近いとは?

■皆様ご存じのとおりサウンドトラックが発売されていない「天国に近い男」。けれど車の中で、通勤・通学列車の中でもこのドラマを楽しむには、どうしても欲しいサウンドトラック。ビデオテープからカセットテープへ音声だけ落とすという荒技もあるけれど、それも大変……。じゃあ自分で作っちゃえ! というわけでこのコーナー。ま、気分だけでもね
●「Dude」AEROSMITH:エアロスミスのアルバム「BIG ONES」に収録。四郎が奔走するシーンのBGMとしてよく使われました。パンチの効いたロックンロールでシチュエーションに良く合っていましたが、実はサビでひたすら繰り返される歌詞は「Dude like a lady(女みたいな奴)」。
●「I WANT TO BACK」Nokko:村上”ポンタ”秀一のアルバム「Welcome to My Life」に収録。Jackson5の同名の曲をNokkoがカバーしたものです。これも四郎が走り回るシーンで使われました。最終回、天童と別れた後の四郎が会社にいるシーンでの使われ方が印象的でしたね。でも、天童と別れた後に、「I WANT YOU BACK」って……スタッフの裏技ではないと思うんですが。
●(「未知との遭遇」より)映画「未知との遭遇」のサウンドトラックに収録。第5話で、四郎とケンカをして外で眠る天童のもとへ命題が降ってくるシーンに使われました。
■ゴールデンウィークはとにかくコンサートのため名古屋へ出なければならない。しかし、その後をどうするか。関西からわざわざ名古屋まで出てきて直帰というのもつまらない。かといって観光地はどこも混雑が予想される。では、どうせ東京へ出て行かねばならない用事もある、「天国に一番近い男」のロケ地めぐりを行ってみてはどうかという提案を試みた。甘粕四郎は東京のどこかにきっといる。その思いを、実際に彼が歩いた場所で確かめてみたかった。とまではいかなくとも、ファンのひとりとして十分にミーハー的な好奇心は持っている。話はとんとん拍子にまとまり、計画を立てて迎えたゴールデンウィーク。TOKIOの名古屋コンサートを終えた私たちは、はやる心を抑えて名古屋を出る夜行バスに乗り込んだ。
■5月3日、夜行バスから降り立った東京は穏やかな晴天。まだ5:25という時間だが、視界ははっきりとしている。早朝の東京駅の雰囲気はいつも同じだ。大都会の真ん中でありながらどこか寂しげで、コンコースや駅前広場では夜行バスの乗客が大きな荷物を引き摺っている。その中に紛れつつ、私たちは既に営業を開始しているJRのホームへと移動した。まずは山手線で新橋まで。その先にある新交通ゆりかもめに乗車するのが目的だが、新橋駅前(1)といえば「天国に一番近い男」第8話で四郎の兄・一郎が選挙演説を行った場所。こちらもぜひ見ておきたい。列車が新橋駅に到着し、まだがらんとした山手線の車両から降りた私たちは、改札を抜けて駅の北口へと歩いた。
■まさに駅前である。高架をくぐると、見覚えのあるロケーションが突然目の前に開けた。確かに第8話のあの場所だ。目印となる、ビルの壁に掲げられた「ニューしんばし」の文字も見える。まだ6:00前、人影はなく、辺りは閑散としている。どちらかというとうらびれた印象が強い。寂しさを煽るかのように、ここを集会場にしているらしい鳩が数羽集まって頻りに小首を傾げている。そして、「意外に狭いな」が私たちの共通した印象だった。たぶんサッカーのコートの半分ほどの広さしかない。やはりフレームの切り方と人の賑わい方、また照明の使い方などで、かなりイメージは違ってくるのだ。それにしてもわずか3ヶ月前に、イエロー・オーカーのダッフルコートをもっさりと着込み、まるきりもたもたとした小学生のような格好で大きなリュックを背負った甘粕四郎がここに立っていたのかと思うと可笑しい。
■ついでにと駅前の24時間営業の立ち食いそば屋で朝食を軽く済ませてから、ゆりかもめに乗車。GWらしく大きなイベントがあるようで、「帰りの乗車券を先にお求めください」の表示が出ている。が、さすがにこの時間だと人影は疎らだ。未来的というよりSFチックと言ってしまいたいような湾岸地域の建物を眼下に眺めつつ、「船の科学館」駅(2)で下車。降車客は私たち4名だけだった。
■新橋駅前同様非常にわかりやすかったのでお気づきになった方も多いのではなかろうか。ここが第9話のラストシーンに使われた場所である。駅を出るとまず巨大な船舶そのものが博物館になっている「船の科学館」が目に飛び込んでくるが、振り返ってみればそこは「天国〜」ワールド。歩道へと繋がるゆりかもめの下車口は、第9話で四郎を助けるべく毒グモを持った麻人が駆けてきた場所だ。またドラマ同様死にかけた四郎を天童が背負って歩いた舗道もこの先にある。ドラマではわからなかった、大きく上下に彎曲した坂を下って上って約100メートル。船の科学館の付帯施設である極地観測船「宗谷」「羊蹄丸」を舫いでいる埠頭こそが第9話、死にかけた四郎を天童が抱き留めていた場所だ。街路樹の並びから場所も特定できる。まさにここで、あの感動的なシーンが撮影されたのだ。早朝のいまはただ古びた船が並んでいるだけの埠頭だが、夜になり船がライトアップされるとあれほどロマンチックな光景にもなるのだろう。思いを巡らせながら、私は左方向を見た。天童が切々と嘆きつつ、四郎を背負って歩いた舗道が見える。懐かしい。離れがたいような気持ちさえ生まれてくる。あのとき彼らが見せてくれた胸いっぱいの思いが私の中へ滑り込んでくる。いいドラマだった。本当に。
■5月4日、フロントからの「朝食をお持ちしましょうか」の電話で目覚める。はいと返事をして電話を切ったのだが、辺りはまだ薄暗い。さていま何時なのだろうと小首を傾げたとき、ドアチャイムが軽やかな音で鳴った。「おはよう」と私。別室宿泊組の2人だ。「いま何時?」質問の答えに驚いた。午前9時である。私は旅行に出るとまず寝過ごすということのない人間である。グループで旅をしたなら、ほぼ一番最初に目覚めている。しかし、今朝は完全に駄目だった。午前零時過ぎに眠った昨日はともかく、一昨日が夜行バスだったこと、さらにその前の夜の睡眠時間がわずか90分だったということがここで効いたのだろう。また、ホテルの窓が完全に日光を遮断するものだったことも原因だったようだ。2重になった窓を開けると、弱いが確実な明かりが部屋の中に満ちた。
■とにかくここで9:00出発という予定は見事に崩された。まあかなり余裕を持ったスケジュールにしてあるから大丈夫だろう、と身支度を整え、10:30、なにごともなかったかのようにホテルを出発。天候はくもり。だが、アスファルトが真っ黒に濡れている。ゴールデンウィークには雨が降る、という嫌な常識を思い出した。なにしろよく歩くコースなのだ。このまま曇天を保ちつづけてもらえれば良いが。
■まずはJRで新宿へ。コンコースには傘を持った人が多く窺える。巨大な駅の向こうに見える空が暗い。昨日とは打って変わって低い気温と高い湿度を肌で感じる。雨だ。仕方がないと諦めて傘を購入した。軽さと安さだけが取り柄の傘をさし、早速雨の中へ突入。ホットパンツから剥き出しの両脚に雨の冷たさを感じる。昨日までの汗ばむ陽気が嘘のようだ。
■さして迷うこともなく、新宿アイランドタワー(3)へ出た。新宿から高層ビル群へ向かって徒歩5分、ヒルトン東京の手前にあるショッピングモールで、近代的なスタイルのよさを重視して設計された新宿副都心という街に違和感なく溶け込んだ一角だ。ビルはゆるいC字形に建設されており、中の部分は大きく掘り抜かれて喫茶店に、周囲は舗道になっている。そしてこの舗道こそが第1話で四郎が天童と出会った場所になる。さらに細かな場所を特定すべく、舗道をぐるりと歩いて見え方をチェックした。やがて、ここだ、という場所に行き当たる。ビルを背にした、同じ舗道の中でも広さのある空間だ。なるほどここに四郎と天童が立ち、後ろにカメラなど機材隊が陣取ったのだろう。「天使」から引っ張ったのであろうシスターの集団が姿を現した階段もちょうどよくフレームに収まる。あらためてドラマ制作という作業の綿密さを感じた。
■新宿駅へ戻り、今度は小田急線の新宿駅へ。JR駅より混雑しているのは、JRに比べれば乗車料金が割安だからだろうか。ホームのつくりは大阪の近鉄上本町駅と相似しているが、各駅停車の普通列車専用ホームは地下にあったりして少し分かりづらい。ともかく、ホームへ滑り込んできた列車にそのまま乗車。車窓に見えるのどかな住宅街に、東京にはこんな場所もあったのか、と新鮮な気分になる。
■まるきり下町ふうの代々木八幡駅で下車。手元と路肩の地図を確認しつつ、東へ向かって歩く。東京という場所はいたるところに住宅案内図が設置されているのがありがたい。因みに反対の初台方面へ向かえば第5話で四郎がスケートボードで走っていた道路へ出ることができる。また、余談だが、途中のローソンでTOKIO武道館追加公演チケット販売告知のポスターを発見。ツアーパンフレット表紙のカットを転載しただけのものだが、なかなか格好良く仕上がっていた。
■やがて道沿いに「だんご3兄弟」の幟が見えてくる。NHKだ。この敷地の広いこと、歩けど歩けど端へ辿り着かない。話し相手がいないと辛い行程だったのだろうな、と思い始めたとき、右手に渋谷公会堂が見えた。左側は国立代々木競技場(4)だ。この前の広場が、第8話の冒頭で天童が天使の羽根をつけていた場所だ。一郎兄ちゃんの選挙ポスターが掲示されていた場所でもある。また、この国立競技場が見える高層ビルの一室に四郎の兄・二郎の弁護士事務所があるという設定になっている。
■この日は祭日らしく、生憎の雨模様ながら屋台が並び非常に賑やかな雰囲気になっていた。写真を撮影したあと、人込みから逃れるように西方向へ。とたんに周囲が寂れてくる。
■ここまでは比較的順調にスケジュールをこなしてこられたのだが、原宿の交差点が前方に現れた頃、突然雨が激しくなり歩を阻まれた。その色合いから「imac」と名づけた水色のゴムサンダルの中で足が滑る。歩道橋の階段を上るのが怖い。中途半端な寒さも相俟ってストレスがたまってくる。せめてものはけ口にと元気良く悪態ばかりついている自分に気付いた。さらに、辿り着いた原宿は大混雑。ジャニーズショップはともかく、なぜか開店1ヶ月のスヌーピータウン原宿店にまで行列ができている。扱っている商品の大半はデパートでも購入することができるのに、と不思議に思う。しかしとにかく雨と混雑がひどすぎる。この殺人的な人込みの中には長居したくないとタクシーを拾い、私たちは昼食を予定しているレストランへ急いだ。参宮橋4丁目の「アンフォール」だ。蛇足ながらランチは3,000円(肉・魚の一方を選択)および5,000円の2種類。
■ゆっくり時間をかけて昼食を終えたあと、参宮橋3丁目あたりの住宅街をうろついた。雨は一向に止む気配を見せないが、人込みがない分かなり余裕を感じる。しかし、やがて商業地へ入り、通りが賑やかになりはじめた。そして15:00、かなり迷いながらもなんとか「天現寺かばん店」(5)を発見。もちろん店舗はセットによるもので見目は異なるが、店の前の階段や樹木、看板の雰囲気はそのままだ。実際は貸しスタジオのようで、固く閉ざされた鉄の扉に夢の跡のような淋しさを覚えた。明治通りから一本入ったところにあるので、訪問するなら今回我々の通ったルートでなく、地下鉄明治神宮前で下車、明治通りを新宿方面へ向かうのが良いかと思われる。神宮前3丁目と同2丁目の境になる脇道を入れば、右手にこの建物が見えてくるはずだ。
■その明治通りを数分歩けば神宮前交差点(6)。言わずと知れた第1話「おまえの人生それでいいのか!」の電光掲示板が見えるところである。また最終話の「おまえの人生それでいいんだ!」の掲示板も同じもの。このとき四郎はなにかに足を載せて靴紐を結び直しているが、現場にそれらしきものは見当たらなかったので、おそらくセットだったのではないかと思われる。それにしてもこの場所、とにかく休日は人が多い。撮影は平日の早朝にでも行われたのだろうか。ご苦労様。
■神宮前交差点に隣接している地下鉄明治神宮前駅へ下り、今度は赤坂へ。これも非常にわかりやすいロケポイント、TBS赤坂スタジオ(7)である。駅を上がるとその上がすぐ第5話に登場した、TBS正面玄関前。四郎が天童よしみを追って奔走するくだりである。また、空を仰げば第1話のクライマックスおよび「ガチンコ!」の「ガチンコビジネス学院」にしばしば登場する屋上も窺える。国分校長の朗々とした歌声でも聞こえないものかと耳を澄ませてみたが、結局そんな幸運な遭遇はなく終わった。しかし、ここで「ガチンコ!」のポスターおよび垂れ幕を発見。垂れ幕は番組告知に使用されていた白い衣装のもので、四郎ヘアでふわりとした印象の松岡が懐しい。
■TBSホールで行われるらしい忌野清志郎氏のコンサート客とすれ違いつつ、地下鉄の駅へ戻る。今度は日比谷から都営三田線に乗り換えて芝公園方面だ。乗り換えから2分、御成門の駅を出るとすぐシンプルな遊具がセンスよく並ぶ公園へ出る。ここが第10話前半部に登場した都立芝公園(8)だ。岡本健一扮する殺し屋と四郎の、直接対決のシーン使われた場所である。雨の公園に人影はなく、厚い雲の下、四郎が腰を下ろしていたベンチも静かに濡れていた。また第3話で出勤中の四郎が鳥の糞を浴びたところや、第10話で殺し屋に殴られた天童が倒れていた場所もこの公園の一角になるが、こちらはいまひとつ正確な場所が思い出せない。入口付近の植え込みというキーワードだけでは、どこも同じように見える。また、ひと口に芝公園と言っても広い。遊具のあるこの場所と、道路を離れたところにある、東京タワーが正面に見える公園は、名前こそ同じ芝公園だが、実際に歩くとなるとまったく異なった場所に感じられる。蛇足ながら、別の一角にある芝公園は長瀬の初主演ドラマ「カケオチのススメ」のラストシーンや雑誌の取材時にしばしば使われた場所でもある。
■そろそろ空が暗くなってきた。時計を見ると17:00。日没が迫っている。このままJR田町駅まで歩くつもりでいたが、予定を変更してふたたび地下鉄に乗車。芝公園の駅ですぐに降り、地上に出る。地下の都営三田線に沿って通りを南へ向かって歩けば左手に戸板女子短大、右手にロケットの形をしたNEC(9)の巨大なビルが見えてくる。田町駅前のオフィス街の一角であるこのあたりが、第6話で四郎が人質にとられた麻人のため1億円を求めて走り回っていた場所だ。雰囲気は感じられるのだが、ドラマ本編でも日の翳った暗い映像になっていたため、はっきりと風景が思い出せない。
■さらに歩いてニチメン本社ビル(10)前へ。ここは四郎たちのmonoカンパニーが入っている大商社・イチモツグループの本社ビルとして使用され、第1話から頻繁に作中に登場した。ドラマで見るとおり、実に堂々とした姿だ。贅沢なスペースがビルの巨大さを感じさせる正面玄関前からはるか高みにある屋上を見上げつつ、そこからぶら下がる第1話の四郎の姿を思い描いた。どうでもいいことなのだが、やはりどう考えてもこの屋上から落ちてトランポリン程度で助かるわけがない。
■ニチメンのビルを過ぎたところで第一京浜と交わる交差点には、「江戸城開城の地」の碑が立っている。今日訪ねて歩いたのはドラマの記念地だが、ここは歴史のメモリアルポイント。過去の偉人に敬意を払いつつ見送って、JR田町駅へと長い階段をあがる。狭い駅だという印象があるが、コンコースはいつもほどよく混雑している。屋根にすっぽり覆われた弧線橋の上を歩いて線路を横断し、駅の構内を横断するかたちで階段を降りると、具合よく街角案内図に対面する。次のチェックポイントはここから数百メートルの芝浦・グランパーク。今日の路程もあと少しと歩は早まるが、日没が近づくに従って雨風がひどくなりはじめた。
■目指すグランパーク内の流水書房(11)に辿り着いたときにはすっかり嵐。さすがに音を上げて書店内へ駆け込んだ。整然とした店内が気持ちを落ち着かせてくれる。グランパークという名に相応しく、公園とショッピングモールが一緒になったような敷地の中にあるこの書店が、第1話の冒頭で予備校をさぼったのであろう四郎がコミックを読んでいた場所だ。
■しかし辺りはどんどん宵闇に紛れ始める。激しい風雨といえど、地図を頼りに歩かなければならないような場所で夜になってしまうのは辛い。先刻よりはいくらかましと、思い切って雨の中へ飛び出した。次は運河を渡る百代橋。地図を広げられる天候ではないため記憶を頼りに歩いた。ここからさほど距離はないはずだ。歩道橋に上るとかたちの整った橋が見えた。あれだ、と皆で色めき立つ。
■が、近寄ってみるとどうも印象が違う。第6話のクライマックスで使用された橋であるはずなのだが、橋の長さが短すぎるし、「バイバイ、天童」ときれいな目をした四郎もたれかかった街灯もない。しばらく周囲を歩いてみたが、それらしきものは見当たらない。けれどこの百代橋、見覚えのある橋でもあるのだ。なにか別のシーンで使用されていたのだろうか。だがとにかく時間がない。引っかかる気持ちを抑えつつ、私たちは帰途についた。
■しかし、ふと顔を上げると運河の向こうに橋が見えた。これだ、と閃いた。橋の中央に街灯が立っている特殊なデザイン。確信はできない。けれどここまで来たのだ、行ってみよう。夜の帳が下り始めた200メートルほどの道のりを、私たちは急いだ。
■人工的な匂いの強い先刻までの通りに比べると、この道は庶民的な印象が強い。駅が近いからだろう、人通りも増えた。運河に架かった橋も同じようなイメージだ。確かに橋の中央に特徴的な街灯はあるが、四郎が天童と言葉を交わしていた橋はもっと洗練されていたような気がする、という疑惑が消えない。もっと広く長い橋だったような気もする。やはり違っていたのだろうか。しかし、看板が並んだその橋の袂から、いまにも「天童!」と四郎が飛び出して来そうな気がするのも事実なのだ。集中して正確なドラマの画面を思い出そうとするのだが、なにしろこのシーンを最後に見返したのははるか2ヶ月も前の話である。夜のシーンだったということもはたらいて、記憶に残っているのは彼らの言葉ばかりだった。
■まあ二度と来られない場所でもなし、と諦めて、私たちは田町の駅からJRで恵比寿へと移動した。その列車の中でふと思いつき、私はポケットにしまったままだったメモを見直した。すると、そこには「新芝橋」(12)の文字が。百代橋ではなかったのだ。地図を見ているうちに覚え違いをしていたのだろう。さらに同行者から、先刻の橋に「新芝橋」の文字があったとの目撃談が出た。ということは、あれで正解だったのだ。完璧に周囲を整え、カメラのフレームを通した映像と実際の場所では印象が異なる、と今日何度も学習していながら気づかなかったのだから我ながら笑い出したくなってしまう。あのときあの街灯に気づかなければ、いまごろ臍を噛む思いでいたのに違いない。これはひょっとしてクロムハーツを身につけた天使のお導きかな、と、なんとなく愉快な気分にもなってくる。また、あとから判明したことだが、最初に間違えた百代橋はドラマ「ラブジェネレーション」などに登場した場所らしい。なかなか絵になる橋なので、ドラマに使われることも多いのだろう。
■恵比寿でJRから下車。恵比寿ガーデンプレイスは第3話で命題のビデオを見せた天童が四郎に電話をかけていた場所でもあるのだが、過去に訪れたこともあるので今回は省略してそのまま地下鉄の駅へと向かった。途中、コンコースの中に「天国〜」のるりさんこと松本孝美さんのポスターを発見。きれいな人だな、と思う。或いは美貌の四郎効果か、ドラマの中ではあまり感じることがなかったが、やはりこの人も相当にきれいな人なのだ。
■地下鉄で六本木へ移動し、首都高速3号渋谷線に沿って六本木交差点を南東へと歩いた。この先の道を曲がれば第11話で四郎がジープからバスを追いかけるシーンで登場した六本木トンネルに辿り着くのだが、さすがにすっかり夜になってしまったことからここも省略。そろそろ今日の終着ポイント「カフェ メナム」に辿り着く。なんということはない、ここは単純に「るるぶ東京」で「松岡昌宏さん御用達の店」として紹介されたエスニック料理店。六本木の駅から10分ほどで、大通りに面した3階建ての同店に到着。さっそく東南アジア系の店員が出迎えてくれる。店内は薄暗いものの、上品にまとまった洋風居酒屋の雰囲気。厨房のほか、1階にはバーカウンターがあり、席に届けられたメニューもドリンク類の豊富さが目を引く。また料理の方も、バーモンドカレーの甘口で育ち、辛いものを食べられない私でも十分に楽しめる内容となかなか取っつきやすいものが揃っている。やや割高ではあるが、店員の対応もよく、営業時間も午前4時までと長い。六本木へ来たついでに立ち寄るにはいい店ではなかろうか。雨の音を聞きながら夕食を済ませた私たちが店を出たのは22:00。長い一日がもうすぐ終わる。
■声が枯れるまで喋り倒したあとは泥のように眠り、翌朝目覚めたのは8:30。ベッドから起き上がり、遮光作用のある窓を開けると凄まじい風の音と目が開けていられないほどの強烈な日光。風はかなり強いが、空は完全に晴れ上がっている。昨日の大雨はなんだったのだろう。今日は特に予定を入れていないが、こう天気が良いとただ帰途につくのは惜しい気がしてくる。結局、残してあるロケ地・横浜へ向かうことにした。どうせ帰り道でもある。ゆっくりと朝の支度をして、私たちはJRに乗り込んだ。ゴールデンウィークの最終日、駅はどこも混雑している。
■そして辿り着いた横浜、桜木町の駅はこれでもかと言うような大混雑。帰省客が溢れていた東京の駅と違い、大型連休最後の晴天を遊び尽くそうと近郊から繰り出してきたのであろう家族連れが目立つ。混雑の中で邪魔になるのが背中に抱えた大きな鞄だ。今日はこのまま帰路に向かうからと総重量7kgほどであろう荷物を抱えたままやって来たのだが、あいにくコインロッカーはすべて使用中。どうも駅の利用客の人数のわりにロッカーが少なすぎる気がするのだが、ないものはどうしようもない。仕方なく3泊4日分の荷物を詰め込んだバッグを抱えたまま駅の外へ向かった。正午を過ぎて、日差しは眩しいほど強くなっている。昨日は寒さに鳥肌を立てていたが、今日は半袖でも暑い。肩にかかる髪をまとめ、昼食にとテイクアウトのサンドイッチを購入した後、バス・ストップまで歩いた。
■巡回バスでみなとみらい1丁目の「臨港パーク」(13)へ向かう。ちょうどインターコンチネンタルホテルに隣接する公園だ。桜木町の駅から車で5分ほどのそこは、ゴールデンウィークであるためだろう、海に面した広い敷地にはちょっとしたフェスティバルふうに屋台や遊具が並び、幼い子供を連れた若夫婦が群を成している。目的地「潮入りの池」はこの公園の端に位置する。さっそく公園を横断すべく芝生に足を踏み入れたのだが、ここにきて暑さが頂点を極めた。両足をしっかりと覆う革とデニムのパンツに耐えられなくなり、昨日も身につけてたホットパンツに穿き替える。一気に開放感が広がった。
■歩いて数分、前方に小さな運河のようなものが見えた。ここだ。海から水を引き入れて小さな池のように造り上げたこの場所が、第6話のラストシーン、四郎が雷に打たれたり、天童がるりさんに告白をしたりしたところだ。意外に狭い、という印象はあるものの、外観はほとんどドラマどおり。現場を覗いていたサトルがいた橋もちゃんと架かっている。インターコンチネンタルの半月形の建物も、ちょっとしたステージのようになった中州を通してドラマどおりに見える。これで今回のロケ地巡りも終了だ。私たちはほっとして腰を下ろし、テイクアウトしたサンドイッチを広げた。
■予想以上に楽しかった、というのが、全行程を終えての正直な感想だ。地図を片手に、ドラマで見たあの場所を探して歩く、という行為は、まるで「鉄腕!DASH!!」の実験を行っているような面白さもあった。時間と機会と、そしてドラマへの思い入れのある方にはぜひお薦めしたい遊びだ。公共の交通機関と徒歩だけでもかなりのポイントを見て回ることができる。現地で実際に見なければわからないような事柄もあり、大好きなあのドラマの世界が広がること請け合いだ。「面白いかも」とお思いになったなら、ぜひ一度試してみてはいかがだろうか。
(1)四郎ちゃんが「こげなタイプの政治家、見たことなか〜」とうっとりしていたところ。縮小するとちょっとわかりにくいですね(^^;)。
(7)TBS正面玄関。「オールスター番組対抗○○クイズ」とかのマラソンコーナーを見た方がわかりやすいかも。
(7)TBS正面玄関前。ドラマと同じくおっかけの人がいました。若い人だったけど(笑)。でも誰が中にいるのかは知らないんだって。そういうものなんですね。四郎ちゃんが天童よしみの車を追いかけていったところ。
(11)真新しい印象の、きれいな本屋さんでした。実際に四郎がいたところは、写真集のコーナーだったかな……。
(12)苦労した新芝橋。手前の交差点から撮ったのでかなりわかりづらいですが、中央の白いポールに注目。ここに凭れるようにして四郎が「バイバイ、天童」と言っていました。
(13)サトル視線だとこう見えます。手前で四郎が小春に告白をしてて、奥で天童とるりさんが対峙している形。確かにこの距離なら指輪が飛んでくるかもしれない……。
■6月8日、わたしは東京にいた。所用のためなのだが、真っ先に向かったのはJR田町駅。目指すは前回堪能し損なった新芝橋(14)である。時刻は午後5時。オフィス街が近いこの駅には、足早に通り過ぎるビジネススーツが目立つ。わたしはひとりホットパンツにTシャツという周囲から浮き上がった格好で、線路を渡る跨線橋を越えた。駅から吐き出される大量の人間は、殆ど皆が同じ方向へと歩いて行く。わたしの行き先も同じだ。人々の波にのまれないように、わざとゆっくりと歩いた。そして5分、あの橋が目の前に現れる。そうそう、これだった、と、橋の白い欄干に手を触れた。そこから見る歩道の中央には、風変わりな白い街灯が高くのびている。街灯を先まで追ったわたしの視線は、そのまま夕方の薄青い空をとらえた。既視感のようなものが体に甦る。いまわたしがいるこの場所で、何ヶ月か前に彼がこうしていたのだ。「ばいばい、天童」。想像するとなぜだか照れ臭くなる。家路へと急ぐ人々が次々と橋を渡ってゆく中で、わたしはこっそりと笑いながら欄干を離れた。
(14)運命の新芝橋。歩道が広いのは、駅前だということで歩行者の通行量がかなり多いからでしょうか。ドラマロケ地というところは、「広さ」をかなり重視して選択されるんだなあと思いました。
■さらに1週間後、わたしはふたたび東京にやって来ていた。今度はTOKIOコンサートのためである。日本武道館での2日間にわたるコンサートは、金髪から黒髪に戻りつつある松岡の「たまらーん!くやしかー!」も入って無事成功。すべてを終えた土曜日、わたしは友人らとともに池袋にある定宿でゆっくりと朝支度をしていた。時計を見ると午前9時。「『天国〜』のビデオ見ようか」。昨晩も用意されていたこのビデオ、なにしろあの最終話だったので、寝る前にはヘビーすぎるかと視聴を避けたのだ。しかし、いまはこれから一日をエネルギッシュに始めなければならない朝である。テープをデッキに入れ、わたしたちは再生のボタンを押した。
■最終話が始まった。「やだ、かわいそう」。そんな言葉がふと漏れる。その絆の深さを痛いほど知っている天童と四郎のふたりが、これから別れなければならない、そういったストーリーが待っていると知って冒頭部を見ると、そこにはまたべつの感慨がある。好きな人と離れたくないなんて、いつの時代も女の子の永遠の願いだ。しかし、そんなわたしをおいて物語はどんどんラストシーンへと展開してゆく。そこで気がついた。「違う!」。
■問題は殺し屋リー・ライチェンと四郎が対峙するくだりで発覚した。違うのである。5月のあの日、雨に濡れながら歩いた場所とは違っているのである。小ぶりのトランクケースを手に走ってきた四郎が天童に呼び止められるシーンは確かにあの芝公園横の歩道橋の周りで行われた。しかし、四郎とリーが携帯電話で話し合う、あのセンス抜群のシーンは、あのロケ地めぐりの際想像していた場所とは明らかに異なっていた。公衆電話、そして東京タワーへ向かって一点透視図状態に描かれる街灯と白い舗道。これは、もうひとつの芝公園だ。ドラマ「カケオチのススメ」のラストシーンで長瀬が永作博美とともに走り抜けた場所だ。やっちまったとため息が出る。まあそれでも行ってしまったものは仕方がない。永遠に来られない場所じゃなし、また来ればいいさ。
■そしてドラマはクライマックスにさしかかった。爆弾を持った四郎が外へ出る! 「あともうちょっとだったのにね」と四郎。人の感情が極まると、その姿はきわめて美しく見えるのかもしれない。明らかに松岡昌宏とは顔が異なるその人をブラウン管の中に見ながら、わたしの手はいつの間にか止まっていた。わたしに限らない。同行者の誰もが水を打ったように静かになり、部屋の中にはただ甘粕四郎の叫びだけが残されている。胸が痛くて唇を噛んだ。「どうせ」が口癖の無気力な青年に天使が与えたものは、人生を乗り切る前向きな姿勢だけでなく、この激しい感情でもあったのだ。ファイアスターターという言葉が思い浮かぶ。強烈という言葉が少しも大袈裟でない彼のなかの炎は、世界で最も激しい恋愛をした人のものに、とてもよく似ている。
■ゆっくりと、時間が流れてゆく。キュートなガール・ポップに乗せて、エピローグが綴られる。もはやエピローグである。甘粕四郎という人の物語が、その最後のページに向かって優しく終息してゆく。そしてラストシーン。この世で我々と同じひとときを共有した甘粕四郎は、静かに彼の居場所である物語の中へと還ってゆく。読み終えた長い本を深い感銘と共に閉じているような、年内にすべきことをすべてこなして迎えた元旦の日の出を見ているような、晴れ晴れとした視聴後感(そんな日本語はない)。いいドラマなあ、やっぱり。
演出を担当されていた戸高ディレクターが松岡の芝居についてコメントされているので必見。しかし……それは絶対カット割りが多く複雑なあなたの演出に合わせてたんだよとも思ったりするわたしたち。結局四郎の感情が迸ったシーンでは得意の演出で飾れなかったわけだし、松岡の「助かります」ってそういう意味でしょう。だったらいい子ちゃんにならず最初から好きなように演っておけばよかったね、松岡さん。(いや確かに……最近彼のコメントを見て、まあ松岡も言語表現の巧みな人じゃないからこういう言い方になっちゃうのかな、と思いつつも、TV慣れしてるよなと感じるとこがなくはなかったんだけど……戸高Dについてはとりあえずそう思う。でも、そのレベルの芝居を期待されてしまうって実はすごいことかも……芝居経験が長いとはいえ22歳の若造を、役所広司と比べるかな普通(^^;))「サイコメトラーEIJI」のEIJIの叫び、「俺はあんたの道具じゃねえ!」をあの堤演出のため「俺は」「あんたの」「道具じゃねえ!」の3つに分けて撮影されたとき、「道具」をなにかと(←忘れた(^^;))言い間違えてもまったく気づかなかったというほど「感情」を演じられるあなたですから。芸はないけれど長回し・定点カメラで撮影されてた8話・10話(片岡D担当)あたりの方が松岡的には演じやすかったんじゃないのかな、と。ま、最終回ではお互いに演りたかったこと・見たかったものが一致したようでなにより。そう、役者さんって、特にテレビドラマの役者さんって感情を創作・表現するだけでなくそれを適切に再生・停止しなければならないから、本当に大変だなあと思いますね。誰だったっけ。「タイタニック」でディカプリオの相手役をされてた女優さんが、激しい感情のシーンを撮影したあと2時間泣き続けたとなにかで見ましたが、ふつうはそうなっちゃうよな、と思うのです。
すごく楽しかった。泣いたり笑ったり考え込んだり、共感したり。感情が動くことを感動というなら、本当にこんなに感動した作品もなかった。
パワーを感じた。オフィシャルHPが存続するっていうことで、じゃあこれから毎週金曜日には第1話からひとつずつ見返していこうかな、とか思ってたけど、この3ヶ月をクリアしたわたしに、それをする体力はとても残ってない、と自己判断するくらいに(笑)。
そして愛しいキャラクター達。甘粕四郎って絶対どこかにいると思う。そして、みんなで笑ったり泣いたり成長したり、天童との、宝石みたいな思い出の日々を思い返してみたりしてるんだと思う。
ひとつだけ心残りをあげるなら、四郎と天童の間にあった「情」だな。成長した、だけど四郎は一番大切な友達を失った、そうじゃないのかな?
ラストシーンの四郎の晴れやかな表情を見ると、彼は天童からの、「生きてくれ」っていう叫びを抱きしめることで、失った友達という心の穴を塞いでいるのかな、とは思うことはできるけれど。
「さあこれからは現実だよ」。なんだかそう言われたようなラストシーンだった。夢から醒めて、ちゃんと歩いて行かなきゃならない。天使はもうどこにもいない。
そして、ずっと役者・松岡ファンだったけど、こんなに素晴らしいドラマで堂々と主役を演じているのかと思うと、彼、本当にすごいなあ。惚れ直したよ。最近はどうも「松岡くんのイメージで」っていう指定がありありと窺える役ばかりで不満だったけど、このドラマが、彼の新たな魅力を引き出してくれた! そういった方面でも、すごく「特別」だったドラマだった。
キャストの方も含めて、スタッフの方々の、このドラマへの愛情をダイレクトに感じることができた、それが一番の収穫だったように思う。作品を与える、作品を視聴する、というだけの一方的な関係じゃなかったってことが(松岡の記事をまったく掲載できない、という状況は残念だったけど(^^;))。
スタッフの方にも次の仕事が控えてるんだろうとは思うけど、こっそり、夏や秋の「四郎くん」の様子なんかを覗き見できればいいのにな、と、思ったりして。

[ 177] 天国に一番近い男
[引用サイト]  http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Kouen/8441/drama/heaven.htm



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