売買(人身売買)されている。
毎年国境を越えて売買される60万人から80万人にのぼる被害者の70%が女性で、50%が子供である。これらの女性や少女の大半が、営利目的の性的売買の犠牲になっている。
「友達がエジプトでの仕事を私に手配してくれました。友達とキシネウからモスクワに行き、そこで私はエジプト行きの飛行機に乗りました。エジプトの空港に到着すると、入国管理と税関手続きを通るために1人の男性とペアを組まされました。そこに待っていた人たちが、私を最高級のホテルに連れて行きました。そのホテルの受付に預けた私のパスポートは私の手元に2度と戻ってきませんでした。彼らは、私を車に乗せ、とても長い時間走りました。ベドウィンが住む地区(エジプトのシナイ半島)に着くと、ベドウィンは私たちを連れて砂漠を行きました。ある時、銃声が聞こえました。女の子が1人殺されたようです。ベドウィンは、態度が気に入らないと、殺したり、殴ったりするのです。私たちは長時間地雷の埋められている砂漠を歩き続けなければなりませんでした。彼らは、地雷が埋められている砂地を指し示しました。ほとんど食べ物を与えられなかったので、イスラエルに着いた時には10キロもやせていました。砂漠を出た後、イスラエルのある町に連れて行かれ、そこでベドウィンは私たちを売り渡す手配をしました。大勢の少女が私と旅をしました。イスラエルに連れて行かれる少女は全員同じ道をたどり、同じような扱いを受けるのです」
タジク人の少女ナスリーンは、モスクワで働いていた。ナスリーンのボスは、お金と家と車と良い暮らしを約束して、愛人になることを求めた。ナスリーンはこの申し出を受け入れた。ある日、家を訪れた客がナスリーンに、トルコで働く機会があると勧めた。ナスリーンのボスは、彼女にこの申し出を受け入れることを強要した。ナスリーンは、だまされ、イスラエルで売られ、売春を強制された。親切なジャーナリストの助けを借りて、ナスリーンはそこを逃げ出て、家に戻ることができた。
人身売買は、公衆衛生を蝕む 人身売買の被害者の多くが、肉体的、性的、精神的外傷をもたらすような過酷な状況に耐えている。性感染症、骨盤内炎症性疾患、HIV/エイズは、強制売春が原因の場合が多い。不安、不眠症、うつ病、心的外傷後ストレス障害は、人身売買被害者の間に共通する精神的徴候である。不衛生で混雑した生活環境が、栄養不良と相まって、疥癬や結核などの感染症を引き起こす原因になっている。子供は、成長と発育上の問題に苦しみ、貧困や精神的外傷による複雑な精神的・神経系統問題を抱えることになる。
最もひどい虐待は子供に対して行われることが多い。子供は、管理しやすく、家事労働や武力衝突その他の危険な仕事に駆り出しやすい。子供は、進行性搾取つまり複数回にわたる売買の対象になりやすく、際限のない肉体的、性的、精神的虐待の対象にされる。このような虐待は、子供の精神的、肉体的リハビリテーションと社会復帰を困難なものにしている。
人身売買は、政府の権威を失墜させる 多くの政府が、自国の領土、特に腐敗がはびこる地域を完全に管理しようと懸命に努力している。武力衝突、自然災害、政治紛争、民族紛争が、多数の国内難民を生み出すことが多い。さらに、人身売買業者は、政府の権限を行使しようとする努力を阻害し、弱い立場の人々の安全に脅威を与える。多くの政府が、家や学校あるいは難民キャンプから誘拐されないように女性と子供を守ることができない。さらに、人身売買業者が払う賄賂が、法執行官、入国管理職員、司法当局職員の腐敗と戦う政府を妨げている。
人身売買は、巨額な経済的負担をもたらす 人身売買の根絶によって、極めて大きなな経済効果が得られる。国際労働機関(ILO)は最近、児童売買を含む最悪な形態の児童労働根絶の損失と利益に関する調査を完了した。ILOは、最悪な形態の児童労働根絶による経済効果は巨額(年間数百億ドル)なものになると結論付けている。その理由は、新世代の労働者が、教育の改善と公衆衛生の向上により得られる生産性の向上である。人身売買も、最悪の形態の児童労働と同様の人間的、社会的影響を及ぼしている。
少年兵の問題は、人身売買の中でも特異かつ深刻なものである。多数の18歳未満の子供たちが、政府軍、武装民兵組織、反乱軍の兵士として、武力衝突に徴兵されている。誘拐され、兵士になることを強制された子供もいれば、脅迫や賄賂あるいは口約束の報酬で兵士になった子供もいる。
多くの場合、食料や衣類そして住居を期待して武装組織へ参加するという子供の決断を、自由な選択と見なすことはできない。武力衝突に引き込まれた子供たちは、生き延びる手段を懸命に求めているのだ。精神的、肉体的に未熟な子供たちは、利用されやすく、また暴力行為を強制されやすい。暴力に対して鈍感にさせたり、より勇敢に戦わせるために、少年兵の多くにアルコールや麻薬の使用を強制している。
強制的に徴兵された子供の多くは、不適切な訓練を受け、手荒に扱われ、すぐに戦闘に駆りだされる。少年や少女は、年長兵士に先んじて戦闘や地雷敷設区域に送り出される可能性がある。自爆作戦に利用されたり、自分の家族や地元社会に対する残虐行為を強制された子供もいる。またリベリアで最近起きた紛争に巻き込まれた1万5000人の子供の一部のように、荷物運び、料理、見張り、召使い、伝令、スパイの仕事をさせられる子供もいる。多くの少年兵は、そのほとんどが少女兵だが、性的虐待を受けており、性感染症感染と望まない妊娠の大きな危険にさらされている。
少年兵の死傷率は、成人兵士の場合に較べて、はるかに高い。徴集された子供の顔や胸にナイフやガラスの破片で「印」をつける武装集団もあることが知られている。生き残った少年兵の多くが、自分たちが受けた暴力や蛮行による複数の外傷や精神的傷害に悩まされている。少年兵の人間としての成長は、取り返しのつかないほど傷つけられている。少年兵の家族や地元社会は、少年兵や、少年兵が属する集団が家族や地元社会に対して行った暴力行為を理由に、元少年兵だった人々の復帰を拒むことが多い。
大人の戦争に子供を利用することは、世界的な現象である。この問題は、アフリカとアジアにおいて最も深刻ではあるものの、南北アメリカやユーラシアおよび中東の武装集団も子供を利用している。少年兵の利用を禁止または制限する法律や国際的責務を実行する政治的な意思が欠如している国が多数見られる。すべての国が、国際機関やNGOと協力して、少年兵の武装解除、復員、社会復帰に向けた行動を緊急に起こす必要がある。
人の密輸と人身売買の違いは、紛らわしい。この紛らわしさが、正確な情報、特に経由国からの正確な情報の入手を困難にしている。人身売買は、必ずしも人の密輸は伴わない。被害者が、国内でまたは国境を越えて移動することに最初は同意している場合があるからである。多くの場合、両者の行動を区別するためには、被害者の最終状況に関する詳細な情報が必要になる。
人の密輸とは、利益を得るために、人の不法入国をあっせんまたは輸送を行うことであると一般的に理解されている。しかし、不法入国または不法通過それ自体は、多くの場合危険または劣悪な状況下で行われるものの、人身売買ではない。人の密輸では、その行為に移住者が同意している場合もある。一方、人身売買の場合は、被害者が同意することは決してない。仮に、被害者が当初は同意したとしても、その同意は、売買業者による強制、偽り、虐待行為により無効となる。人身売買被害者は、売春や搾取的な労働を強制されることに気付いていない場合が多い。従って、人の密輸が人身売買につながることもある。人身売買が人の密輸と異なる重要な構成要素は、偽りや暴力または強制という要素である。
人の密輸と異なり、人身売買は被害者が国内を移動するあるいは、国境を越えるかに関らず起こり得る。TVPAの下で、厳格な意味での人身売買には、被害者が、搾取される場所へ移動することは必要条件にはならない。被害者が、「強制労働、借金返しの奴隷労働、借金による束縛、奴隷の対象として、暴力・偽り・強制によって、労働またはサービスのために」集め、かくまわれ、提供され、獲得されることが、人身売買行為と定義される。
奴隷売買業者は、弱者を食い物にする。彼らは、子供や若い女性を狙うことが多い。彼らのやり方は標的となる被害者をだまし、強制し、その信頼を得ることを狙うような、巧妙かつ冷酷なものである。こうした企みには、結婚、仕事、教育の機会、より良い生活の約束がしばしば利用される。
例えば、インドでは、人身売買業者が、裕福な商人を装い、自分が娘の格好の結婚相手であると両親に信じ込ませる。結婚後、少女は、性的虐待を受けて、売春のため売り渡される。中には、この手口を用いて、異なる村出身の何人もの女性と「結婚」している男のいることが知られている。
ウガンダでは、「神の抵抗軍」の反逆者が、夜間に村を襲い、兵士や性的奴隷として働かせるために子供を誘拐する。東アジアでは、人身売買業者がバンコクやプノンペンなどの都市を訪れて、ホテル、レストラン、商店で働く若い女性と親しくなり、その女性を他の国での「休暇」に誘う。到着後、女性のパスポートは取り上げられ、売春宿の主人に引き渡される。そして、性的奴隷の生活を容赦なく教え込まれる。
わずか16歳のウクライナの少女は、ダンスで知り合った若い男に、ドイツでの看護婦の仕事を紹介される。夜、密入国した少女は、売春宿に引き渡され、売春婦として働かされる。インドネシアの農村の少女が、給料が約束され近隣国で家事手伝いの仕事をするが、給料が約束通りに支払われることはない。中国南部の農村の少女が、経済的恩恵を求めてマレーシアに出かけ、そこで性的隷属を強いられる。あるいは、ベトナムの農村に住む若者が工場で働くために、太平洋の島に出かけるもののパスポートを取り上げられ、あまりにも少ない給料のため旅費の返済もできない者もいる。無力な若者が、最も残酷な搾取の犠牲になることが多い。
農村に住むボファが結婚したのは17歳の時だった。夫は直ちに彼女を別の村のホテルに連れて行き、そこに置き去りにした。そのホテルが売春宿だと分かり、ボファは逃げ出そうとした。しかし、ボファは監禁され、ホテルのオーナーは、ボファのために支払った金の返済を求めた。ボファの借金は、食料・衣服その他の生活必需品の支払いのために、増え続けた。ボファは、逃げることができなかった。HIV/エイズに侵されたボファは、通りに放り出され、最後にプノンペンにあるNGOの避難所にたどり着いた。そこで治療を受けながら2年を過ごしたボファが、あと何年生きられるか分からない。
人身売買には、多くの異なった原因がある。これらの原因は複雑であり、しかも互いに補強することが多い。人身売買を国際市場として見ると、被害者は供給サイドにあり、搾取雇用主や性的搾取業者が需要サイドにある。
被害者の供給を助長する要因には、貧困、他の土地ではより良い生活があるだろうという誘引力、脆弱な社会・経済構造、雇用機会の不足、組織犯罪、女性と子どもに対する暴力、女性に対する差別、政府の腐敗、政治の不安定、武力衝突、伝説的な奴隷制度などの文化的しきたりなどが挙げられる。中には、里子の風習により、教育と職業訓練を施すことを条件に、3番目あるいは4番目の子供を、大家族(多くの場合「叔父」)の家族と共に住み、働くために都会に送り出すことを認める社会もある。こうしたしきたりを悪用して、人身売買業者の多くが、職業あっせん業者を装い、両親に子供を手放すように仕向けて、その後子供を売春や強制家事労働や営利事業に売り渡してしまう。最終的に家族に送金される給料はほとんどなく、子供には教育も訓練も与えられず、家族から引き離され、期待された経済機会はまったく実現されない。
需要サイドで人身売買を後押しする要因としては、性産業および搾取労働への拡大する需要がある。セックスツアーと児童ポルノは、利用者に非常に多くの選択肢を与え、即時でしかもほとんど検知できない取引を可能にするインターネットなどのテクノロジーに助けられ、世界的な産業になった。人身売買はまた、安価で、脆弱で、不法な労働力に対する世界的需要があることにも後押しされている。例えば、東アジアの裕福な国々では、家事使用人に対する需要が非常に大きい。これら使用人の中には、搾取や強制労働の犠牲になる者もいる。
妻や愛人としての若い女性に対する需要の新たな原因は、インドや中国の人口密集地帯で広がりつつある出生率の男女格差である。インドでは現在、男女の出生率は、男子1000人に対して女子は933人に過ぎない。これは主に、インドの家父長制の強い社会において女の子が経済的負担になるとの認識のせいである。夫婦の多くが、安価で手に入りやすい超音波診断器を用いて胎児の性別を判別して、女子だと分かると、その胎児を中絶する。インドの2001年人口統計データを2003年に分析調査した結果によると、出生率の男女格差が最も深刻な州は、豊かな北西部のハリヤナとパンジャブであり、中には、男女の出生率が、男子1000人に対して女子が825人以下にまで落ちている地域もある。
同様の出生率格差が、中国の各地で起きているが、原因は、政府の1人っ子政策にある。この政策のために、多くの親が、女子と判別された胎児を中絶するようになったのである。北朝鮮やベトナムの少女や女性が、中国南部に売り飛ばされて、強制的に妻にされ、売春させられていると伝えられている。このような男女の出生率格差は、長年続いていて、現在、インドと中国両国の特定地域において著しい嫁不足問題が起こっている。
この報告書が示すように、世界全体での人身売買被害者の数は、膨大である。被害者の多くが、売春宿、労働搾取工場、少年兵キャンプなどの人身売買の現場を調査しているNGOや政府機関の活躍により発見されている。
被害者の迅速な救助は、最優先課題である。しかし、救助することで、苦しみが終わるとは限らない。国によっては、適切な保護施設が不足しているところもあり、子供を含む被害者を刑務所に入れて、さらに精神的打撃を与える場合もある。必要書類が十分そろっていない外国人被害者を、健康や安全に配慮することなく即座に強制送還する国もある。そのような場合、多くの被害者が、苦痛の上にさらに借金を負わされて再び売り渡され、虐待を受けることになる。
性的搾取、強制労働、束縛労働、少年兵強制の被害者の精神的・肉体的苦痛は、関係当局にとって長期的課題となっている。カウンセリング、シェルター、医療、職業訓練が、被害者の完全なリハビリテーションと、出身地である地域社会への完全復帰のために必要である。
被害者の救助と同様に重要な課題が、救助後の長期的アフターケアとリハビリテーションであり、計画と相当の資源が必要になる。被害者に敬意をもって接し、また被害者に新生活を開始するための適切な機会を与えることを確保するための包括的サービスを実行する必要がある。しかしながら、適切な保護施設の不足を、被害者を解放しない口実にしてはならない。
発見が最も困難で悪質な人身売買の形態の1つが、非自発的強制労働である(法的定義については下記を参照)。開発途上の地域社会にある家を離れて、都市その他のより開発の進んだ地域社会へ、仕事を求めて短距離または長距離の旅をする経済目的の移住者の多くが、非自発的強制労働の標的にされやすい状況にある。建設労働者や家事使用人などの未熟練労働者であることが多い大部分の経済目的の移住者は、自分と家族の利益となる搾取のない仕事を得ている。
しかし、経済目的の移住者の中には、雇用主の虐待を受ける者もいる。この虐待には、雇用主による言葉および肉体的虐待、または給与の不払いや休憩拒否などの雇用契約不履行による虐待などがある。さらに少数だが、自分が捕らわれの身であると感じるほど搾取されている者もいる。
では、どのような搾取・虐待の労働状況が、非自発的強制労働と見なされるのだろうか。答えは、米国の法律であるTVPAに示されている。雇用主が、自分の仕事に労働者を従事させるために、言葉または肉体的虐待、あるいはそのような虐待を示唆する脅迫を行う場合を、非自発的強制労働としている。虐待や物理的な束縛を受けることなく、その仕事から逃れることができないと従業員に信じ込ませるように雇用主が故意に仕向けた場合を、非自発的強制労働としている。雇用主の行動や脅迫が非自発的強制労働の状況をつくり出している場合には、従業員を仕事から離れないように物理的に束縛することは条件にならない。従業員の旅券、就労許可証あるいは身分証明書などの旅行関連文書を没収するような雇用主の行為は、非自発的強制労働の条件を満たす物理的束縛行為の1つである。こうした理由により、多くの政府が、外国人従業員の移動の基本的自由を確保する重要な手段である旅行関連文書を雇用主が保持する行為を違法とみなしている。
労働者が酷使される労働環境から逃れる自由があると感じ、その労働に起因する実際の虐待、または虐待と認められる行為に関する公正な聴取を受けることができるよう確保することは、雇用主の責任であり、政府当局の責任である。
効果的な反人身売買の戦略は、人身売買の3つの側面すべてに的を絞ることである。すなわち、供給サイド、人身売買業者、需要サイドである。
供給サイドに関しては、人身売買を促す要因に対してさまざまなプログラムで対処する必要がある。プログラムには、人身売買の危険性について地域社会への警告、教育機会と教育制度の改善、経済機会の創出、平等な権利の促進、標的にされる地域社会に向けた法的権利に関する教育、そして生活機会の向上と拡大の創出が挙げられる。
人身売買業者に対しては、法執行プログラムにより、売買ルートの確認と遮断、法的定義の明確化と法執行責務の調整、人身売買業者および業者を援助しほう助する者に対する積極的な訴追、法の支配をむしばみ、人身売買を促し、利益を上げる社会の腐敗との戦いを進めなければならない。
需要サイドに関しては、人身売買被害者を搾取する者たちを確認し、訴追しなければならない。非自発的強制労働の雇用主と性的搾取のために売買された被害者を搾取する者を名指し、恥じ入らせなければならない。人身売買被害者が送られる国では、人身売買行為の隠ぺいや黙殺を困難にすることを目的に、意識向上キャンペーンを行う必要がある。人々を、奴隷同様の労働環境から取り戻し、彼らの家族や地域社会に復帰させなければならない。
地方、州、国、地域の人身売買対策プログラムを調整する必要がある。この問題に対する社会の関心を高めることにより、各国政府は、人身売買対策への資源配分を増やし、この問題に対する理解を深め、政府の効果的戦略の策定能力を向上させることができる。国内、2国間、地域内の調整と協力により、戦いのための各国の努力を強化し、ボランティアを集める。人身売買業者に法的保護を与えないために国際基準を調整し、各国の協力をさらに緊密にするべきである。
人身売買に関する知識を高め、人身売買対策機関のネットワークと努力を強化しなければならない。宗教団体、NGO、学校、地域社会の団体、伝統的指導者をこの戦いに動員する必要がある。被害者とその家族には、職業訓練と代替の経済機会が欠かせない。人身売買対策戦略を定期的に見直して、戦略が革新的かつ効果的であり続けることを確認しなければならない。最後に、人身売買対策の技術に関する訓練を政府職員に行い、また、問題の実態と規模を明らかにするため人身売買の流れを統計的に追跡して理解を深めなければならない。
米国政府は、売春合法化の提案には強固な立場で反対している。売春は現代の奴隷売買に直接的に寄与し、本質的に尊厳をおとしめるものであるからである。法執行機関が売春を容認し、地域社会がこれを合法化すれば、組織犯罪集団が、より自由に人身売買を行うことになる。売春が合法化された場所では、性的サービスのコストに、売春宿の家賃、検診費用、および登録料が含まれる。これらのコストを部分的な理由として、利用者が安価なセックスを求め、売春が合法な地域で違法売春が盛んになった。売春が合法化された国の中には、無登録売春を行う女性の数が、登録女性の3倍から10倍に及ぶ国もある。これら無登録女性の多くが、売買された外国人である。合法化により人身売買の被害者の数が減少したという証拠はどの国にもない。また、この分野で活動しているNGOは、人身売買の被害者の数はしばしば増加している、と指摘している。要するに、売春が合法化されている場所では、搾取業者が、合法売春市場の監督・規制コストを避けて利益を最大にしようとするために、人身売買の「闇市場」が出現するのである。従って、売春の合法化は、人身売買業者の性的奴隷売買を正当化し、被害者の発見をより困難にするための最高の隠れみのとなる。
米国政府の推定によると、昨年1年間で世界の60万から80万の人々が、国境を越えて売買された。データの分析により明らかになったのは、国境を越えて売買された被害者の80%が女性であり、このうち70%が性的搾取のために売買されたことである。米国に入国して売買された被害者の数は、1万4500人から1万7500人と推定された。この数字は、人身売買の流れを推定するために改善された方法を使って最近改定されたものである。国内での人身売買を含む世界の被害者数は、200万から400万人と推定される。
全世界の人身売買被害者の数を推定することは、本質的に困難な作業である。麻薬取引や武器密輸と同様に、人身売買も秘密の活動であり、無数の形態により定量化をさらに困難なものにしている。人身売買は、外国人の密入国や移住労働の極端な虐待の一部分として隠されていることが多い。さらに、人身売買のデータの入手可能性が、地域により大幅に異なる。例えば、中東への、中東からの、中東を経由して行われる人身売買のデータは著しく不足している。この報告書で米国政府が主として引用しているのは、国境を越えて売買された被害者数の推定である。これらの被害者は、各国国内で売買される被害者ほど確認が困難ではないためである。
人身売買被害者保護法(TVPA)では、「過酷な形態の人身売買」を次のように定義している。
暴力、詐欺あるいは強制により営利目的の性行為を強いたり、強いられた人が18歳未満の場合の性的人身売買。
強制労働、借金返済のための奴隷労働、債務奴隷または奴隷に従事させる目的で、暴力、詐欺あるいは強制により、労働またはサービスを行う人を募集、かくまい、運搬、供給または取得する行為。
「性的人身売買」は、営利目的の性行為を目的に、募集、かくまい、運搬、供給、取得することを意味する。
もし奴隷状態に入らないか、あるいは継続しない場合には、本人または他の人に重い危害または肉体的制約が加えられると信じ込ませるような策略、計画またはパターン。
「債務奴隷」は、合理的に評価されたサービスの価値が債務の清算に適用されず、またはサービスの期間が定められず性質が定義されていない場合、債務者による人的サービスの約束に起因する債務者の状態または状況、または債務の担保として支配下に置かれる人の状態または状況を意味する。
ある行為を行わない場合には、誰かに重大な危害または肉体的制約が加えられると信じ込ませるような策謀、計画またはパターン。
人身売買報告書は、過酷な形態の人身売買に対する各国政府の対策に関する最も包括的で世界的な報告書である。この報告書で扱われている期間は、2003年4月から2004年3月までである。
当報告書に含まれる事項と含まれない事項 人身売買年次報告書には、多数の過酷な形態の人身売買の被害者の出身国、経由国、目的国とされた国1が含まれる。奴隷問題は、世界のあらゆる国に広がっている可能性があるため、ある国が除外されている場合、その国に関する適切な情報が不足していることを示すに過ぎない場合もある。各国に関する報告は、地域別に構成され、当該国の人身売買問題の規模と性格、当報告書に含む理由、人身売買対策への取り組みについて述べている。また、当該政府の最低基準順守に対する評価や人身売買対策に関する提言も含まれている。これ以外には、人身売買に対する法執行、被害者保護、そして防止に向けた当該国政府の努力に関して述べた上で、当該国を第1階層、第2階層、第2階層監視リスト、または第3階層に格付けした根拠を説明している。
1)台湾関係法第4条b項には、「米国の法が、外国、国家、政府または同様の組織に言及する場合、そのような条文には、常に台湾が含まれており、またそのような法律は台湾にも適用される」とある。
国の中には、人身売買対策行動に向けた目標と基準を設定するために実行チームと行動計画を設けた国もある。しかし、国の取り組みを評価する際、計画と実行だけでは高い評価を得られない。むしろ、当報告書が重視したのは、人身売買業者に対する訴追、有罪判決、実刑判決、被害者保護、防止努力を重点とした、人身売買対策のために各国政府が行った具体的な行動である。当報告書では、法案や施行前の法律には高い評価を与えていない。しかし、実行チームや行動計画あるいは法案の中には、人身売買対策として各国政府が行った予備的行動の例として、各国に関する報告の中で触れているものもある。最後に、教育プログラム、経済開発の支援、または男女平等促進のためのプログラムなどの人身売買阻止に間接的に貢献する活動は、価値ある試みではあるものの、当報告書の主眼ではない。
今年の報告書はどの点が違うのか 2003年人身売買被害者保護再承認法(TVPRA)により、TVPAに対して幾つかの重要な変更が加えられた。人身売買根絶のための最低基準の4つのうち3つには、変更はない。最低基準は以下の通り。
暴力、詐欺、強制を含む性的人身売買のあらゆる行為、意味のある同意をする能力のない児童が被害者となる性的人身売買、レイプや誘拐を含むか、または死を招く人身売買行為の故意の遂行に対して、当該政府は、性的暴行のような重大犯罪と同等の刑罰を規定すべきである。
過酷な形態の人身売買のあらゆる行為の故意の遂行に対して、当該政府は、十分な抑止効果があり、そしてこの犯罪の凶悪性を適切に反映する厳罰を規定すべきである。
第4の最低基準は、改定および補足され、7つではなく10の基準を考慮することを現在求めている。基準(1)では、捜査と訴追だけではなく、有罪判決と刑罰、そして国務省の法執行データ提供の要求に各国政府が応じているかどうかをも考慮することを求めている。基準(7)は、汚職対策に関連し、人身売買に関与した政府職員に対する訴追、有罪判決、刑罰、およびそのようなデータを当該政府が提供したかどうかを考慮することも求めている。新たな3つの基準は以下を求めている。
当該政府が、その能力に応じて、第1節から第8節までに述べられている基準を満たすための政府の努力を組織的に点検し、そうした取り組みの定期的評価を公表しているか否か。
当年度に当該政府が、過酷な形態の人身売買根絶のための前年の評価と比べて目に見える進歩を遂げているか否か。
人身売買根絶のための最低基準順守に向けて、ある国が真剣かつ継続的な取り組みをしているか否かを評価する基準は、当報告書の付録に掲載されている。
TVPRAはまた、翌年1年の間、特別な監視を受ける国の「特別監視リスト」を作成した。このリストは、1)2003年報告書では第2階層だったものの今回は第1階層にリストされた国、2)2003年報告書では第3階層だったものの今回は第2階層にリストされた国、3)当報告書で第2階層にリストされ、かつ以下の条件に該当する国により構成される。
前年来の過酷な形態の人身売買対策強化を示す証明の提示をしていない。この証明には、人身売買犯罪に対する捜査、訴追、有罪判決の増加、被害者支援の強化、政府職員による過酷な形態の人身売買関与の減少が含まれる。
国が最低基準順守に向けて顕著な努力を払っているとの判定が、翌年にはさらなる措置を講じていくという国のコミットメントに基づいている。
特別監視リストの国は、2005年2月1日までに米国連邦議会に提出される中間評価において再審査される。
なぜ2004年報告書には昨年の報告書よりも多くの国別評価が含まれているのか? 2004年報告書には、前年の報告書よりも16カ国多い140カ国における人身売買と政府の対策に関する分析が含まれている。過去、いくつかの国が含まれなかったのは信頼できる完全な情報を集めることが困難だったからである。その理由として、違法かつアンダーグラウンド的な性格があること、政府プログラムの欠如または初期段階にあること、人身売買と密入国との識別が困難であること、しばしば違法に国境を越えたり、肉体的に虐待や強制を受けたりする人身売買被害者の恐怖心と沈黙、がある。また、いくつかの国では、情報はあるものの、そのデータが、国から国へ、または国内で売買された人数が、人身売買報告書に含める基準であるおよそ100人かそれ以上であることを裏付けていなかった。
過去1年の間、多くの政府からの反応が強くなり、被害者に保護サービスの存在を知らせるための社会啓発キャンペーンが増加し、人身売買対策における透明性が向上している状況を目の当たりにしてきた。このような前向きな行動により、国務省は今年は、より多くの国の情報を入手できた。国務省は、より多く、より確かな情報が入手可能なため、将来は多数の人身売買被害者を抱える国のすべてを報告書に含める。
第1階層: 政府が、人身売買被害者保護法(TVPA)の求める最低基準を完全に順守している国。
第2階層: 政府が、TVPAの求める最低基準を完全に順守していないが、順守に向け大きな努力をしている国。
第2階層監視リスト: 政府が、TVPAが求める最低基準を完全には順守していないが、順守に向け大きな努力し、かつ以下の条件に該当する国。
a. 過酷な形態の人身売買の被害者の絶対数がかなり多いか、またはかなり増加している。
b. 前年からの過酷な形態の人身売買対策強化を示す証明を提示していない。
c. 翌年にかけさらなる措置を講じていくという国のコミットメントに基づいて、その国が最低基準順守に向けて大きな努力をしていると判定した場合。
第3階層: 政府が、最低基準を完全に順守せず、順守に向け大きな努力をしていない国。
当報告書の使われ方 当報告書は、対話の継続といくつかの政府の行動を奨励するための手段として、また訴追、保護、防止プログラムと政策に資源を集中させる手助けとなる指針として、米国政府が用いる1つの外交手段である。今年の報告書発表後、これまでと同様に、国務省は、人身売買根絶に向けた協調的取り組みを強化するために、当報告書の内容に関して各国政府を関与させ続ける。来年、とりわけ、第3階層に分類されている国に対する制裁措置と監視リストに分類されている国に対する中間評価を決定する前の数カ月間、国務省は、この報告書作成に際して収集した情報を用いて、より効果的に支援計画の目標をしぼり込み、人身売買対策を進める上で援助を必要とする国と協力していく。国務省は、この報告書が、世界で人身売買対策を進める政府や非政府組織の活動の促進剤になることを期待している。
方法 国務省は、世界中の米国大使館、領事館、在ワシントン外国大使館、人権問題や人身売買問題に取り組んでいる非政府組織や国際機関から、この報告書のための情報を入手した。各国政府担当官、地元および国際NGO代表者、国際機関担当官、ジャーナリスト、学者、そして被害者など幅広い層の人々との会合を含み、十分な調査を基に、米国の外交官は、人身売買の状況および政府の対策に関して報告した。
人身売買監視対策室は、米国大使館の担当官からの情報、外国政府担当官およびNGOや国際機関の代表との会合、既刊の報告書、各地域への出張調査で得た情報、各国政府の人身売買対策の進展度をNGOや個人が報告するために設けられたEメールアドレス tipreport@state.govに寄せられた情報を用いてこの報告書の草案をまとめた。今年の報告書の作成に際して、国務省は、これらの各国の情報源を見直して、以下の評価を行った。各国政府の評価は、2段階のプロセスにより行なわれた。
第1段階:被害者数の多さ 最初に、国務省は、その国が、「多数の過酷な形態の人身売買の被害者の出身国・経由国・目的国」であるかどうか、つまり前回の報告書でも適用された基準である被害者数が100人を超える国であるか否かを判定する。この基準値に達した国のみが、当報告書に含まれる。このような情報が入手できなかった国は、含まれない。
第2段階:階層の設定 国務省は、2003年人身売買報告書に含まれる国々を、TVPAで定められた階層と称する3つのリストに分類した。分類は、各国政府の人身売買対策の範囲を基に行なわれる。国務省はまず、当該政府が人身売買根絶に向けたTVPAで定めている最低基準を完全に順守しているか否かを評価する。順守している国は、第1階層に分類される。それ以外の国に関して、国務省は、順守に向けて大きな努力をしているか否かを検討する。大きなな努力をしている国は、第2階層に分類される。政府が最低基準を完全に順守せず、順守に向けた大きな努力もしていない国は第3階層に分類される。最後に、特別監視リストの条件が検討され、該当すれば同リストに分類される。
TVPAが定めているように、第2階層と第3階層の判定に際して国務省が考慮するのは、当該国における人身売買全体の規模、政府の最低基準不順守の度合い、特に政府職員の人身売買への加担、援助、黙認あるいは共謀の規模、当該政府の資源と能力に照らし合わせた上で政府が最低基準順守に向けて取るべき妥当な措置である。
罰則 第3階層にリストされた国の政府は、何らかの制裁の対象になる可能性がある。米国政府が、人道的支援以外の支援や貿易関連以外の支援を停止することもあり得る。このような支援を受けていない国に対しては、教育・文化交流プログラムに参加する資金の供与を停止する可能性がある。TVPAに従い、これらの政府に対する、国際通貨基金や世界銀行等の多国間開発銀行などの国際金融機関からの支援(人道的、貿易関連、特定の開発関連支援を除く)に米国が反対することもある。これらの予想される結果としての罰則は、翌会計年度が始まる2004年10月1日に実施される。
TVPAに基づく制裁のすべてまたは一部は、当該支援の提供がこの法の目的を促進するか、または米国の国益に沿うものであると大統領が判断した場合には、免除される。TVPAは、女性や子どもを含む弱者に制裁が及ぼす著しい悪影響を避けるために、必要な場合には制裁を免除することも定めている。報告書が発表された後、また制裁が実施される前に、当該政府が最低基準を順守しているか、または順守に向けた大きな努力をしていると大統領が判断した場合には、制裁が免除される。
階層の分類に関わらず、米国も含めて、各国にはさらになすべきことがある。階層の分類は不変ではない。すべての国は、人身売買対策に向けた努力を続け、強化していかなければならない。米国は、あらゆる形態の現代の奴隷制度を根絶するための国際強調を強化するため、世界中で進展を監視し、パートナーとの協力を継続する。
2004年人身売買報告書の作成中、および年間を通じて国務省が外国政府、国際機関、非政府組織と関わってきたことで、数多くの革新的な人身売買対策が明らかになった。これらの努力の多くが特に注目されるのは、持続可能かつ低コストな人身売買対策措置だという点である。これらの取り組みやプログラムが、革新的で創造的であること、確固たる具体的な結果をもたらしていること、持続可能であること、他地域で模倣できる可能性があることから、ここに成功例として記述した。
買春ツアー阻止 パナマ政府は、児童ポルノ、買春ツアー、インターネット利用との関連で、人身売買問題に対処するため新たな人身売買対策法を制定した。特に注目すべき点は、新法による禁止事項を旅行客に対して書面で知らせることを航空会社、旅行会社、ホテルに義務付けていることである。
被害の事前阻止 コロンビア政府は、行政安全保障省(DAS)に対して、人身売買被害者になる可能性のある旅行者を発見し、彼らが国際線に搭乗する前に接触する権限を与えている。DASの職員は、被害者になる可能性のある旅行者に、人身売買と詐欺の求人である危険性を知らせようと試みる。2003年には、被害者になる可能性のある旅行者9人が、求人が詐欺であると説得され、国際線に搭乗しなかった。
経由国と目的国との協力 イタリア政府は、モロッコ政府の「プロジェクト・テクスティリア2000」(Project Textilia 2000)に資金を提供した。このプロジェクトは、イタリアへの密入国にかかわりがあることで知られるホウリグバ周辺の地域で行われている小規模プロジェクトに資金を出している。モロッコ国内で有給職の機会を提供することで、人身売買の被害者の発生を防ぐのが、このプロジェクトの目的である。イタリアに既に入国した被害者に関しては、イタリアの人身売買対策新法により、被害者支援計画のための別予算が組まれている。この予算の70%を中央政府が、30%を地方政府が支出している。
性売買を標的に マドリードの市議会は、2004年1月に売春と人身売買に対する包括的な対策を発表した。これには、防止、研修、被害者支援および利用者に対する警察の措置が含まれている。性的搾取を目的とする人身売買と戦う最善の方法は、被害者と同様に利用者にも焦点を当てることだという原則に基づいて、法執行手段の策定に際してスウェーデン政府の協力を求めた。
伝統的慣習との戦い 「里子」というアフリカの慣習が、人身売買取引に直接つながっている。子供の売買は、人身売買業者と子供の家族との間の私的な取り決めから始まり、その動機は、家族の悲惨な経済状況、そして人身売買業者の利益と安価な労働力への欲望である。典型的な例では、自給自足農業に従事している家族が、子供が教育を受け、実用的な職業知識を学ぶことができると聞かされている。非常に多くの場合、子供は、売買され、強制的家事労働や街頭での物売り、あるいは性的搾取などの事態に追い込まれる。これに対して、ガーナ政府は、「子供を帰宅させる作戦」(Operation Bring Your Children Home)を開始した。これは、子供を人身売買業者に売り渡した家族に対し事業支援、職業訓練、小額の短期融資、学費と制服の支援を提供する代わりに子供を呼び戻すよう奨励することが目的である。このプログラムへの社会的関心を高めるために、ガーナ警察は、アクラにある大型トラックの駐車場で情報提供のための集会を開き、運転手や運送組合代表に対して人身売買被害者を発見するための研修を行った。
没収金を利用した人身売買対策支援 多くの国において、特に最近、資源がテロ対策へと向けられてからは、人身売買対策用資金の優先順位は低い。ドイツのバーデン・ビュルテンブルク州では、人身売買業者からの没収金を将来の捜査費用の資金に当てている。
外交官の連携と情報の共有 ドミニカ共和国の外務省は、人身売買されるドミニカ女性の主要目的国にある自国の大使館や領事館で働く外交官を結ぶ4つの「人身売買対策ネットワーク」を創設した。ネットワークは、中米、カリブ海諸国、南米、ヨーロッパにある。外交官は、人身売買問題の防止対策に積極的に取り組もうとしている。外交官は、駐在国政府と協力して、ドミニカ人被害者(その多くが、人身売買業者の手から逃れて、領事館へ逃げ込み、助けを求めた)の特定と支援、人身売買のパターンに関する情報の収集、そして人身売買業者の特定を行なっている。この情報は、外務省領事部に報告され、人身売買との戦いにおけるドミニカ共和国の同盟諸国と共有される。
規制、検分、研修手段の利用 フィリピン政府は、1317の認可された労働力輸出業者を規制し、抜き打ち検分と定期検分を行っている。政府はまた、海外で働こうとする労働者に対して、出国前に研修と技能試験を行っている。フィリピンの外交官は、家宅捜査と、フィリピン国民の人身売買被害者の本国送還に関する訓練を受けており、時には家宅捜査や本国送還に積極的に関わることもある。フィリピンは、インドネシアやベトナムなど近隣地域の他国政府のために、労働力輸出保護の改善方法に関する研修を実施している。
在外公館による被害者保護 インドネシア外務省は、マレーシア、シンガポール、サウジアラビア、クウェートなどの多数の国の自国の大使館や領事館に避難所を設けている。これらの在外公館は、過去1年の間に多くが人身売買の犠牲になる可能性があった大勢のインドネシア国民を保護した。彼らの。インドネシアの在外公館は、他の政府機関と連携をとりながら、本国送還の支援も行った。
少年ラクダ騎手売買との戦い アラブ首長国連邦(UAE)は、同国内のラクダレースの騎手とするために売買された南アジアの子供たちの身元確認と救済を効率良く行うための革新的な方法を取り入れた。これら子供の大半が、実際の年齢より年上とする偽造書類を使い、UAE入国の際同伴した偽の親によって売買されている。UAE当局は、2003年1月からDNA鑑定を用い、446人の子供を調査し、UAEに子供を連れてきた人身売買業者との虚偽の親子関係65件を摘発した。2003年には、バングラデシュとパキスタンから来た250人以上の子供が確認され、母国に戻された。これらの子供の売買にかかわった人身売買業者の多くが逮捕され、現在起訴されている。湾岸地域の他の国でも、少年ラクダ騎手とその親を装う者のDNA鑑定を採用している。
  法で定められた政府の措置が、人身売買報告書の主眼である。しかしながら、政府に加えて、あらゆる分野の人々と組織が、人身売買根絶に向けて強力で効果的な対応策を取っている。
  広範囲にわたる大勢の多様な人々が参加することが、人身売買との戦いにおいて成功するには不可欠である。だからこそ、今年の報告書には、人身売買との戦いに取り組んでいる以下のような英雄たちの物語を含めている。ここに登場する人々は、世界中で一般市民が取り組んでいる多くの活動の代表的な例に過ぎない。これらの人々は、われわれ全員に模範を示し、1人の行動でも状況を変えることができるということを示している。これ以外にも、多くの人々が、それぞれの方法で人身売買に対して戦い続けている。
ピエール・タミは、カンボジアで人身売買被害者を助けるためにスイス実業家らしい方法を使った。彼の考えでは、支援プログラムは、革新的で財政的に持続可能なものでなければならない。そうすることで、被害者だった人々に、永久に搾取される弱い状況から抜け出し、永久に生活を変える機会を与えることができるのである。タミ氏は、プノンペンで3つの存続可能な被害者支援企業の設立を援助した。栄養不足の状況にある国で必要とされる食料を供給する豆乳工場、高級絹織物デザイン・製造会社、そして衣料品工場労働者に食事を提供するケータリング事業である。これらの企業は、現代の奴隷制度で労働により心に傷を負ったカンボジアの人々に新たな希望を与え、中には、生涯で初めて給料を手にすることができた者もいる。
フランシスコ・シエラ大使とコロンビア大使館員は、コロンビアから日本に連れてこられた人身売買被害者の支援に懸命に取り組んでいる。大使は、地元の警察当局と日本政府に対し、この問題への取り組みを促し、また本国におけるこの問題の優先度を上げるようコロンビア政府に働きかけた。大使は、東南アジアやラテンアメリカのいくつかの国の大使館との日本における協力を促進した。シエラ大使は、個人に対する被害だけではなく、組織犯罪との関連、そして変化しつつある人身売買パターンの巧妙化にも注目し、人身売買問題のマクロおよびミクロ的側面に目を向けている。
シスター・ユージニア・ボネッティは、イタリア女子大修道院長協会の人身売買対策活動責任者である。ケニアで宣教師として、またその後トリノとローマで反人身売買戦略のコーディネーターとしての24年間に実態を直接目にしてきたことから、シスター・ユージニアは、人身売買の女性被害者を苦しめている不正との戦いに献身している。シスター・ユージニアは、自分の下でイタリア全土で人身売買対策計画に専任で取り組んでいる約200人のシスターと共に、大勢の人身売買被害者の避難、安全確保、世話のために自分たちの住居を開放してきた。シスター・ユージニアはまた、ナイジェリアの修道女たちと協力して、人里離れた最貧の地域社会での人身売買防止活動と送還された被害者の社会復帰への地元の取り組みを促している。シスター・ユージニアは、言葉と行動によって人身売買反対のメッセージを国内および海外に広げている。
ボニー・ミラーは、人身売買問題に対する人々の関心と資源を獲得するために非常に多くの時間を費やし、ギリシャにおける人身売買との戦いにさまざまの方法で効果的な活動を行ってきた。ミラーは、ギリシャのNGOによる被害者のためのサービス制度開始を手助けし、人身売買対策の強力な措置を講じるよう政府に働きかけ、ギリシャで最初の人身売買問題ホットラインの設立に尽力した。ミラー夫人は、広範なメディア活動を通じて奴隷反対運動を推進し、人身売買被害者支援の方法について多くの国の外交官が互いに話し合う場をつくってきた。夫人はまた、「Doctors
of the World」(世界の医師たち)が被害者のためのシェルターを設立する際に、重要な役割を果たした。トーマス・ミラー駐ギリシャ米国大使の夫人として、外交官の家族がいかに赴任先の地域社会を変える手助けができるかということを示した。
トベガ・ハジョール首長は、ガーナのボルタ湖地域での労働目的の子供の売買阻止に向けて幅広い活動を行ってきた。ハジョール首長は、子供の売買で知られる地区を特定する際に個人的に助力し、過去1年の間に、漁業で強制労働をさせられていた228人の子供たちが助け出された。ハジョール首長は、これらの子供奴隷を就学させ、家族の元へ返すことで、子供たちの社会復帰を支援した。首長は、家族により良い生活をさせることができるように、親の事業規模拡大のための小口の短期融資資金の確保に自ら取り組んだ。
  マリリン・カールソン・ネルソンは、自分が経営する旅行会社が、旅行と観光における営利目的の性的搾取から子供を守ることを目的とする国際的行動規範に従うことを約束し、人身売買に対する戦いにおいて米国の先駆者となった。署名した行動規範の中でネルソン会長は、社員に子供買春ツアーを行う者の特定と通報をするよう訓練すること、旅行客にこの犯罪に課される法的処罰を知らせること、そして観光における性的搾取を拒否する倫理に関する企業規定を定めることに同意した。ホテルチェーン、クルーズ、レストランなど複数の事業を展開している世界第2位の旅行会社でもあるカールソン社の昨年の売り上げは270億ドルに達し、世界140カ国を超える国々で19万8000人の従業員が働いている。カールソン社は、この行動規範を採用した初めての北米の大手旅行会社である。 

[ 136] 2004年人身売買報告書(抜粋)
[引用サイト]  http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041019-50.html



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