時折とは?
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「それに……なんというか、それほど親しい友達ではなかったんだ、おれたちは。少なくともおれは、今電話を貰うまで、あいつのことを思い出しもしなかった。そう、思い出しもしなかったんだよ……」 「貧乏なやつだったんだよ。もちろん、おれたちの子どもの頃は日本全体が貧乏で*3、全員似たり寄ったりの酷い暮らしをしていたわけだけど」 「だからこそなのかもしれないな。その中でも目立って貧乏な人間を貶めることで、みんな憂さを晴らしていたんだろう。要するに、あいつは苛められていたんだ。酷くね」 「おれは友達には恵まれていたし、あいつみたいに苛められていたわけじゃない。だけど、おれは足が悪いだろう? それで上級生にからかわれたりしたこともあったし、あいつを苛めようという気にはなれなかった」 「だから、たまにあいつと一緒に遊ぶことはあった。遊んでいて一番楽しい相手ってわけじゃなかったよ、正直に言えばね。おれにはもっと仲の良い友達は他にいたんだ。でも、あいつにはそんな友達はいなくて。おれにとっての『たまに』があいつにとっては、大きなことだったんだ。おれにとっては『たまに』でしかなかったのに」 「あいつが遊びに来て、ホットカルピスを出したことがあって。それは別に、おれの家にとっては特別なことじゃなくて。だけどあいつは喜んでいた。何度も何度も言ったよ、『シロイの家で出されたホットカルピスは本当に美味かったなあ。あんなに美味いものは初めてだったなあ』って。ただのホットカルピスだぞ? ただの、たまに遊ぶだけの相手が出したものだぞ?」 「おれはそれが時々悲しくてやり切れなくて、だけどだからっておれがあいつともっと遊ぶってこともなくて。だって他に友達がいたから、しょうがないんだけど、それがよけい寂しくて」 「あいつがあの後、どんな風に生きたのか知らない。あいつの人生がどんなものだったのか伝わってくるほど、おれはあいつの近くにいなかったから」 「あいつは死にかけてる。おれと同い年で。この歳で。まだ死ぬには若すぎるのに。絶対に若すぎるのに」 「なんなんだ、これは。どうしてこんなことが起こるんだ? この世界は、時々ほんとうに酷すぎる。そう思ってしまうよ」 「なのにおれは、あいつに会いにいかない。遠すぎるから。それほど親しくはなかったから。そんな理由で」 「ああ、うまく言えない。まとまらない。とにかくお前は、そういうことも起こるんだってことを覚えておけ」 父ネコヒコに言われるまでもなく、私はこの話を決して忘れないだろうと思いながら、父の言葉に耳を傾けていました。 私はその日、風呂の中でひとり、膝を抱えてぶくぶくと湯舟の中に沈み、ほんの少しだけ、泣きました。ナニカが悲しくて。ナニカが苦しくて。 *1:このシロイは私のことではなく、私の父ネコヒコ(仮名)のことでございます。判っていらっしゃるとは思いますけど、念のため 残酷な現実と言うのはありますね、確かに。昨年天に帰った父にも、父を慕ってくれ、親友とも思ってくれる、父にとってはさほど……と言う方がいることを、子供のころ聞いた記憶があります。(それこそ、これ読んで思い出した)たぶん、父は思い出さなかったんだろうなぁ、と、寂しく思いながら…… そういう事は人と人とのコミュニケーションにおいて、よくある事なのかもと思いました。ちょっとさびしいけれど。当人は何と無く適当に言ったんだろうなーと思いつつも、言われた方は嬉しかったりする言葉とかって結構ありますし。もしかして行為者の何気ない言動の中に時たま、その人の本性の優しさなりが現れている場合があって、その印象が受けとめる側の心に作用して、良い思い出になっていくのかなー。 とても悲しいことですが、この地上は悲しみに満ちています。俺にとって俺の周りにいない人ってのはいてもいなくてもいい存在で、そいつらが死のうと俺には何の影響もないわけで、遠くで開戦のラッパが吹かれてもテレビの中の出来事でしかないわけで、その爆撃一発で何万の命が失われるのを頭では理解していても実感としてはわからないわけで、知人がバイクで事故っても俺には関係ないわけで・・・。人って悲しいです。 お父さんがそのひとのことをかわいそうに思ってくれたというだけで、すこしだけ気持ちが救われました。遠くでも哀悼してくれるひとが居てくれたということが切ない。この気持ちは、悲しいのではなく、哀しいと書いた方がいいのかな・・・。 |
[ 175] 時折、世界は残酷で - wHite_caKe
[引用サイト] http://d.hatena.ne.jp/white_cake/20061202/1164985512
