活かしとは?
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「この仕事をプライドを持ってやっている」という場合、この人に対して信頼感をより高めるだろう。しかし、「アイツはプライドが高いから気をつけたほうがいい」というと、困難な出来事が生じることを想像させる。プライドという感情を活かすには、どうしたらよいのだろうか。 まつした・のぶたけ●1944年、大阪府生まれ。京都大学卒業後、三洋化成工業人事課勤務。独立後、京都大学で臨床心理学を学び、日本プロテニス協会、法政大学、慶応大学、大手企業でEQ研修講師を務める。 心理学者のオルポートは、「自分を高く評価し、自分を大切に思う気持ちはだれもが持っている」と言っている。つまり、すべての人は多かれ少なかれプライドの高い人材だと考えてよいだろう。 「あの人はプライドが高い人だからやっかいだね」と言うとき、プライドはよい意味を持っていない。「あの人はプライドを持って仕事をしているね」と言うときは、プライドにはよい響きがある。プライドを傷つけられると激怒する人と、それほど激しく反応しない人がいる。プライドはひとくくりでまとめることができる単純なものではなさそうだ。プライドを通して、人間のこころの複雑さとおもしろさを考察し、プライドの高い人材の活かし方を提案してみたい。 プライドは自分を評価することを通して得られる気持ちである。自己評価の仕方によって、自分なりの評価基準をもとに、自分の仕事や言動を評価するマイウェイ・タイプと、他人の評価を通して自己評価するスター願望タイプの二種類に分けることができる。個人の独立性を強く意識するアメリカ社会では、他人の評価によって自分を価値ある人間かどうかを決める後者のタイプに批判的な傾向が見られる(*1)。 日本社会では、人間と人間の関係の中で、自分を活かしていこうとする伝統があり、他人の評価に敏感であることは美徳のひとつである。二つのタイプに優劣はないと私は考えている(*2)。 マイウェイ・タイプの典型は名人芸を持った職人や、専門性の高い職務に精通する技術者などに見られる。私はある建築現場で水道工事の名人といわれる職人といっしょに仕事をしたことがある。彼の弟が水道工事会社の社長だったが、彼は社長という役職に興味はなく、安い給料で黙々と働いていた。ほかの職人ができないような仕事をやすやすとやり遂げる代わりに、自分の技術を他人に伝えることに関心もないし、自分の仕事に口を出されることをひどく嫌がった。最近ではコンピュータのプログラマーなどに多いタイプである。「いい仕事をします」というのがほめ言葉で、「頑固です」「協調性が不足しています」「部下を育てない」はマイウェイ・タイプに対する批判である。 彼らは、仕事の出来栄えを通して自分を評価するが、出来栄えが良いか悪いかの基準を自分なりに持っていて、そのことがプライドの源泉になっている。仕事の出来栄えが悪かったり、プロセスに納得できなくて、落ち込んでいるとき、「みんながいいと言っているから、いいんじゃない」と、なぐさめても、まったくなぐさめにならない人が多い。 マイウェイ・タイプの傾向がさらに強くなると、自分の基準へのこだわりが強くなり、他人の評価をまったく受け入れられなくなる。そのため「孤高の人」と呼ばれて周りの人から敬遠されたり、独りよがりな行動が滑稽味をおびるようになってしまう。その境地に到達した人を「見果てぬ夢」(*3)タイプと呼ぶことにしたい。 一方、スター願望タイプの人は派手で、人目につく仕事をさせると力を発揮する人である。他人、とくに権威がある人の評価がプライドの源になっている。仕事の成功にふさわしい報酬を得るかどうか、昇進できるかどうかに関心が高いことも特徴のひとつである。「あなたの仕事はトップに注目されているよ」と言うのがほめ言葉。「気位が高く、仕事をえり好みする」「派手なパフォーマンスが多いが、内容が伴わない」などが非難の言葉である。 プロ野球の監督夫人がマスコミの集中攻撃を受けた事件があった。ワイドショーでレポーターに激しい言葉を浴びせる監督夫人を見ていて、思い出した人物があった。東ローマ帝国の全盛期を築いたユスティニアヌス帝の皇后であったテオドラである。テオドラは貧しいサーカス芸人の娘として生まれ、社会の辛酸をなめ尽くしたうえ、ユスティニアヌスに見初められ皇后になった女性である。 ユスティニアヌスが皇帝になったばかりのころ、大反乱が起こり、ユスティニアヌスは逃亡しようとした。そのときテオドラは踏みとどまって戦うことを主張した。「出会う人々が私に向かって『皇后陛下』と呼びかけない日々を送りたくない。逃亡すれば身の安全が得られるとしても、果たしてそれは命と引き換えにしてよかったといえるようなものであろうか。私はいにしえの言葉が正しいと思う。『帝衣は最高の死装束である』(*4)」と言い切ったという。 そこで、命を危険にさらしても、世間の脚光を浴びたいと願い続ける人をテオドラ・タイプと呼びたい。このタイプの危険なところは、周りの人からほめられて当然だと思い込むところである。他人の評価と自分の本当の価値を混同してしまい、自分を見失ってしまうおそれが多分にある。 見果てぬ夢タイプ、またはテオドラ・タイプと判定された人は、自分の姿が見えなくなり、周りの人から滑稽な存在と思われているところが共通している。ビジネスの世界では大きな仕事をやらせたり、トップの地位を任せることは避けたほうがよい人材である。360度評価を実施し、フィードバックを受ける必要があるが、この種の人は360度評価をひどく嫌う。大失敗をして目覚めるのを待つか、大失敗するような仕事を与えて、目覚めさせるのが現実的な方法だろう。 スター願望タイプとマイウェイ・タイプが困った存在になるのには、三つのケースが考えられる。第一のケースは、与えられた仕事が不適切であるときだ。サッカーのワールドカップで活躍した戸田和幸選手は、縁の下の力持ち的な自分のポジションを「しぶい」(深いあじわいがあっておもしろいという意味)と言っている。戸田選手に中田英寿選手のポジションをやらせてもやる気が出ないかもしれない。表2と3では、適切な仕事が与えられているかどうかをチェックしてほしい。プライドを刺激する仕事を与えられれば、人は活き活きと仕事をする。 第二のケースは、プライドを傷つける言葉をあなたが言ってしまったときである。プライドの源泉がどこにあるかを見定めて、禁句を言わないように留意しておけば、プライドが仕事の障害になる危険性を減らすことができる。 マイウェイ・タイプに対する禁句には、「あなたの仕事はセンスが悪いね」「あなたの仕事は時代遅れだよ」などがある。また、スター願望タイプに対する禁句には、「誰もあなたのことなど気にしていないよ」や「ぼくはあなたよりもAさん(スター願望タイプの人のライバル)のほうが能力が高いと思う」などがある。 第三のケースが、間違った報酬を与えたときである。たとえば、すばらしい研究をして会社に大きな貢献をした人を研究所長に任命するケースを考えよう。その人がマイウェイ・タイプの人材で、研究所長の仕事内容が研究員を管理するデスクワークばかりであれば、プライドが厄介な問題を引き起こす。一方、研究所長になることで、研究費をふんだんに使え、自由に研究してもよい環境が与えられるならば、プライドがよい方向に働くだろう。 プライドについては、もうひとつ別の角度で考えることができる。「怒り」との関係である。感情心理学の分野ですばらしい業績を挙げた心理学者プラッチクは、プライドは怒りに関係が深い感情であると考えた(*5)。私たちは感情を傷つけられ、激しい怒りを表現する人を、「気位が高い」とか「プライドが高い」と思う傾向がある。あまり怒らない、穏やかな人を、プライドがない人と勘違いし、プライドを傷つけていたことに、長い間気がつかないことがある。プライドを傷つけられて、怒りを感じない人はいない、と思って人付き合いをしたほうが賢明であろう。 私は、「プライドを傷つけられた」という思いと、反応し行動することの間にEQ(Emotional Quotient:情動の知性)が働くと考えている。EQが未発達な人は、プライドを傷つけられ、かっとなって暴言をはいたり、思慮のない行動を取ったりして、大きな失敗をする危険性が高い。 反対に、プライドを傷つけられても、怒りを押し殺して、へらへら笑っているだけの人もEQが高いとはいえない。自らの人間的尊厳を守ろうとしない人が、心から信頼し合える人間関係を築くことは難しい。「プライドが高い人材を活かす」というテーマを考えるとき、ついつい反応の激しい人をどうするかという問題に関心が偏ってしまうが、それではEQ的に見てバランスを欠いている。 プライドを傷つけられたときに、相手のプライドを守りつつ、自分の怒りをどう表現すればよいかを考えるのが、情動知性の機能である。プライドが高い人材を活かすために、EQを伸ばす教育がビジネス現場では不可欠だと思う。 *1)リースマンの古典的名著『孤独な群集』では、他人志向タイプと呼ばれている。 *3)ミュージカル「ラ・マンチャの男」の主題歌。原作はスペインの文豪セルバンテスの『ドン・キホーテ』。時代遅れで、独りよがりな騎士ドン・キホーテの滑稽さを描いた名作。 各番号ごとに、XとYのペア質問が用意されています。あなたの部下や上司を想定して、XまたはYのどちらがより当てはまるかを選択してください。ただし5問以上答えられない場合は、その人をよく知らないということですから、タイプを判定できません。その人のことをもっと知る必要があります。そうしないと誤解が生まれ、信頼関係を築けないおそれがあります。 Y彼(彼女)は仕事に熱中すると、ほかのことに気が回らなくなる Y彼(彼女)は自分が気に入らないところがあると、仕事をやり直す 4X彼(彼女)は仕事をするときは、処遇、環境、スタッフなど仕事をするための条件にこだわる Y彼(彼女)は仕事をするとき、仕事の困難度、創造性など内容にこだわる 8X彼(彼女)は友人や恋人を選ぶとき、それによって周りの人間が自分をどう評価するかに配慮する Y彼(彼女)は友人や恋人を選ぶとき、彼(彼女)なりの基準で選んでいる 9X彼(彼女)はルーブル美術館を訪ねたと仮定すれば、必ず「モナリザ」を見て帰るだろう Y彼(彼女)はルーブル美術館を訪ねたと仮定すれば、気に入った絵の前で長い時間をすごすほうだ 10X彼(彼女)は人と食事をするとき、料理のおいしさと雰囲気のよさを考慮する Y彼(彼女)は人と食事をするとき、料金が料理のおいしさに見合ったものかどうかを考慮する 11X彼(彼女)は「皇帝(皇后)の身分を捨てるなら死んだほうがましだ」と願うタイプの人間だと思う Y彼(彼女)は「道は極め難く腕は疲れ果つとも遠き星をめざして我は歩み続けん」(※注1)という詩が似合うタイプの人間だ 「彼(彼女)」を「私」に置き換えて答えると、あなた自身のタイプがわかる。あなたの恋人や配偶者のタイプを判定しておくと、デートするときや、喧嘩の仲直りをするときに役立つだろう。※注1;作詞●ジョオ・ダリオン/訳詞●福井 崚 東宝ミュージカル「ラ・マンチャの男」より あなたがマイウェイ・タイプと判断した部下に与えてよい仕事かどうかチェックしてみよう。3つ以上チェックがついたら、マイウェイ・タイプの人材を活かせる仕事であると判定する。 その仕事を担当することで、彼(彼女)の能力が伸びたり、専門知識やスキルが豊かになる仕事である ほかの人がためらうくらい困難な仕事で、彼(彼女)の能力や専門知識や技能が活かせる仕事である 彼(彼女)に全面的に任せ、途中で細かなことに口を出さなくてもよい仕事である 仕事を無事終えたとき「やった!」というずっしり手ごたえを彼(彼女)が感じる仕事である あなたがスター願望タイプと判断した部下に与えてよい仕事かどうかをチェックしてみよう。3つ以上チェックがついたら、スター願望タイプの人材を活かせる仕事であると判定する。 成功すれば、ほかの人に比べて有能であると明確に評価できる仕事である(前任者が失敗しているなど) |
[ 131] 「プライドの高い人材」の活かし方
[引用サイト] http://www.president.co.jp/pre/20021202/002.html
