におうとは?

ボクは学生時代に、研究室の先生であった坂本一成氏が設計した『祖師谷の家』(1981年)という住宅が初めてでした。その時の感動は今でもはっきりと覚えています。写真等で見慣れていたせいもあるかもしれませんが、道路から実際の建物を目の前にした時、何か少し現実離れしたふわっとした感じと言っていいのか、ある特別な感覚に襲われたことを覚えています。
そして住宅の中へ。床があり壁があり、窓があり階段があり、むき出された柱があり、そのひとつひとつはどこの家にでもある部分なのですが、そのものの持つ緊張感というか、何かを見る者に感じさせる独特のあり方にただものならないものを感じました。全ての部分が意味を持っているような印象。計算し尽くされた空間。忍者屋敷を思い出させるような仕掛け。部屋と部屋の繋がりや開口の位置やプロポーション、床の見切りから全体の配色のバランスに至るまで、先生の建築論理を重ねながら見入ってしまいました。
実は『祖師谷の家』を見る前に、芦屋にあるF.L.ライトの設計した『山邑邸』(1983年当時廃屋同然)に“忍び込んだ”ことがあります。薄暗く埃っぽかったのですが、迷路のような流れる空間や、床のスキップと天井高さの変化が奏でる空間に「面白すぎる」と思った記憶があります。
その後も建築家の設計した住宅を見学する機会を幾度となく持ちましたが、ある時ふと気づいたことがあります。それは「におい」でした。建築家の設計した全ての住宅ではないのですが、そのうちのいくつかにはある共通する「におい」が感じられる(におう)ってことにです。その建築家やその住宅によって確かに「におい」の種類や強さに違いはありますが、間違いなくボクの嗅覚をムズムズとくすぐってくるものです。大きな建築にもにおったことはありますが、住宅のような等身大に近い建築の方が強くにおいます。
house H:道路側正面外観。1階は2台分の駐車場とその奥がバスルーム。右手前の黒いボックスは納戸。
本当はその「におい」を言葉で表現しなくちゃいけないんでしょうが、どうにも言いようがありません。しかし、この「におい」を発生しているものが何かはだいたいの見当がついています。
ひとつは空間構成です。平面的な構成を間取りと呼びますが、それに縦方向の要素を加えた空間の繋がり方あるいは仕切方、これらの全体を空間構成と言います。更には開口の開け方、仕上げの組み合わせもこの空間構成に深く関与してきます。
もうひとつはディテールです。一般に建築の製作は「逃げ」の積み重ねと言っても過言ではなく、部材を重ね合わせていく手法が取られますがこれは重要なことで、そうしないと粗(アラ)が出てしまい仕上がりが汚くなります。しかし「におう」建築には、そのギリギリを狙った、それだからこそ考え抜かれたディテールをしばしば目にします。緊張感の発生源です。
2002年の春、実質的にはボクの処女作と言ってよい『house H』という住宅が完成しました。自分が設計したものはにおわないかもしれないなどと言い訳を考えながら心の隅で気にしていたところ、完成した『house H』は見事に「におい」を発しボクを迎えてくれました。まるでこの建物から自分自身を評価してもらったような気分でもありました。
でも、多分これって誰もが感じることだろうと思っています。皆さんも機会があったら「におい」を嗅いでみてください。いいにおいですよ、きっと。
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[ 127] トピック[372]:「におう」建築
[引用サイト]  http://www.asahiglassplaza.net/kaiteki/architect/ar/topic/372.htm



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