均一とは?

初期視覚野の機能に関してこれまで輪郭線表現の観点からはよく研究されてきましたが、その一方で輪郭線に囲まれた面の部分の表現に関してはあまりよく分かっていませんでした。最近になっていくつかの研究室から受容野を覆い隠すような均一な面刺激に対しても反応を示す細胞が初期視覚野に存在することが報告されました(Rossi et al. 1996, Rossi and Paradiso 1999, Kinoshita and Komatsu 2001)。私たちは内因性の光計測法を用いて麻酔下のネコの17野、18野でこのような均一な面刺激により生じる神経活動が初期視覚野内にどのように分布しているのかを調べることにしました。ディスプレイ全体の輝度を同時に変えることで均一な面刺激としました。図1に記録の一例を示します。Aは記録部位の脳表の血管を撮影したものです。Bは脳表より約500μm下に焦点をあわせ630nmの赤外光をあてて記録した反射光の画像データです。信号強度が微弱なので均一な面刺激によるデータと(局所的な線刺激を多数含む)市松模様の刺激によるデータの差を表しています。均一な面刺激に対して反応している領域は画像中では黒い領域(矢印)として表示されます。領域の範囲を決める為にt-test(p<0.01)で検定をおこなった結果がC(黒で塗りつぶした領域)に示されています。私たちは均一な面刺激に反応する細胞が17/18野の境界に添って18野側に点在する一連の領域を形成していることを見いだしました。さらに縞刺激に対する反応をもとに作成した方位選択性地図(図2、最適方位ごとに領域を色分けして表示)と比較するとこれらの領域(図中白線で囲んだ領域)は方位選択性地図の特異点(すべての方位の最適方位の領域が一カ所に収束している場所、一部図中*で表示)に重さなる傾向を示しました。これらの領域に含まれる個々の細胞が均一な面刺激に反応しているかどうかを確認するために、私たちは内因性光計測後に細胞外記録をおこないました。図3A−Cに4細胞の記録例を示してあります(A:記録部位を光計測の画像データに重ねて表示、B:線刺激で調べたニューロンの受容野を視野上に表示、C:均一な面、市松模様、縞模様に対する各ニューロンの発火頻度、図の下側には均一な面、市松模様の輝度変化のタイミング、縞模様の運動方向転換のタイミングを表示、刺激間には灰色面を表示、全画面の平均輝度は一定)。これらの領域内で記録したCell 1, Cell 2は均一な面刺激に対して顕著な反応を示す一方、市松模様、縞刺激に対しては微弱な反応しか示しませんでした。これらの領域外で記録したCell 3, Cell 4は均一な面刺激に反応しませんでしたが、市松模様、縞刺激にはよく反応しました。図3Dのように均一な面刺激に反応したニューロンを赤い点で、反応しなかったものを緑点で示しますと、これらの領域には一様な面刺激に反応する細胞が多数集まっていました。これらの領域外においても均一な面刺激に反応する細胞が少数ながら存在していましたが、これらは主として方位選択性地図の特異点付近で記録されました。以上の結果は初期視覚野内において均一な面を表現する細胞の集団が存在することを示しています。
今の段階では、これらの領域が面の知覚にどのように関わっているのか、よく分っていません。しかし本研究においてもいくつか興味深い性質が明らかにされました。例えばこれらの領域で均一な面刺激に反応する細胞は面刺激のみ反応するのではなく、多くの場合は縞刺激の傾きに対しても選択的な反応を示しました(図3C)。これらの細胞は面を含む空間周波数が低い領域の刺激に反応しているのだとも解釈されます。このことは面の表現と輪郭の表現が全く別のものというよりは共通のメカニズムを持つ可能性を示しています。また方位選択性地図の特異点の機能はいまだよく分かっていませんが、本研究で示された面領域との関係やあらゆる傾きの情報が特異点に収束していることから特異点が傾きの情報に制限されない面の表現に関与しているのではないかと考えられます。またこれらの領域は17/18野の境界付近に見つかりました。ではなぜこの部分に限られるのでしょうか?初期視覚野では左右の大脳半球は視覚入力の大半を反対側の視野(対側)より受けていますが、17/18野の境界付近ではわずかに重なり合っており、脳梁を介して左右の大脳半球間に結合があることが知られています。例えば図3のCell 3, Cell 4でも受容野は同側にあります。一つの可能性としてこれらの領域が左右の視野にまたがる面を連続した面として知覚するための橋渡しのような役割を持っているのではないかと考えられます。これらの領域が面の知覚に果たす役割を解き明かすことが、今度の課題といえます。

[ 33] ネコ視覚野における均一な面の表現の機能構築
[引用サイト]  http://www.nips.ac.jp/scinfo/2003tani.htm



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